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7 Gene
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タクシーから降り、聖は彼を見るとフゥと溜め息をついた。
先日のデジャヴのようだ。
ジンが、マンションのエントランス前で、黒い影のようにひっそりと立っていたのだ。
「お前は、そこに突っ立っているのが好きなのか? こんな時間に何の用だ?」
聖の問い掛けに、ジンは涼しい顔で答えた。
「明日……突然だが、ショーに招待された。一緒に来てほしい」
「ショー?」
「AHIRUの、内々だけに披露されるシークレット・ショーだ」
「……AHIRUブランド側とは、まだ何のアクションも起こしていない0の状態なのに、その間をすっ飛ばして急にシークレット・ショー? いきなり招待ってか?」
あからさまに怪しい誘いだ。
ましてや、安蒜と豊川の手掛けていたビジネスの話を聞いては。
しかし、聖が警戒するのを承知のうえで、ジンは言葉を重ねる。
「オレも、こんな急に決定するとは思ってなかった。だけど、ジュピタープロダクションはファッション誌『moveα』の仕事を取ったんだろう? だったら、これは無関係の話じゃないはずだ」
「それ、本気で言ってるのか?」
「ああ」
「……」
聖は、どうやら正念場が来たようだと察した。
ここまで本心を隠し続け、慎重に行動して来たであろうジンが、無茶を承知で聖を誘っているのだ。
ジンも、相当に切羽詰まった状態であろうことは、易々と察知できる。
(ジン――お前の心にある人間と、オレと、どっちが上なのか秤にかける気はないが。さすがにこれは結構キツイぞ)
聖はこれまでずっと、数多の男たちに愛され持て囃されてきた。
だが、いつだって『一番』には成れなかった。
――――今回はどうなのか?
知りたいようで、知りたくない。
もう答えが見えているような気がするからだ。
だが、ここまで来たのだ。
どんな結末でも、最後まで付き合うのもいいかもしれない。
「――わかった、その招待を受けよう」
聖のセリフに、ジンは安心したように息をついた。
しかし間髪置かずに、聖は続ける。
「それじゃあ、最後くらい満足させてもらおうか」
「?」
「いつもオレは奉仕する側だからな。たまには、お前のように、セックスの上手いヤツにサービスしてもらっても良いだろう?」
そう言ったところ、ジンの眼差しが強くなったのを感じ取った。
(ああ……お前でも、そういう目をする事があるんだな)
俄かに欲情を抱え込んだ雄の眼付きに、聖は、自身の背中に彫ってある紅い毒の花がチリッと熱を持ったような感覚を覚える。
こんな時、思っていた以上に、じつは自分は淫蕩な人間なのかと思う。
艶やかな魔性の華のように微笑みながら、聖は誘った。
「どうした? 今になって怖気づいたか?」
「あんたは――――自分の価値を知らない」
「そんなもん興味ねぇよ」
踵を返すと、聖の後ろに倣ってエントランスへ付いて来るジンの気配を感じた。
「ふふ、面倒臭いと思うなら帰ってもいいんだぞ」
「……」
前を行く聖の背中を見下ろしながら、ジンは苦いような声をもらす。
「あんたは、ショービジネス界に係わる大物を次々に堕としている。美人で口の上手い……そしてアッチも上手いヤツなら山程いるが、ここまで男を惹きつけるオンナはいねぇ」
「そんな事はないだろう」
「リストに名前が載っている」
何のリストだと内心吐き捨てると、まるでそれが聞こえたかのように答えが返ってきた。
「奴等はあらゆる人間のデータを欲している。通常は、リスト上の人物へ交渉して合法的にデータを提供してもらうが――それでは足りないらしい」
ジンが、躊躇いがちに口走る。
先日のデジャヴのようだ。
ジンが、マンションのエントランス前で、黒い影のようにひっそりと立っていたのだ。
「お前は、そこに突っ立っているのが好きなのか? こんな時間に何の用だ?」
聖の問い掛けに、ジンは涼しい顔で答えた。
「明日……突然だが、ショーに招待された。一緒に来てほしい」
「ショー?」
「AHIRUの、内々だけに披露されるシークレット・ショーだ」
「……AHIRUブランド側とは、まだ何のアクションも起こしていない0の状態なのに、その間をすっ飛ばして急にシークレット・ショー? いきなり招待ってか?」
あからさまに怪しい誘いだ。
ましてや、安蒜と豊川の手掛けていたビジネスの話を聞いては。
しかし、聖が警戒するのを承知のうえで、ジンは言葉を重ねる。
「オレも、こんな急に決定するとは思ってなかった。だけど、ジュピタープロダクションはファッション誌『moveα』の仕事を取ったんだろう? だったら、これは無関係の話じゃないはずだ」
「それ、本気で言ってるのか?」
「ああ」
「……」
聖は、どうやら正念場が来たようだと察した。
ここまで本心を隠し続け、慎重に行動して来たであろうジンが、無茶を承知で聖を誘っているのだ。
ジンも、相当に切羽詰まった状態であろうことは、易々と察知できる。
(ジン――お前の心にある人間と、オレと、どっちが上なのか秤にかける気はないが。さすがにこれは結構キツイぞ)
聖はこれまでずっと、数多の男たちに愛され持て囃されてきた。
だが、いつだって『一番』には成れなかった。
――――今回はどうなのか?
知りたいようで、知りたくない。
もう答えが見えているような気がするからだ。
だが、ここまで来たのだ。
どんな結末でも、最後まで付き合うのもいいかもしれない。
「――わかった、その招待を受けよう」
聖のセリフに、ジンは安心したように息をついた。
しかし間髪置かずに、聖は続ける。
「それじゃあ、最後くらい満足させてもらおうか」
「?」
「いつもオレは奉仕する側だからな。たまには、お前のように、セックスの上手いヤツにサービスしてもらっても良いだろう?」
そう言ったところ、ジンの眼差しが強くなったのを感じ取った。
(ああ……お前でも、そういう目をする事があるんだな)
俄かに欲情を抱え込んだ雄の眼付きに、聖は、自身の背中に彫ってある紅い毒の花がチリッと熱を持ったような感覚を覚える。
こんな時、思っていた以上に、じつは自分は淫蕩な人間なのかと思う。
艶やかな魔性の華のように微笑みながら、聖は誘った。
「どうした? 今になって怖気づいたか?」
「あんたは――――自分の価値を知らない」
「そんなもん興味ねぇよ」
踵を返すと、聖の後ろに倣ってエントランスへ付いて来るジンの気配を感じた。
「ふふ、面倒臭いと思うなら帰ってもいいんだぞ」
「……」
前を行く聖の背中を見下ろしながら、ジンは苦いような声をもらす。
「あんたは、ショービジネス界に係わる大物を次々に堕としている。美人で口の上手い……そしてアッチも上手いヤツなら山程いるが、ここまで男を惹きつけるオンナはいねぇ」
「そんな事はないだろう」
「リストに名前が載っている」
何のリストだと内心吐き捨てると、まるでそれが聞こえたかのように答えが返ってきた。
「奴等はあらゆる人間のデータを欲している。通常は、リスト上の人物へ交渉して合法的にデータを提供してもらうが――それでは足りないらしい」
ジンが、躊躇いがちに口走る。
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