後輩と先輩のやつ

十六原

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高校2年(後輩)と高校3年(先輩)

帰り道

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「じゃあ行こっか」
「はい」
先輩と一緒に下校するのが当たり前になったのはいつからだろうか。最初は偶然出会った……ようなふりをして僕が先輩を誘ったのが始まりだったけれど、今では約束をしなくても当たり前のように一緒に帰るようになった。
今日の天気は曇り。夕方になってから雲が厚くなってきて、今にも雨が降り始めそうな感じだ。そういえば、最初に先輩と一緒に下校したときもこんな天気だったっけ。帰る時間になってちょうど降り始めた雨の中、傘を忘れて困っていた先輩に僕が声をかけたのだった。
「ねえ、手繋ご?」
僕がそうして昔のことを思い出していると、先輩が急に手を差し出してきた。
「えっ!?  どうして急に……」
「どうしてって、いつもは勝手に繋いでくるじゃん」
「ま、まあそれはそうなんですけど……」
確かに、僕は先輩が抵抗しないのをいいことに、こうして一緒に下校するときはよく手を繋いでいた。先輩が転ばないように、なんていい加減なことを言って。でも、先輩からこんな風に言ってくるのは初めてだ。先輩は気まぐれで言っているだけだということはわかっているけど、それでもやっぱり嬉しい。
「今日は繋がないの?」
「い、いえ! 繋ぎます!」
僕は素直に、差し出された先輩の手を握った。先輩の柔らかい手を僕の手で包み込む。先輩の、ちょっとひんやりした手がすごく好きだ。温めてあげたくなる。
それからしばらく、二人で並んで歩きながら無言の時間が続いた。でも不思議とそれが嫌な時間ではなかった。先輩も同じ気持ちだったらいいな。この時間が永遠に続けばいいのに。
「ふふ」
そうしていると、先輩が僕のほうをみて笑った。何か面白いことでもあったのだろうか。
「どうしました?」
「ううん、なんでも」
先輩は笑って誤魔化した。
先輩が何を考えているのかわからない時がある。今もそうだ。先輩は楽しそうにしているように見えるけど、本当は違うのかもしれない。先輩はいつも本音を隠してしまうところがあって、僕は時々不安になってしまう。先輩は僕のことをどう思ってくれているのかなとか、本当はもう僕の他に好きな人がいたりするんじゃないのかなとか、そんなことを考えてしまう。

「先輩」
「なに?」
「好きですよ」
「……えっ」
「どうかしました?」
「ううん、私も好きだよ!」
「……ふふ。嬉しいです」

先輩の『好き』は、『友達として好き』の意味だ。僕のそれとは違う。でも、今はまだそれを指摘するつもりはない。あまり焦って距離を詰めたら、今の心地よい距離感を壊してしまう気がして、怖くて。もちろん、早く先輩を自分だけのものにしたい気持ちはすごくあるけど、その前に先輩に嫌われてしまったら元も子もないのだ。

繋いでいる先輩の手を指で優しく撫でる。少しでもいいから、もっと僕の存在を先輩に意識してほしくて。
僕だって、初めの頃はこうして先輩と手を繋いでいるだけで幸せで、満たされていた。友達として先輩のそばにいるだけで心の底から嬉しかった。だけど、僕はどんどん欲張りになってしまっているみたいだ。先輩の心が欲しい。先輩は僕だけのものだと言ってしまいたい。最近ではずっと、そんな醜くて汚い感情が自分の中で渦巻いているのを感じる。僕は最低だ。先輩にはずっと綺麗なままでいてほしいのに、こんな僕の全てを受け止めてほしいとも思ってしまうんだから。
「先輩……」
「ん? なに?」
「あー……やっぱり何でもないです」
「ふふ、なにそれ」
僕はいつか、本当のことを伝えなくてはいけない。伝えたら先輩を傷つけることになるかもしれないけれど、でもいつまでも隠したままではいられない。だから、その時が来たらちゃんと伝えようと思う。
──あなたを愛しています、と。

どんどん空が暗くなって、雨が降り始めた。傘をさして、先輩に半歩近づく。雨の日に先輩と一緒のときはいつもこうして相合傘で帰ることにしている。髪が濡れるのが嫌いな先輩は憂鬱そうにしているが、僕は雨の日が結構好きだ。こうして先輩に近づく口実が作れるから。
僕の傘は先輩と入ることを見越して大きめのサイズにしているので、一緒に入ってもそこまで窮屈に感じることはない。それでも、同じ傘の中で雨音に包まれていると、まるでふたりきりの世界に入ったような気持ちになる。先輩が僕のことを意識してくれていないとはいえ、傍から見たら僕たちは恋人同士に見えているのかもしれない。そうだったら少し嬉しいなと思う。

「先輩、大好きです」
「うん」
「先輩は?」
「……言わなくてもわかるでしょ」
「言ってくれないとわかりませんよ」
「もー。……大好きだよ?」

これで満足でしょ、と聞いてくる先輩に、大満足です、なんて言って微笑んだ。
いつか、本心からそう言える日が来ることを願いながら。
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