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しおりを挟む【ミュージック・ヒット・ザ・ジャックポッド】
略して【MHJ】
元々は、日本でスタートした一大音楽イベントである。
これは、従来のフェスのように、アーティストが番組に出てパフォーマンスをするだけの歌番組とは大きく異なり、何と、出演する歌手に優劣をつけて各々がグランプリの栄冠を競うという、実に斬新で画期的なイベントであった。
グランプリに輝いたものは莫大な賞金を得るが、それ以上に『グランプリ』に輝くという事実は、非常にメリットが大きい。
この番組はネットを通じて全世界へ配信され、テレビの一般投票、ネット投票で『一番』を決めるというルールなのだ。
つまり『勝利する』という事は、何よりも宣伝効果が抜群にあり、全世界に効果的に名前を売り込む大チャンスなのである。
一攫千金、夢のアメリカン・ドリーム!
そういう意味合いが非常に強い。
一島国の歌手から、世界的スターに成り上がれる絶好の機会だ。
しかし勿論、ネームバリューのあるミュージシャンやアーティストが、最初から有利に決まっている。それが当たり前だ。
なので、コンピューターが出演者同士が公平になるよう事前に計算し、その出演者の有名度によって、スタートが-○○○万票という具合に厳正に調整が為される。
だから、世界的に有名になればなるほど、ある意味不利でもあるのだ。
知名度で優劣が付かないように、入念に準備されるといった念の入りようなワケである。
――――そして、グランプリに輝くのは誰か!?
日本では賭け事は禁止されているが、イギリスなど諸外国ではオープンだ。
なので、MHJは海外の賭場を合法的に巻き込み、狂乱に沸いた。
加熱し、臨界点を超えるまでに。
そして、このコンテンツに惹かれた海外勢が本格的にMHJへ参加するようになり―――――日本発の【ミュージック・ヒット・ザ・ジャックポッド】は、とうとう海外資本に丸々コンテンツごと買収される事になった。
名前はそのままに、末尾へin Worldが付け足され【MHJ in World】と。
そしてこの度、モンスター級のビックイベントとなったフェスは、アジアの小国ナモ公国の領土であるシシ島を、丸々一島使って開催されることになった。
ちなみにこのナモ公国は、天然資源も自前の技術も何もない、元々は貧しい国であった。
それが今や、世界有数の高級リゾート地となり、カジノやショーレースを開催する、非常に豊かな国となっている。
何故か?
――――ようするに、タックス・ヘイヴンである。
ナモ公国は、個人居住者に対して所得税を課していない。
所得税がないため、ナモ国外から、ほとんどの収入を得ている富裕者の多くがこの国にやってくるというワケだ。
住民の80%が外国籍であり、ナモ国籍者は20%しかいない現状である。
ナモ公国はカジノを含め、資金洗浄に対し監視が非常に甘い政策で、司法当局が疑惑に対して適切に調査していないという疑いも持たれている。
つまり、各国の富裕層を始め、マフィアやギャングにヤクザまでが暗躍するような国でもあり、ある意味、魔窟であった。
兎にも角にも、きな臭い話題も事欠かないが、この国は享楽で成り立っている国なのは間違いない。
今回このナモ公国で開催されるビックイベントは【MHJ in World】の他に、世界一のモード・コレクション・ショー【ナモ・コレ】が催される事となった。
この小さな国へ、スーパーモデルも一挙に集結し、空港はフラッシュの嵐だ。
ナモ国は華やかな色と話題に湧き立ち、活気に満ちていた……。
◇
「ちょっと、レイちゃん! あなたモデルなのよ! 日焼けなんかしたらダメじゃないの! 」
スタイリストの姦しい声に、零はハァと溜め息をついて背後を振り返った。
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