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ロック画面
しおりを挟むその日の夜のこと。私はなかなか寝付けずにいた。
原因はわかっている。昼間のことだ。もしかすると、彼はやっぱりストーカーなんじゃないかと思ってしまい、怖くて仕方がなかったのだ。やっぱり直接確かめたほうがいいよね。このまま放っておいて、何かあってからでは遅いし。
こっそりと物音を立てないよう注意しながら彼の様子を窺った。どうやらもう眠っているようだ。規則正しい呼吸の音だけが聞こえる。じっと彼の顔を見る。穏やかな表情で眠っていて、起きる気配はまったくない。
(……よし)
覚悟を決めて、そろそろと布団から出た。そして足音をたてないように慎重に歩き、寝室を出る。
居間に入ると、電気をつけた。眩しさで一瞬目がくらむ。辺りをきょろきょろと見回すが、特に変わった様子はない。
(良かった、大丈夫そう)
ほっとして息をつく。私は彼の荷物を漁ることにした。まずは洋服が入っている鞄の中を調べる。彼がこの前買ってきたらしい洋服が入っている。それ以外には……、ん?
指先に何か硬いものが触れた気がして引っ張り出す。それはスマホだった。電源は切れているみたいだけど……。
(どうして……? 黒太郎くん、スマホは持ってないって言ってたのに……)
不思議に思いながらも、これはチャンスだと電源を入れる。少し申し訳ない気持ちもあったけど、どうしても気になってしまったのだ。しばらくして、ロック画面が表示された。
そこに映っているものを見て私は愕然とする。
そこには、私が写っていた。
しかも、明らかに隠し撮りされたとわかる写真だった。この写真は……おそらく1年以上前のもの。少なくとも黒太郎くんを助けた日より、ずっとずっと前だ。
全身が血の気が引いたように冷たくなっていく感覚がした。パスコードがわからなくてその先の画面を見ることはできなかったけど、もう今はこの写真一枚だけで十分だった。スマホの中には、もっと恐ろしいものがあるような予感がする。とにかく、これ以上見てはいけないと本能的に悟った。早く戻さないと。
そう思って手を伸ばすと、突然腕を掴まれた。驚いて振り向くと、彼が目を開けてこちらを見ていた。彼は私の名前を呼んだ。私は黙ったまま俯いていることしかできない。彼は私を引き寄せると、強く抱きしめた。
そして耳元に口を寄せて囁いた。
「……なに、してるんですか」
責めるような口調ではない。むしろ優しい声色だったが、私は恐ろしくて何も言えなかった。
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