彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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「そんな大したことは言ってない」

「――ユウは、外を出歩くよりも、マンションに籠って曲作りに没頭しているのが何よりも楽しいという子だ。あの子と、お前のような野蛮な輩がどうやって知り合った?」

 人嫌いな面のあるユウは、あまり他人との接触を普段から好まない。

 独りの世界に没頭して、時を忘れたように綺麗な声で歌い続ける、聖の大切なセイレーンだ。間違っても、このような粗暴な男とは関わり合いになるハズがない。

「あの子は、何故かオレの心配をしているようだった。貴様、どうやってユウと接触して、何を言った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 険を孕む聖の眼差しを受け、ジンは小馬鹿にしたように笑う。

「畠山ユウは有名人だし、男のモデルの恋人の存在も公表しているからな」

「っ!?」

「オレだって、モデルだぜ? あんたは知らないようだが、オレは柊・タルヴォ・零と子役モデルの頃に同じ事務所に所属していて、ガキ向け雑誌で共演した事もあるんだ」

「なんだと?」

 聖にとっては、未だ受け入れがたい事であるが――――零は、ユウの恋人だ。

 それで、合点がいった。

(そうか……こいつは零のツテを使って、ユウに近付いたのか。大方、一緒に仕事をしただのダチだのと騙って近付いたな?)

 真っ白い心を持っているユウだ。

 きっと、ジンの言葉を言われるままに信じたのだろう。

 しかし、聖のことは何と語ったのか?

「気になる?」

 揶揄うような言い草に、聖はムッとする。

 ここ何年も、男たちを手玉に取って、転がすように手の平で操るのは聖の方であった。

 それなのに、今の自分は逆になっている。

 ジンの一挙手一投足に過敏に反応して、警戒する猫のように毛を逆立てている状態だ。

――――不愉快だ。とても、気持ちが悪い。

「あんた、正直だな」

 全身から不機嫌のオーラを発散する聖を見て、ジンは面白そうに笑う。

「ハハハ……オレの目的は、とても単純だぜ?」

「『単純』だと?」

「あんたに、興味があったのさ」

「酔っぱらいのクセに、何を言っているんだか」

 ジンの身体から発散される濃い酒気に顔をしかめながら、聖は舌打ちをする。

 こいつは、大物政治家のバカ息子を巻き込んで刃傷沙汰を起しているような男だ。

 芸能界に残っていられるのも、あちこちのタレントの弱みを握っては、しぶとく業界で粘っている所為だという。

 モデルを生業にしているだけあって、身長やプロポーションを含む全体の容姿は整っているが、それよりも全身から漂うような腐り淀んだ空気の方が濃い。

 零と、同じくらいの年齢にしては――――その倦怠感たるや、まるで倦んだ老人のようだ。

 短い頭髪は七色に染めていて派手だし、孔雀のスカジャンは夜目にも目立つ。

 これぞ芸能人というで立ちだ。

 だが……。

 瑞々しい、キラキラとした芸能人のそれではない。

 ただの、顔が良いだけの飲んだくれのヒモだ。

 どうしようもない無頼漢にしか見えない。

 もしもこいつがジュピタープロダクションの面接へ来たとしても、取る採用ことは絶対にないだろう。

「ユウはオレのことを心配しているような様子だった。さては、オレのゴシップを握っているから金を出せとでも言ったか――それともジュピタープロに、移籍の手伝いをしろとでも脅したか?」

 ジンは無言だ。

 多分、的を射ていたのだろう。

「ふん。どうせそんな事だろうと思った」

「……最初は、確かにそうだった。女達に金をせびって生活しているが、限界もあるしな。オレだってモデルだ。雑誌もそうだが、ウォーキングレッスンを受けて、海外のランウェイを歩くという道もまだ諦めていない。だったら、力のある事務所へ移りたいからな」

 半分以上は本当だろうが、聖のカンが告げている。

「お前の言葉には、噓が混じっている」
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