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第18話 おしゃれカフェとパンケーキ
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「ねぇ、田所さん。今日はカフェに行こう!」
休日の昼前、遠野から届いたメッセージを見た私は少しだけ眉をひそめた。
「またカフェ? 最近スイーツばっかりじゃない?」
返事を打ちつつも結局のところ断る気はなかった。
遠野に誘われたら、どうせそのまま行くことになるのだから。
少し着替えて家を出ると駅前で待っていた遠野が満面の笑みで手を振っていた。
「今日は特別なんだから! 有名なふわふわパンケーキの店だよ!」
「パンケーキね……また甘いものか」
「まぁまぁ、食べれば絶対好きになるから!」
彼女に引っ張られながら私は半ば強引にカフェへと向かうことになった。
店内は温かみのある木目調のインテリアで統一され、壁には古びた時計と小さな観葉植物が飾られていた。
入り口近くのカウンターからはコーヒーの香ばしい匂いが漂い、窓から差し込むやわらかな日差しが心地よい静けさを作り出している。
「ここ、いい雰囲気でしょ?」
遠野が嬉しそうにメニューを開くとパンケーキのページを迷いなく指差した。
「これ! ふわふわのスフレパンケーキセットにしよう!」
「私は軽いものでいいかな……」
「だめだめ! 今日は一緒にパンケーキ食べるって決めたんだから!」
店員に注文を伝え、しばらくして運ばれてきたのは湯気がほんのりと立ち上るふわふわのパンケーキだった。
パンケーキは3段重ねで表面は薄いきつね色に焼かれ、ふんわりと膨らんでいる。
上にはバターがちょこんと乗り、その隣には小さな容器にたっぷりとシロップが入っていた。
「すごい……見ただけで柔らかそう」
遠野がナイフを入れるとスッと滑らかに切れ込みが入り、中から湯気がふわっと立ち上る。
その瞬間、彼女の目がさらに輝いた。
「ほら、田所さんも早く食べて!」
私は半ば強引にシロップをかけられたパンケーキを一口切り取り、口に運んだ。
「……意外とおいしいかも」
スフレのようにふわふわと軽い食感とバターの濃厚なコク、そして甘さ控えめのシロップが絶妙に絡み合う。
予想以上に口当たりが良くて思わずもう一口手が伸びた。
「ね? だから言ったでしょ!」
遠野もすぐに一口頬張り、ほうっと息を吐いた。
「ん~~、やっぱり最高! ふわふわで溶けちゃう感じがたまらない!」
彼女はナイフとフォークを忙しなく動かしながら、次々とパンケーキを口に運んでいく。
その頬には幸せが詰まっているかのようで見ているだけでこっちまで心が温かくなる。
「ねぇ、このパンケーキさ、人生で食べた中で一番おいしいかもしれない!」
「大げさすぎない?」
「いや、本当に! 田所さんももっと感動していいのに!」
遠野が笑いながら私の分のパンケーキに手を伸ばそうとするのを私は軽くナイフで防いだ。
「ダメ。自分の分だけ食べて」
「えぇー、ちょっとだけ分けてよ!」
こういうやりとりが何だか自然で嫌な気持ちはしなかった。
むしろ遠野と一緒に食べているからこそ、このパンケーキが特別に感じられるのだと思う。
食べ終えた後、私たちは店の窓際に腰をかけたまま少しぼんやりとコーヒーを飲んでいた。
静かな音楽と店内に漂うコーヒーの香りが、なんとも言えない落ち着きを与えてくれる。
「田所さん、こういう時間もいいよね」
「たまにはね」
遠野はカップを両手で包み込みながら、ふと微笑んだ。
その笑顔はパンケーキを食べているときの無邪気さとは少し違っていて、なんとなく柔らかく、あたたかい。
「田所さんってさ、やっぱりこうやって一緒にいると安心するよ」
その何気ない一言に私は少しだけ驚いた。
遠野にとって私はただご飯を一緒に食べるだけの存在ではないのだろう。
彼女が大事にしているのは、きっと「誰かと共有する時間」そのものなのだ。
私は無言でカップを遠野に差し出した。
「コーヒー飲む?」
「えっ、いいの?」
「どうせ甘いパンケーキの後だから少し苦いのもいいかなと思って」
遠野は嬉しそうに私のカップに口をつけ、一口飲んで満足げに笑った。
「うん、ちょうどいい!」
その笑顔を見ていると私も自然と心がほぐれていく。
甘いものはそこまで好きではなかったはずなのに今日のパンケーキは少しだけ特別な味がした。
「次もまた一緒に来ようね!」
「まぁ、考えておくよ」
遠野の笑い声がカフェの温かい空気に溶けていく。
次に何を食べるのか、なにを話すのか、そんなことはまだ分からない。
