彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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7 Gene

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“理想の子供が欲しい。顔が整っていて、頭も良くて、身体が丈夫でスポーツも万能な、欠点の無い子供が”

 そんな希望を持ちがならも、実際に産まれた子供が不細工で頭の出来も悪く、病気がちの上に運動も満足に出来ない失敗作の場合はどうしようか?

 果たして愛せるだろうか、そんな不出来な子を?

 失望したくない。
 失敗はしたくない。
 どこも欠点の無い、完璧な子供が欲しい。

――――もしもそれが、金さえ払えば高確率で叶うとなったらどうしよう?

 そんな、決して考えてはいけない禁忌の願望に憑りつかれた親たちを相手に、海外でビジネスを立ち上げた企業があった。

 元々は、ガンなどの遺伝的な疾病を回避することを主目的としていたスタートした研究だった。これは、世界的に有名な企業も堂々と出資していたくらい、画期的で希望溢れるビジネスであった。

 だが直ぐに、ひずみ・・・が生じることになる。

 最初に掲げた看板は、遺伝情報を解析し、望み通りの子どもが生まれる確度を予測するシステムを確立するという程度の物であったワケだが。

 いつしかそれは、外見的特長や知力・体力に関する遺伝子操作まで論じられるようになっていた。それは決して、正しい方向ではなく。

 脚光を浴びていた筈のこの研究は、看過できぬ倫理上の問題もあり、徐々に禁忌すべき研究として考えられるようになる。

――――だが、完璧な子供が欲しいという人間の欲望は、歴然として存在し続けていた。

(このまま知らないふりをして、第三者として生きていくのもアリかと思ったが……)

 そもそも、自分とは何の関係もない話だった。

 無関心を貫いて、ひっそりと生きて行く道もあった。

 しかし――やはり親友・・の無念を思うと、後ろ髪を引かれるような気持ちはいつも付いて回り、常に心苦しい思いを味わっていた。

ジン・・……お前に代わって、オレが必ず奴等に復讐してやるからな」

 携帯に届いたメッセージを確認すると、彼は冷たく微笑んだ。

「奴等に、絶望を味わわせてやろうじゃないか」

   ◇

「所長、申し訳ありません!」

 深々と頭を下げる助手を見遣り、探偵の綾瀬あやせ塔矢とうやは苦虫を噛み潰したような表情で、黙々とタバコをふかした。

 少しだけ沈黙した後、低い声で悔恨の念を口にする。

「――いや、今回のはオレのチェックミスだ。グダグダと言い訳するのは止めておこう。全部、オレが悪い。珍しく別件で仕事が入っていたから、そっちを優先したのが拙かった」

 竹野仁という人物の過去を調べる程度の内容であれば、それ程複雑でもない単純な仕事だろうと判断し、助手の佐々木に任せきりにした。

 その上、佐々木の纏めた報告内容の真偽もロクにしないまま、依頼人真壁へ報告書を上げたのも間違っていた。

 れとは怖ろしいものだ。

 いつの間にか、探偵の仕事を疎かにしていた自分に愕然とする。

「オレも、とうとうヤキが回ったか……」

「いいえ! オレが一刻も早く報告書を上げて、所長に良いトコロを見せようとしたのが間違っていたんです。変な見栄を張ってしまって――本当に申し訳ありませんでした!!」

 再び頭を下げる佐々木に、綾瀬は「悪いと思うなら」と話しかける。

「オレに、美味いコーヒーを淹れてくれ」

「所長……」

「その後は、今回の凡ミスのフォローに動くぞ。付き合えよ、佐々木」

「はい!」
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