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2 Unexpected
2 Unexpected
しおりを挟むユウの反応は、何とも微妙だった。
「声の調子はどうだ? 体調も変わりないか? 久しぶりに、旨いメシでもどうだ?」
差し入れを手土産にしつつユウのマンションを訪れ、出来るだけ自然な口調で、
「そうそう、最近変わったことは無かったか? ジンというヤツの名前を最近聞いたんだが――」
と、探りを入れようとしたところ、
「聖さん!」
突然顔色を変えられ、聖の方が大いに焦った。
「な、なんだ!?」
「大丈夫ですか?」
「なにが?」
「――いえ、安心してください。聖さんは黙って、大船に乗った気でオレに任せればいいんです」
「? あ、ああ」
なんだかよく分からないが、ユウは聖の顔を見ながら、キリっとした表情で力強く頷く。
「オレも男です。必ず決着をつけますよ」
「『決着』?」
「これ以上、ジンについて語ることはないです。今までお世話になった分、今度はオレの番です」
そう断言すると、ほれぼれする様な綺麗な顔で、ユウはニッコリと笑った。
困惑する聖は、その決着とやらが何なのか聞きたいところであったが、凛々しい智天使ように黙したまま深く頷く相手を前にしては、もう何も問い質す事は出来なかった。
◇
「ジンの連絡先は分かったか?」
「いえ、その――相手方の事務所に問い合わせたんですが、所属モデルの個人情報までは無理だと。事務所を通してアポを取ることは可能ですが、どうしますか?」
真壁の報告に、聖は苦々しくチッと舌打ちをした。
「何が個人情報だ。どうせ、マーメイド企画が一枚噛んでいたファッション雑誌の枠を、ウチが搔っ攫ったのを根に持ってんだろ」
「それは、あるかもしれないですが――」
数年前からモデル部門も立ち上げたジュピタープロダクションは、モデル事業でも利益を即上げるべく、社長の聖自ら積極的に売り込みに掛かった。
それが功を奏し、今やジュピターは、大手モデル事務所が独占していた市場を破壊する勢いである。
この業界、常に足の引っ張り合いはある。
それこそ日常茶飯事だ。
向こうも負けじとアレコレ画策したに違いないが、結果、勝ち残ったのはジュピターであっただけの話である。
この世は弱肉強食だ。
恨まれる筋合いなど無いと言いたいが、それまで市場を握っていた身としては面白くないだろう。
(しかし、あのユウの反応は予想外だったな。ジンに脅されているような雰囲気ではなかったが……?)
どうも、聖の事を慮って、言葉を濁しているような感じだった。
黙したままで聖を見つめる、そんな慈愛に満ちた天使のようなユウを前にして、聖は借り
てきた猫のように大人しくなりながら、お茶を飲むしか出来なかったワケだが。
果たして、モデルのジンという男は敵なのか?
他人に対する時のように、まさかユウの首根っこを掴まえて『洗い浚い吐きやがれ!』等と、間違っても言えなくて。
「――――社長?」
「……」
「聖さん!」
「あ? ああ……」
聖は咳払いをすると、ガタっと立ち上がった。
そのままコートに手を伸ばし、真壁を見遣る。
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