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第16話 遠野の大食いツアー
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夜、冬の冷たい風が頬に触れるたびに私は襟元をきゅっと締めた。
吐く息が白く舞い上がり、寒さに身を縮めながら遠野の後を歩く。
「ほら、田所さん急いで! お祭りが始まってるよ!」
遠野は私の手を引きながら商店街の奥へと進んでいく。
両側に並ぶ屋台からは湯気が立ち上り、焼き鳥やおでんの香ばしい匂いが漂っていた。
夜空にはオレンジ色の提灯が揺れ、寒い夜の街を暖かく照らしている。
「わざわざこの寒い中、外でご飯を食べるのもどうかと思うけど」
「だからこそいいんだよ! 温かいものが体に染みるっていうかさ!」
遠野の声は元気そのものだった。
寒さなど感じていないかのように次々と屋台を見つけては目を輝かせている。
「まずはおでん! 間違いないでしょ!」
遠野が駆け寄ったのは大きな鍋でぐつぐつと煮込まれているおでんの屋台だった。
湯気の向こうには、だしの染みた大根やこんにゃく、卵がぎっしり詰まっている。
おでんをすくうおじさんが優しい笑顔で注文を聞いてくれた。
「田所さん、大根は外せないよね?」
「うん、それと卵」
遠野は迷わず「大根、ちくわ、がんも、こんにゃく!」と次々に選び、私が小さく苦笑するのをよそに、お椀いっぱいに盛られたおでんを手に入れた。
「ふぅ~~っ、湯気がすごい!」
湯気を吹き飛ばしながら遠野はまず大根に箸を刺す。
その断面からじゅわっとだしが溢れ出し、彼女は勢いよく一口かじった。
「ん~~っ! 染みてる!」
熱さに顔をしかめながらも、すぐに次の一口へと進む。
大根の柔らかさとだしの香りに遠野はすっかりご機嫌だ。
「田所さんも早く食べなよ!」
私も箸を伸ばし、卵を割って黄身がほろほろと崩れるのを見ながら一口食べた。
だしの旨みがしっかり染み込んでいて寒さでこわばった体がじんわりと温まっていく。
「確かにおいしい」
「でしょでしょ!」
遠野はがんもを豪快にかじり、次はこんにゃくへと進む。
もちもちとした食感を楽しむように噛みしめながら「これだからおでんはやめられない」と笑う。
「次は焼き鳥ね!」
おでんを食べ終えると、すぐに次の屋台へと向かう遠野。
焼き鳥の炭火焼きの香りが鼻をくすぐり、私も自然とその後を追ってしまう。
「タレで2本と塩で2本ください!」
遠野は手際よく注文し、焼き上がったばかりの焼き鳥を一本私に渡してきた。
「ほら、田所さんもタレのほう食べてみて!」
串に刺さった焼き鳥は照りがかったタレが香ばしく、熱々の湯気を立てている。
一口かじると、炭火の香りと甘辛いタレの絶妙なバランスが口いっぱいに広がった。
「……これもおいしいね」
遠野は塩味の焼き鳥をかじりながら嬉しそうに目を細めた。
「祭りの焼き鳥って、なんでこんなにおいしいんだろうね!」
「屋台だからじゃない?」
「それもあるけど、やっぱり寒い中で食べるからだと思う!」
遠野は最後まで串の肉をきれいに食べきり、ゴミ箱に串を捨てたあと満足げに手を叩いた。
「よーし、次は甘いものにしよう! わたあめにするか、それとも温かいお汁粉にするか……」
屋台を見回しながら悩む遠野の後ろで私は静かに考えていた。
「遠野、寒いんだから温かいものにしたほうがいいんじゃない?」
「確かに!じゃあ、お汁粉!」
そう言うなり遠野はすぐにお汁粉の屋台に向かい、小さなお椀を手に入れた。
熱々のお汁粉の中には、もちもちのお餅が2つ沈んでいて湯気と共に甘い香りが漂っている。
「じゃあ、いただきまーす!」
遠野がスプーンでお餅をすくい上げると、トロリととろけるような見た目に思わず見とれてしまう。
そのまま口に運ぶと、すぐに彼女は頬を緩めた。
「ん~~、幸せ!」
甘さ控えめのお汁粉ともちもちのお餅が絶妙に絡み合い、遠野は一口ごとに温かさが広がるのを楽しんでいるようだった。
「田所さんも食べてみる?」
「私はいいよ、遠野が楽しそうに食べてるのを見てるから」
遠野は少し不満そうな顔をしたが、すぐにお椀を抱え直し、また一口すくっていた。
帰り道、満腹になった遠野は満面の笑みで私に話しかける。
「今日はおいしいものたくさん食べたね!」
「いつも食べすぎだと思うけど」
「でも田所さんも結構楽しんでたでしょ?」
その言葉に私は否定しなかった。
確かに寒い夜のお祭りで温かい屋台の食べ物に囲まれて過ごした時間は悪くなかった。
夜空を見上げると提灯の明かりがほんのりと道を照らしていた。
その下を並んで歩く私たちの影が少しずつ伸びていく。
「次のお祭りは、もっと大きいのに行こうよ!」
「また食べ歩きするつもり?」
「もちろん!」
遠野の無邪気な笑顔に私は小さく笑い返した。
