キラワレモノ

亜衣藍

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 華奢な手足に細い腰、すっと伸びた首に乗っている、形のいい小さな頭。

 照明を落とされた場所に座っていれば、確かに瓜二つになるだろう。

 だが、いずれにせよユウにとっては、王子と侯爵は会話を交わした事もない赤の他人だ。

 もうそれらには関心を払わず、ユウは、電話の向こうの碇へと意識を集中した。

「で、何かオレがやる事はありますか? あと15分でショーが始まりますが」

 そう意気込むユウに、碇が指示を出してきた。

『……いいか、何かそこで起こるのは間違いないようだから、坊主は今直ぐ場所を移すんだ』

 なんと再び念を押して、碇はそう繰り返してきたのだ。

――――今一番しなきゃならんのは、御堂の息子を危険から遠ざける事だろう。

 碇は、そう考えていた。

 流通ルートを探ったところ、幾つか出所の分からない荷が【ナモ・コレ】会場へ運び込まれているらしい。

 通常なら、大公一族も出席する華やかな場である。

 警備は相当厳しくなっている筈だ。

 だが、それをすり抜けて、荷は運び込まれている。

――――嫌な予感がして仕方がない。

「えぇ!? でも、これから零がランウェイを歩くのに――」

『いいから早く、坊主はそこを離れるんだ。ただし、騒がないでそっとだぞ』

「どうしてですか? 何かあるなら、すぐに警備に知らせないと……」

『その警備が、一番怪しいんだ。万が一騒ぎを起こして、それで坊主が怪我でもしたら大変だ。オレが御堂の野郎にぶっ殺される』

 さすがは、指輪を交わす仲だ。

 よく御堂聖という男を知っている。

 しかし、

「碇さんは――――聖さんの事、心配じゃないんですか? 」

 ユウは、気になっていた事を口にしてみた。

 二日近くも婚約者と連絡が取れないにしては、どうも碇の様子は冷静過ぎる気がする。

 すると、碇は嘆息しながら答えた。

『ああ……場所なら、知っているからな』

「えっ!? 本当ですか!? 」

『あいつは、今は厄介なファン・・・に捕まっていて、中々返してもらえない状態なんだ』

「それじゃあ、真壁さんは――――」

『ファンに捕まった御堂が心配で、離れられないでいるんだろう。なに、心配するな』

 碇は、真壁の件に関しては本当に何も知らなかったのだが、その性格を熟知していたので、真壁はきっと聖絡みで失踪したに違いないと見当をつけていた。

――――実際、それは本当であったが。

『分ったな? 直ぐに外に出るんだぞ』

「…………はい、分かりました」

 ユウはそう言うと、電話を切って立ち上がった。

 そしてフロントロウへ背を向け、場所を移動する。


 しかし、向かう先は――――外ではなく、バックステージだ。


 ここに何か危険が迫っているというのなら、零の身も危ない。

 恋人の身を案じ、自然と足が動いていた。

(零! 今すぐ一緒に逃げるんだ!! )

 そしてその動きを、対面方向から見ていた、マナ・ルドー王子とアーカム・ルドー侯爵も行動を起こしていた。

「ミドーが、どこかへ行こうとしている! 」

「もしや、我々の方へ――? 」

 そういえば、あの大柄な婚約者の姿が見えないようだ。

 あれだけのガタイだ。

 たとえ照明を落とされていたとしても、どこかに居れば直ぐに分かる。

 しかし、この会場には――――少なくとも、フロントロウには見当たらない。

「それとも――ミドーは、遅れてきた婚約者を迎えに席を外したのだろうか? 」

「……電話を直前までしていたようだしな……」

 あのミドーを……歓待するならともかく、電話で呼びつけるとは。

 何たる不遜! 何たる無礼!

 きっとミドーは、あのヤクザのような男に(実際そうだが)無体な目に遭っているのだ。
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