キラワレモノ

亜衣藍

文字の大きさ
上 下
31 / 128
6

6-7

しおりを挟む
 処方された薬を服用しているからとか、そういう話じゃない。
 
 本当に、心の底から、世界中で一番安心できる場所がこの男の腕の中なのだと……ユウは確信したからだ。

 勿論、安心できる場所というなら聖も同じだが、聖と零では『愛』の種類は全く違う。

 ユウの胸を、こんなに高鳴らせる男など、世界中で零ただ一人だ。

「オレをこんなにしやがって。覚悟しろよ、コノヤロー」

 わざと蓮っ葉な言い方をして、ユウは零の上に乗ったまま、相手の服に手を掛ける。

 そのまま男らしく脱がせようとするが、そこは上手く行かなかった。

 服は零の肩で留まり、頭の中で思い描いていた通りに、格好よく恋人の服を抜き取る事が出来ない。

「……こんな、ヘンな所にボタンの付いてる服なんか着てくるなよ! 」

 照れ隠しにブツブツと文句を言い、零の上着のボタンを外そうとまごつくユウに、零は微笑みを浮かべる。

「――ユウさん! 」

「わっ!? 」

 逆に下から抱き付かれ、ゴロンと反転してしまう。

 今度は、ユウが下に。

 零の方が、上になった。

「オレを襲うなんて、ユウさんにはまだまだ早いですよ」

「あ、あのなっ! オレの方が年上なんだぞ!? 」

「恋愛経験は、ユウさんよりオレの方がずっと先輩ですよ。強気に迫って恋人の服を脱がせようとするなんて……そんな可愛い真似、どっかで調べたんですか? 」

 からかう様に言うと、ユウはむぅっと頬を膨らませた。

「――――ちょっと強引なくらいが、格好いい彼氏の条件だって……」

「ほぉ? 」

「どーせオレは、経験値が不足してるよ! 」

 顔を真っ赤にすると、ユウは零を押しのけて上体を起こそうと、ジタバタする。

 零は笑いながら、そのままユウをひょいと抱えて立ち上がった。

「っ! 」

「捕まえた」

「い、幾ら何でも……重いだろう? 無理しないで下ろせよ」

 しかし、零は微笑んだまま、ユウを抱えて余裕で歩く。

 向かう先は――ベッド・ルームだ。

 それが分かり、ユウは顔を更に真っ赤にする。

 腕の中の恋人の、その様子を見て――零は、優しく声を掛ける。

「……もう少し、落ち着くまで向こうでお話しでもしますか? 」

「――だ」

「え? 」

「いやだ。今夜しか自由になれる時間がないんだ……それならお前と、その……」

 完熟トマトのような顔色になり、ユウはぷいっと零から顔を背ける。

 ユウなりに格好よくビシッと決めようと、インターネットで事前に調べたり、雑誌や映画やドラマまで見て予習したが……実際は、何の役に立ちそうもない。

 恋愛経験値は、たしかにユウは圧倒的に不足している。


 でも、今は――――……


 不安を上回る期待。
 恐怖よりも好奇心。

 同性同士という事など微塵も入り込まない、はるかに巨大で熱烈な愛。

「その……」

「? 大丈夫ですよ。オレはそれなりに経験値があるから。だから、ユウさんが傷つかないように――時間を掛けて、ゆっくりと……慣らします、ね」

 耳元で甘く囁かれ、ユウは、顔だけでなく体まで真っ赤になる。

「……から」

「え? 」

「だから……ナカ、綺麗にして――その……な、慣らしておいたから、その――大丈夫、だから……」

 消え入りそうな声で、ユウはぼそぼそと呟くように言った。

 そう、ユウはインターネットで調べて、知識だけは仕入れた。

 だから、事前準備はしっかりとしておいたのだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

マガイモノ

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:43

マネジメント!

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:55

MOMO!! ~生き残れ、売れないアイドル!~

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:28

コレは誰の姫ですか?

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:61

RUN! RUN! RUN! ~その背伸びには意味がある~

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:21

電車の男ー社会人編ー

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:335

電車の男ー同棲編ー番外編

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:521

初めて恋したイケメン社長のお相手は童顔の美少年でした

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:646

処理中です...