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第17話 勉強会とミルフィーユ鍋
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休日の午後、部屋の中にはストーブの温もりと窓から差し込む柔らかな光が広がっていた。
テーブルの上には教科書やノートが散らばり、私たちは数学の問題を解いている。
いや、実際に真面目に解こうとしているのは私だけで隣の遠野はすでにペンを置き机に突っ伏していた。
「田所さん疲れたよ……」
「1時間も経ってないけど?」
「頭使うとお腹が減るんだよねぇ」
いつものセリフだ。
私はため息を吐きながら問題集を閉じた。
「もう休憩しようか?」
「やったー! で、ねぇねぇ、夕飯どうする?」
遠野が勢いよく顔を上げて聞いてくる。
「夕飯?」
「だって今日、田所さんの両親は帰ってこないんでしょ? だからここでご飯食べていこうと思って!」
「勝手に決めないでよ……」
「いいじゃん、田所さんと一緒にご飯食べたいし!」
遠野がじっと私を見つめるその顔に私は少しだけ肩をすくめた。
断るのも面倒なので仕方なく了承する。
「でも家にあるものしか作らないからね。簡単なものでいい?」
「田所さんの家で食べる物なら、なんでもおいしいよ!」
その言葉に私は一瞬言葉を失った。
遠野は本当にこういうことを無邪気に言うから困る。
気を取り直して頭の中にある冷蔵庫の中の食材を確認する。
「じゃあ、白菜と豚肉のミルフィーユ鍋でいい?」
「なにそれ! 聞いただけでおいしそう!」
キッチンに移動し、さっそく鍋作りが始まった。
遠野はエプロンをつけてやる気満々だが、彼女に任せると台所が大惨事になるのは目に見えているので基本的な部分は私が指示を出すことにした。
「まず白菜と豚肉を交互に重ねるの。葉っぱを1枚置いて、その上に豚肉を乗せて――そうそう、そんな感じ」
遠野が白菜に薄切りの豚肉を丁寧に重ねていく。
「意外と楽しいかも!」
「ちゃんと均等にね。厚みがバラバラだと火の通りが悪くなるから」
「はい、田所先生!」
その言い方が少しおかしくて私もつい笑ってしまう。
重ね終わった白菜と豚肉のミルフィーユ状の層を適当な大きさに切り、鍋の中に並べていく。
断面が綺麗に層になっているのを見ると思わず達成感が湧く。
「わぁ、なんかもうすでにおいしそうだね!」
「まだ火にかけてすらいないけど」
最後に昆布だしを鍋に注ぎ、蓋をして弱火にかける。
だしが煮立ち始めると部屋の中にほのかに豚肉と昆布の香りが広がり、遠野が嬉しそうに鼻を動かした。
「いい匂いだ~!」
「もう少し待って。中まで火が通るまでじっくり煮込むから」
待っている間も遠野は落ち着かず、鍋の蓋を何度も覗き込んでいる。
「まだかな? まだかな?」
「遠野……子供じゃないんだから」
やがて鍋がいい具合に煮え、蓋を開けると湯気がふわっと立ち上った。
白菜がしんなりと柔らかくなり、豚肉にはだしがしっかり染み込んでいる。
私は小皿に取り分けて遠野に渡した。
「はい、これで準備完了」
「わーい、いただきます!」
遠野はまず箸で白菜と豚肉の層を一口分すくい、そのまま口に運んだ。
「ん~~っ!」
彼女の瞳が一瞬輝き、箸が止まらない。
豚肉のジューシーさと、白菜の甘み、そしてだしの旨みが口いっぱいに広がっているのだろう。
「すごい! 白菜がとろっとしてて豚肉が柔らかい!」
遠野は次々と層を崩しながら夢中になって食べ進めていく。
ぽん酢も少しかけてみたらしいが口に入れるたびに「おいしい!」と笑顔を見せるその姿が見ているだけで満足感を与えてくれる。
「これ、無限に食べられそう!」
「遠野、そんなに食べるとまたお腹いっぱいになって動けなくなるよ」
「でも、田所さんと一緒に作った鍋だから特別おいしいんだもん!」
彼女は大げさにそう言いながら、また白菜と豚肉を口に運ぶ。
その幸せそうな顔を見ると私も自然と箸が進む。
ぽん酢の酸味がだしと合わさり、さっぱりとした後味が心地よい。
「次もこれ作ろうよ!」
「次があるかは分からないけど」
遠野は笑いながら、また鍋に手を伸ばした。
その食べっぷりを見ていると、こうして一緒にご飯を作るのも悪くないと思えてくる。
食べ終わった後、満腹になった遠野はソファに横になりながらお腹をさすっている。
「ふぅ~~、幸せ……」
「動けなくなるって言ったでしょ?」
「でも、めちゃくちゃおいしかった!」
私が片付けをしていると遠野が後ろからひょこっと顔を出した。
「ねぇねぇ! 今度は鍋じゃなくて何かスイーツも作りたいな!」
「スイーツ?」
「うん、田所さんと一緒なら絶対美味しく作れる!」
