キラワレモノ

亜衣藍

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   ◇

「チーフ…………やっぱり、どこを探してもあの子たち見つからないようです」

 スタッフの焦った声に、タローは溜め息をついた。

「そう――」
「届けは出したんですよね? 」
「ええ……ここ、表面上は治安は良いって聞いてたけど――」

 タローはフゥと溜め息をついて、心配そうに固唾を呑んでこちらを見ているスタッフ達に視線を向けた。

「――――この事は、モデル達には内緒よ。本番が近いってのに、身内の事でわずらわせるワケにはいかないわ」
「しかし、チーフ……」
「ギリギリまで、あたし達で捜すのよ。この国の警察にも届けてるんだし、カメラ映像を解析したりして、その内行方が分かると思うし……」

 そう自分に言い聞かせるように呟くと、タローは両手で頭をぐしゃっと掻き毟った。

「こんな――事になるなんて……妹に何て言えば――」
「だ、大丈夫ですよ、チーフ! もしかしたら、荷物運びをサボタージュしたくて隠れているだけかも……そのうち、ひょっこりと顔を出してきますよ……」

 スタッフのセリフは只の気休めであったが、そうなって欲しいという願望が込められている。

 この場にいる全員が、そう願っていた。

 昨夜、ショーの会場へ前入りで届いた荷物を仕分け、それをA+とZ.etcブランドに指定された場所へ運ぶという簡単な仕事を、径と幸樹へ頼んだ。

 それは二時間もあれば終わる、簡単な作業の筈だった。

 業界の華やかな面ばかりに憧れてしまっては、後々自分が困る事になる。
 実際は、この業界はかなり体育会系な面も強い。
 将来、挫折しない為にも、見習いとはこういう地道な仕事もしなければならないんだ――という事を知ってもらいたくて、その仕事を二人に任せたのだ。

 しかし、いつになっても『終わりました』と報告に来ない。

 不思議になって様子を見に行ったら、頼んでいた荷物が『ついさっきまで運ぼうとしてました』というような状態で、そのまま置いてあった。

 そして床には、幸樹の羽織っていたジャケットが置きっぱなしになっている。

 しかし、肝心の径と幸樹の姿が無い。

 ホールは広いので迷子になったのかと思い、スタッフやホールの管理にも連絡して捜してもらったのだが、一向に見つからない。

 まさか、誘拐されたのか?

 それとも、犯罪に巻き込まれたのだろうか?

 兎にも角にも直ぐに警察へ連絡して、捜索を頼んだ。

 しかし一夜明けても、タローには何の連絡も入らない。

 これで、心配するなという方が無理だ。

 焦燥するチーフを心配し、スタッフ達も動揺している。

 タローの一番弟子であるミキが、スタッフを代表するように前に進み出て、躊躇ためらいがちに口を開いた。

「――――チーフ……あの、サブに調整してもらって今回のショーは……」

 言いかけたミキを、タローはキッと見返した。

「ミキ、それはダメよ! あたし達はプロなの。受けた仕事は必ず完遂させるのよ」
「でも――」
「本当に、あんた達には迷惑かけて悪いわね……あたしの甥の為に、昨日から皆寝てないでしょう? 」

 タローは無理に笑顔を見せると、次に、スタッフ全員に向けて大きな声で断言した。

「径と幸樹の方は、もう警察に頼んであるんだし大丈夫よ! 」

 パンっと手を叩いて、意識を切り替えるように続ける。

「さ、衣装の空輸が遅れてメインが届いていないのは本当なんだから、上とどうするか一時間以内に決着点けてくるわ! お針子さん達もスタンバってるんだし、忙しくなるわよ~! 」


 実際、もうこの国の警察へ頼るしか方法が無い。
 径と幸樹はどうなったのか?


 実は彼等はこの時、意外な所にいたのだった――――。




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