キラワレモノ

亜衣藍

文字の大きさ
3 / 128
1

1-2

しおりを挟む
「……タローさん、声大きいって。充分聞こえてるよ」

 零にタローと呼ばれた、髭を生やした厳つい男性は、鬼のような顔で零を睨んだ。

「だったら、もっとトップ・モデルの自覚を持ちなさいよっ。あなたA+の専属モデルなのよ! アジアのモデルと10年契約なんて普通考えられないんだからっ! 」

 そうオネェ言葉で捲し立てられると、零は少し不貞腐れた顔になってプイっと横を向いた。

「――――こんなに自由がないんなら、いっその事モデルなんか辞めちまうかな……」

 ポロっと出た本音に、タローとそのアシスタント、そして傍に控えていたマネージャーがサッと青ざめた。

「零っ!! 」

「――オレ、結構本気かも」

「バカな事を言ってるんじゃない! 君は、日本を代表するスーパーモデルとして、今一番の注目株なんだぞ」

 いつものお説教に、また零はウンザリとした顔になった。

 ちなみに、この零という青年。

 冒頭に登場したユウの恋人であり、本名を柊木・タルヴォ・零といい、フィンランド人の母と日本人の父を持つハーフの青年である。

 しかし、零は母親の血が強く出たようで、外見は完全に北欧系の、彫刻のように完璧な容姿をしていた。

 歳は二十になったばかりと大変年若いのだが、身長は198㎝と堂々とした体躯をしており、彼の隣に陣取るマネージャーや、姦しいスタイリストよりも遥かにデカい。

 しかし彼は天性のモデル体型をしており、身体は確かに大きいが『ゴツイ』という表現は当てはまらず、猫科の大型獣のような、しなやかでどこか優雅な体躯をしていた。

 彼が専属モデルを務める『A+』のイメージは、気品あるジャガーだ。

 まさにピッタリだと、世界的有名カメラマンのフランシスカ・ビビが零に惚れ込み、直接日本の事務所へ彼をvogueの被写体に指名すると連絡が入った時は、スタッフ一同驚愕し、次に狂喜乱舞した。

 そしてそこからが、展開が早かった。

 ビビはA+の専属カメラマンでもあり、零をこのままA+の専属モデルに是非ともスカウトしたいと打診され、事務所側は速攻でOKの返事を出した次第である。

 一年前までは、零はアイドルグループTriangleの三人のメンバーの一人として活動していた。

 だが、他のメンバーである明と美央がそれぞれ別の道に進みたいと言い出し、零も二人の願いを優先する事を決意して、Triangleは人気の絶頂で解散を発表した。

 リーダーの明はTriangleでアイドルを結成する以前は、劇団出身の子役だったので、もう一度役者の道を。

 美央は、自分で作った話を脚本に起こしたいから、著名な脚本家に弟子入りする道を。

 そして零は、元々芸能界に入った切っ掛けが子役モデルだったので、再びモデル業に舵を切ったワケだ。

 Triangle解散から一年が経つが、今でも三人の関係は良好で、度々飲み会をしたりと楽しく親交を深めている。

 当時、零は、ハーフならではの抜群の派手なルックスで、メンバー一注目を浴びていた。

 その事に美央の方は強く反発していたようだが、こうしてそれぞれが違う道を歩み出したことで過去のわだかまりは消え、今は本当にいい友人関係が築けている。

 明は最初から役者の方を希望していたので、アイドルを解散してホッとしているようだ。

 今は事務所を移り、俳優業に強いジュピタープロダクションへ移籍して頑張っている。

 いつかハリウッドにも進出してやると、目をキラキラさせて語る明は本当に輝いている。

 そういうワケで、それぞれが新しい道を歩んで順調なワケだが……零は、今のところ三人の中では、一番のシンデレラ・ストーリーを驀進していると言えるだろう。


 きっと外野はそう思い、羨むのだろう。


 だが本人は、この状況を素直に喜んではいなかった。

 四年前、零は年上のミュージシャン…………畠山ユウと想いを通じ合い、念願叶って恋人同士になった。

 その恋人に至るまでに、様々な誤解やトラブルや危機があり、それを乗り越えてのゴールインだった。

――――今でも、恋が実った瞬間の喜びは忘れていない。

 しかし、そこから一気に進展するかと思った恋仲は、かなり停滞していた。

 理由は、本当に複雑だが、ある意味単純でもある。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

処理中です...