その言葉に私は小さくため息をつきながらも、内心では次の料理が少し楽しみになっていた。
テーブルの上には教科書やノートが散らばり、私たちは数学の問題を解いている。
いや、実際に真面目に解こうとしているのは私だけで隣の遠野はすでにペンを置き机に突っ伏していた。
「田所さん疲れたよ……」
「1時間も経ってないけど?」
「頭使うとお腹が減るんだよねぇ」
いつものセリフだ。
私はため息を吐きながら問題集を閉じた。
「もう休憩しようか?」
「やったー! で、ねぇねぇ、夕飯どうする?」
遠野が勢いよく顔を上げて聞いてくる。
「夕飯?」
「だって今日、田所さんの両親は帰ってこないんでしょ? だからここでご飯食べていこうと思って!」
「勝手に決めないでよ……」
「いいじゃん、田所さんと一緒にご飯食べたいし!」
遠野がじっと私を見つめるその顔に私は少しだけ肩をすくめた。
断るのも面倒なので仕方なく了承する。
「でも家にあるものしか作らないからね。簡単なものでいい?」
「田所さんの家で食べる物なら、なんでもおいしいよ!」
その言葉に私は一瞬言葉を失った。
遠野は本当にこういうことを無邪気に言うから困る。
気を取り直して頭の中にある冷蔵庫の中の食材を確認する。
「じゃあ、白菜と豚肉のミルフィーユ鍋でいい?」
「なにそれ! 聞いただけでおいしそう!」
キッチンに移動し、さっそく鍋作りが始まった。
遠野はエプロンをつけてやる気満々だが、彼女に任せると台所が大惨事になるのは目に見えているので基本的な部分は私が指示を出すことにした。
「まず白菜と豚肉を交互に重ねるの。葉っぱを1枚置いて、その上に豚肉を乗せて――そうそう、そんな感じ」
遠野が白菜に薄切りの豚肉を丁寧に重ねていく。
「意外と楽しいかも!」
「ちゃんと均等にね。厚みがバラバラだと火の通りが悪くなるから」
「はい、田所先生!」
その言い方が少しおかしくて私もつい笑ってしまう。
重ね終わった白菜と豚肉のミルフィーユ状の層を適当な大きさに切り、鍋の中に並べていく。
断面が綺麗に層になっているのを見ると思わず達成感が湧く。
「わぁ、なんかもうすでにおいしそうだね!」
「まだ火にかけてすらいないけど」
最後に昆布だしを鍋に注ぎ、蓋をして弱火にかける。
だしが煮立ち始めると部屋の中にほのかに豚肉と昆布の香りが広がり、遠野が嬉しそうに鼻を動かした。
「いい匂いだ~!」
「もう少し待って。中まで火が通るまでじっくり煮込むから」
待っている間も遠野は落ち着かず、鍋の蓋を何度も覗き込んでいる。
「まだかな? まだかな?」
「遠野……子供じゃないんだから」
やがて鍋がいい具合に煮え、蓋を開けると湯気がふわっと立ち上った。
白菜がしんなりと柔らかくなり、豚肉にはだしがしっかり染み込んでいる。
私は小皿に取り分けて遠野に渡した。
「はい、これで準備完了」
「わーい、いただきます!」
遠野はまず箸で白菜と豚肉の層を一口分すくい、そのまま口に運んだ。
「ん~~っ!」
彼女の瞳が一瞬輝き、箸が止まらない。
豚肉のジューシーさと、白菜の甘み、そしてだしの旨みが口いっぱいに広がっているのだろう。
「すごい! 白菜がとろっとしてて豚肉が柔らかい!」
遠野は次々と層を崩しながら夢中になって食べ進めていく。
ぽん酢も少しかけてみたらしいが口に入れるたびに「おいしい!」と笑顔を見せるその姿が見ているだけで満足感を与えてくれる。
「これ、無限に食べられそう!」
「遠野、そんなに食べるとまたお腹いっぱいになって動けなくなるよ」
「でも、田所さんと一緒に作った鍋だから特別おいしいんだもん!」
彼女は大げさにそう言いながら、また白菜と豚肉を口に運ぶ。
その幸せそうな顔を見ると私も自然と箸が進む。
ぽん酢の酸味がだしと合わさり、さっぱりとした後味が心地よい。
「次もこれ作ろうよ!」
「次があるかは分からないけど」
遠野は笑いながら、また鍋に手を伸ばした。
その食べっぷりを見ていると、こうして一緒にご飯を作るのも悪くないと思えてくる。
食べ終わった後、満腹になった遠野はソファに横になりながらお腹をさすっている。
「ふぅ~~、幸せ……」
「動けなくなるって言ったでしょ?」
「でも、めちゃくちゃおいしかった!」
私が片付けをしていると遠野が後ろからひょこっと顔を出した。
「ねぇねぇ! 今度は鍋じゃなくて何かスイーツも作りたいな!」
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その言葉に私は小さくため息をつきながらも、内心では次の料理が少し楽しみになっていた。
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