彼が恋した華の名は：2

真壁了、犬の生活🐕

真壁了、昇天する🐕

「キャイン！」

　コロンと転がるが、真壁は負けじと再び咬み付く。

　同じように、一夏もまた果敢に反撃しようと暴漢たちの足へと咬み付くが。

　如何せん、その小さな体では限界がある。

「邪魔なんだよ！」

「キャン！」

　容赦なく蹴り上げられ、一夏は壁に叩きつけられた。

『おい、大丈夫か!?』

『……ってぇ……』

　真壁の声に、一夏は小さく弱々しい反応を示したが、気を失ったかそのままクタリと身体を横たえた。

　動かなくなったポメラニアンに対し、男たちは何の感慨もないらしい。

　ざまーみろと嘲りながら、聖の身体を抱え直す。

「犬っていっても、あれじゃあ番犬にはならないな」

「ああ。ってか、このクソ犬もいい加減にしつこいな！」

「ギャン！」

　男に踏みつけられ、真壁の抵抗は封じられる。

　小さな仔犬の身体が軋み、あちこちからボキリという嫌な音が鳴る。

『う――このままでは……』

　目の前が赤くかすみ、意識が遠くなる。

　ああ、このままでは、聖を護るどころか己の身さえ護れないまま死んでしまう。

　せめて、仔犬ではなく成犬の姿であれば。

　ボクサー犬なのだから、それなりに番犬として聖の役に立ったハズなのに。

　可愛い仔犬のままでは、聖を護る事など到底不可能だ。

――――いいや！

　そもそも犬の姿のままでは、聖の身を護る事どころか彼の恋人にもなれない。

　可愛い愛玩動物のまま、一生を終えるだけだ。

　聖は真壁を愛するだろうが、それは「飼い犬」に対しての愛情だ。

　命を燃やすような恋でも愛でもない！

『聖さん！　オレは――』

　グッと身体に力を入れると、真壁は残る力を振り絞って、咆哮を上げた。

「オレは、何があろうと生涯あなたを愛して、必ずあなたを護り続けます!!」

　刹那、小さな犬の身体が光り輝いた。

「っ！」

　男たちは、目の前で起こった信じられない光景に驚愕したが、それも一瞬。

　聖の上体を抱え上げようとしていた男の顔面に渾身こんしんの右ストレートが。

　そして、聖の足を持ち上げようとしていた男の脇腹に、必殺のリバーブローが突き刺さった。

　　　🐕

　真壁了。

　現在は、ジュピタープロダクションの社長秘書をしているが。

　学生時代は、インターハイチャンピオンになった事もある、元ボクサーであった。