でも、こうして何気ない時間を共有するのが悪くないと思える日が続くのは遠野がいるからかもしれない。
休日の昼前、遠野から届いたメッセージを見た私は少しだけ眉をひそめた。
「またカフェ? 最近スイーツばっかりじゃない?」
返事を打ちつつも結局のところ断る気はなかった。
遠野に誘われたら、どうせそのまま行くことになるのだから。
少し着替えて家を出ると駅前で待っていた遠野が満面の笑みで手を振っていた。
「今日は特別なんだから! 有名なふわふわパンケーキの店だよ!」
「パンケーキね……また甘いものか」
「まぁまぁ、食べれば絶対好きになるから!」
彼女に引っ張られながら私は半ば強引にカフェへと向かうことになった。
店内は温かみのある木目調のインテリアで統一され、壁には古びた時計と小さな観葉植物が飾られていた。
入り口近くのカウンターからはコーヒーの香ばしい匂いが漂い、窓から差し込むやわらかな日差しが心地よい静けさを作り出している。
「ここ、いい雰囲気でしょ?」
遠野が嬉しそうにメニューを開くとパンケーキのページを迷いなく指差した。
「これ! ふわふわのスフレパンケーキセットにしよう!」
「私は軽いものでいいかな……」
「だめだめ! 今日は一緒にパンケーキ食べるって決めたんだから!」
店員に注文を伝え、しばらくして運ばれてきたのは湯気がほんのりと立ち上るふわふわのパンケーキだった。
パンケーキは3段重ねで表面は薄いきつね色に焼かれ、ふんわりと膨らんでいる。
上にはバターがちょこんと乗り、その隣には小さな容器にたっぷりとシロップが入っていた。
「すごい……見ただけで柔らかそう」
遠野がナイフを入れるとスッと滑らかに切れ込みが入り、中から湯気がふわっと立ち上る。
その瞬間、彼女の目がさらに輝いた。
「ほら、田所さんも早く食べて!」
私は半ば強引にシロップをかけられたパンケーキを一口切り取り、口に運んだ。
「……意外とおいしいかも」
スフレのようにふわふわと軽い食感とバターの濃厚なコク、そして甘さ控えめのシロップが絶妙に絡み合う。
予想以上に口当たりが良くて思わずもう一口手が伸びた。
「ね? だから言ったでしょ!」
遠野もすぐに一口頬張り、ほうっと息を吐いた。
「ん~~、やっぱり最高! ふわふわで溶けちゃう感じがたまらない!」
彼女はナイフとフォークを忙しなく動かしながら、次々とパンケーキを口に運んでいく。
その頬には幸せが詰まっているかのようで見ているだけでこっちまで心が温かくなる。
「ねぇ、このパンケーキさ、人生で食べた中で一番おいしいかもしれない!」
「大げさすぎない?」
「いや、本当に! 田所さんももっと感動していいのに!」
遠野が笑いながら私の分のパンケーキに手を伸ばそうとするのを私は軽くナイフで防いだ。
「ダメ。自分の分だけ食べて」
「えぇー、ちょっとだけ分けてよ!」
こういうやりとりが何だか自然で嫌な気持ちはしなかった。
むしろ遠野と一緒に食べているからこそ、このパンケーキが特別に感じられるのだと思う。
食べ終えた後、私たちは店の窓際に腰をかけたまま少しぼんやりとコーヒーを飲んでいた。
静かな音楽と店内に漂うコーヒーの香りが、なんとも言えない落ち着きを与えてくれる。
「田所さん、こういう時間もいいよね」
「たまにはね」
遠野はカップを両手で包み込みながら、ふと微笑んだ。
その笑顔はパンケーキを食べているときの無邪気さとは少し違っていて、なんとなく柔らかく、あたたかい。
「田所さんってさ、やっぱりこうやって一緒にいると安心するよ」
その何気ない一言に私は少しだけ驚いた。
遠野にとって私はただご飯を一緒に食べるだけの存在ではないのだろう。
彼女が大事にしているのは、きっと「誰かと共有する時間」そのものなのだ。
私は無言でカップを遠野に差し出した。
「コーヒー飲む?」
「えっ、いいの?」
「どうせ甘いパンケーキの後だから少し苦いのもいいかなと思って」
遠野は嬉しそうに私のカップに口をつけ、一口飲んで満足げに笑った。
「うん、ちょうどいい!」
その笑顔を見ていると私も自然と心がほぐれていく。
甘いものはそこまで好きではなかったはずなのに今日のパンケーキは少しだけ特別な味がした。
「次もまた一緒に来ようね!」
「まぁ、考えておくよ」
遠野の笑い声がカフェの温かい空気に溶けていく。
次に何を食べるのか、なにを話すのか、そんなことはまだ分からない。
でも、こうして何気ない時間を共有するのが悪くないと思える日が続くのは遠野がいるからかもしれない。
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