この寒い季節が続く限り、彼女と一緒にこうして温かいものを楽しむ時間が続くのも悪くない。
吐く息が白く舞い上がり、寒さに身を縮めながら遠野の後を歩く。
「ほら、田所さん急いで! お祭りが始まってるよ!」
遠野は私の手を引きながら商店街の奥へと進んでいく。
両側に並ぶ屋台からは湯気が立ち上り、焼き鳥やおでんの香ばしい匂いが漂っていた。
夜空にはオレンジ色の提灯が揺れ、寒い夜の街を暖かく照らしている。
「わざわざこの寒い中、外でご飯を食べるのもどうかと思うけど」
「だからこそいいんだよ! 温かいものが体に染みるっていうかさ!」
遠野の声は元気そのものだった。
寒さなど感じていないかのように次々と屋台を見つけては目を輝かせている。
「まずはおでん! 間違いないでしょ!」
遠野が駆け寄ったのは大きな鍋でぐつぐつと煮込まれているおでんの屋台だった。
湯気の向こうには、だしの染みた大根やこんにゃく、卵がぎっしり詰まっている。
おでんをすくうおじさんが優しい笑顔で注文を聞いてくれた。
「田所さん、大根は外せないよね?」
「うん、それと卵」
遠野は迷わず「大根、ちくわ、がんも、こんにゃく!」と次々に選び、私が小さく苦笑するのをよそに、お椀いっぱいに盛られたおでんを手に入れた。
「ふぅ~~っ、湯気がすごい!」
湯気を吹き飛ばしながら遠野はまず大根に箸を刺す。
その断面からじゅわっとだしが溢れ出し、彼女は勢いよく一口かじった。
「ん~~っ! 染みてる!」
熱さに顔をしかめながらも、すぐに次の一口へと進む。
大根の柔らかさとだしの香りに遠野はすっかりご機嫌だ。
「田所さんも早く食べなよ!」
私も箸を伸ばし、卵を割って黄身がほろほろと崩れるのを見ながら一口食べた。
だしの旨みがしっかり染み込んでいて寒さでこわばった体がじんわりと温まっていく。
「確かにおいしい」
「でしょでしょ!」
遠野はがんもを豪快にかじり、次はこんにゃくへと進む。
もちもちとした食感を楽しむように噛みしめながら「これだからおでんはやめられない」と笑う。
「次は焼き鳥ね!」
おでんを食べ終えると、すぐに次の屋台へと向かう遠野。
焼き鳥の炭火焼きの香りが鼻をくすぐり、私も自然とその後を追ってしまう。
「タレで2本と塩で2本ください!」
遠野は手際よく注文し、焼き上がったばかりの焼き鳥を一本私に渡してきた。
「ほら、田所さんもタレのほう食べてみて!」
串に刺さった焼き鳥は照りがかったタレが香ばしく、熱々の湯気を立てている。
一口かじると、炭火の香りと甘辛いタレの絶妙なバランスが口いっぱいに広がった。
「……これもおいしいね」
遠野は塩味の焼き鳥をかじりながら嬉しそうに目を細めた。
「祭りの焼き鳥って、なんでこんなにおいしいんだろうね!」
「屋台だからじゃない?」
「それもあるけど、やっぱり寒い中で食べるからだと思う!」
遠野は最後まで串の肉をきれいに食べきり、ゴミ箱に串を捨てたあと満足げに手を叩いた。
「よーし、次は甘いものにしよう! わたあめにするか、それとも温かいお汁粉にするか……」
屋台を見回しながら悩む遠野の後ろで私は静かに考えていた。
「遠野、寒いんだから温かいものにしたほうがいいんじゃない?」
「確かに!じゃあ、お汁粉!」
そう言うなり遠野はすぐにお汁粉の屋台に向かい、小さなお椀を手に入れた。
熱々のお汁粉の中には、もちもちのお餅が2つ沈んでいて湯気と共に甘い香りが漂っている。
「じゃあ、いただきまーす!」
遠野がスプーンでお餅をすくい上げると、トロリととろけるような見た目に思わず見とれてしまう。
そのまま口に運ぶと、すぐに彼女は頬を緩めた。
「ん~~、幸せ!」
甘さ控えめのお汁粉ともちもちのお餅が絶妙に絡み合い、遠野は一口ごとに温かさが広がるのを楽しんでいるようだった。
「田所さんも食べてみる?」
「私はいいよ、遠野が楽しそうに食べてるのを見てるから」
遠野は少し不満そうな顔をしたが、すぐにお椀を抱え直し、また一口すくっていた。
帰り道、満腹になった遠野は満面の笑みで私に話しかける。
「今日はおいしいものたくさん食べたね!」
「いつも食べすぎだと思うけど」
「でも田所さんも結構楽しんでたでしょ?」
その言葉に私は否定しなかった。
確かに寒い夜のお祭りで温かい屋台の食べ物に囲まれて過ごした時間は悪くなかった。
夜空を見上げると提灯の明かりがほんのりと道を照らしていた。
その下を並んで歩く私たちの影が少しずつ伸びていく。
「次のお祭りは、もっと大きいのに行こうよ!」
「また食べ歩きするつもり?」
「もちろん!」
遠野の無邪気な笑顔に私は小さく笑い返した。
この寒い季節が続く限り、彼女と一緒にこうして温かいものを楽しむ時間が続くのも悪くない。
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