彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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 ユウの反応は、何とも微妙だった。

「声の調子はどうだ? 体調も変わりないか? 久しぶりに、旨いメシでもどうだ?」

 差し入れを手土産にしつつユウのマンションを訪れ、出来るだけ自然な口調で、

「そうそう、最近変わったことは無かったか? ジンというヤツの名前を最近聞いたんだが――」

 と、探りを入れようとしたところ、

「聖さん!」

 突然顔色を変えられ、聖の方が大いに焦った。

「な、なんだ!?」

「大丈夫ですか?」

「なにが?」

「――いえ、安心してください。聖さんは黙って、大船に乗った気でオレに任せればいいんです」

「? あ、ああ」

 なんだかよく分からないが、ユウは聖の顔を見ながら、キリっとした表情で力強く頷く。

「オレも男です。必ず決着をつけますよ」

「『決着』?」

「これ以上、ジンについて語ることはないです。今までお世話になった分、今度はオレの番です」

 そう断言すると、ほれぼれする様な綺麗な顔で、ユウはニッコリと笑った。

 困惑する聖は、その決着・・とやらが何なのか聞きたいところであったが、凛々しい智天使ように黙したまま深く頷く相手を前にしては、もう何も問い質す事は出来なかった。

   ◇

「ジンの連絡先は分かったか?」

「いえ、その――相手方の事務所に問い合わせたんですが、所属モデルの個人情報までは無理だと。事務所を通してアポを取ることは可能ですが、どうしますか?」

 真壁の報告に、聖は苦々しくチッと舌打ちをした。

「何が個人情報だ。どうせ、マーメイド企画が一枚噛んでいたファッション雑誌の枠を、ウチが搔っ攫ったのを根に持ってんだろ」

「それは、あるかもしれないですが――」

 数年前からモデル部門も立ち上げたジュピタープロダクションは、モデル事業でも利益を即上げるべく、社長の聖みずから積極的に売り込み・・・・に掛かった。

 それが功を奏し、今やジュピターは、大手モデル事務所が独占していた市場を破壊する勢いである。

 この業界、常に足の引っ張り合いはある。

 それこそ日常茶飯事だ。

 向こうも負けじとアレコレ画策したに違いないが、結果、勝ち残ったのはジュピターであっただけの話である。

 この世は弱肉強食だ。

 恨まれる筋合いなど無いと言いたいが、それまで市場を握っていた身としては面白くないだろう。

(しかし、あのユウの反応は予想外だったな。ジンに脅されているような雰囲気ではなかったが……?)

 どうも、聖の事をおもんばかって、言葉を濁しているような感じだった。

 黙したままで聖を見つめる、そんな慈愛に満ちた天使のようなユウを前にして、聖は借り
てきた猫のように大人しくなりながら、お茶を飲むしか出来なかったワケだが。

 果たして、モデルのジンという男は敵なのか?

 他人に対する時のように、まさかユウの首根っこを掴まえて『洗い浚い吐きやがれ!』等と、間違っても言えなくて。

「――――社長?」

「……」

「聖さん!」

「あ? ああ……」

 聖は咳払いをすると、ガタっと立ち上がった。

 そのままコートに手を伸ばし、真壁を見遣る。
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