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第48話 図書館の静寂とコーンスープ
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休日の朝、スマホの通知が鳴った。
画面には遠野からのメッセージが表示されている。
「今日、図書館に行かない?」
少しだけ眉をひそめた。
今日はどこかに行く気分にはなれなかったが遠野の誘いを断るのも気が引ける。
「仕方ないな、付き合ってあげる」
そう返すと、すぐに「やったー!」と返信が来た。
駅で待ち合わせをしてから私たちは図書館へ向かった。
重厚な扉を開けると、すぐに静寂が私たちを包み込む。
高い天井、ずらりと並ぶ本棚――まるで別世界に来たような感覚だ。
「田所さん、ここ広いね!」
遠野が小さく声を弾ませる。
「図書館なんて久しぶりだな」
「私はたまに来るよ。たくさん本があるとワクワクするじゃん!」
「遠野が本を読むなんて意外だね」
「ひどいなぁ、こう見えて好きなんだから!」
それから私たちはそれぞれ読みたい本を選び、テーブルに着いた。
私は最近気になっていたエッセイ集を開くが隣の遠野が気になって何度も視線を送ってしまう。
普段は賑やかでお喋りな彼女が今は静かに本に集中している。
その姿はとても新鮮で思わず見とれてしまった。
(こんな一面もあるんだ)
1時間ほど本に集中していると隣から小さな声が聞こえた。
「田所さん、お腹すいた~」
やっぱりいつもの遠野だ。
私は小さく笑い、腕時計を確認する。
「じゃあ、休憩にしようか。近くに公園があったよね?」
「うん、行こう!」
図書館を出ると冷たい風が頬をかすめた。
けれど日差しが少しずつ暖かさを感じさせ、春の兆しを思わせる空気が心地よい。
途中のコンビニで温かいスープとサンドイッチを買い、公園のベンチに腰掛けた。
「寒いけど外で食べるのも悪くないね!」
遠野は紙袋からサンドイッチを取り出して嬉しそうにかぶりつく。
中からハムと卵がこぼれそうなくらいぎっしり詰まっていて、一口食べるたびに幸せそうな笑顔を見せていた。
「ん~、あったかくておいしい!」
「遠野って本当に美味しそうに食べるよね」
「だっておいしいんだもん!」
私は買った温かいコーンスープのフタを開け、湯気の立つ香りを吸い込んだ。
ほんのり甘いトウモロコシの香りが冷えた体にじんわりと染み込んでいく。
「ふぅ……あったかい」
遠野もスープを飲みながら「この公園、意外と落ち着くね」と小さく呟いた。
子どもたちの笑い声が遠くで聞こえ、時折風が木々を揺らす音が耳に届く。
しばらく黙ってスープを飲んでいると私はふと口を開いた。
「ねぇ遠野、今日の図書館で思ったんだけどさ」
「ん?」
「遠野って静かに本を読んでる時は普段と全然違うね」
遠野は少し驚いたように目を見開いた後、照れくさそうに笑った。
「えー、そうかな? 普段からちゃんと静かにしてるよ!」
「いや普段はもっと賑やかじゃん。だからちょっと新鮮だったんだよ」
「ふふ、田所さんに褒められるの珍しいね!」
「褒めてるわけじゃないけど……まあ、悪くなかったよ」
遠野は嬉しそうにサンドイッチをもう一口かじり、頬を膨らませながら言った。
「田所さんも、もっといろんな私を見ていいんだよ?」
「……そんなこと、いちいち言わなくてもいいでしょ」
視線をそらしてしまうのが自分でも分かる。
温かいスープをもう一口飲み、なんとか落ち着きを取り戻そうとした。
(でも、確かに遠野にはまだ知らない一面があるのかもしれない)
そう思うと、これからも新しい遠野を知るたびに驚かされるんじゃないかと感じた。
食べ終わる頃、遠野が紙袋をまとめながら言った。
「また一緒に図書館、行こうね!」
「そうだね、たまにはいいかも」
春の気配を感じる風が吹き抜ける中、私は遠野と並んで歩き出した。
知らない一面に気付き、心が少しだけ暖かくなる。
こうして新しい発見をしながら過ごす日々も悪くない――そんな風に思った。
画面には遠野からのメッセージが表示されている。
「今日、図書館に行かない?」
少しだけ眉をひそめた。
今日はどこかに行く気分にはなれなかったが遠野の誘いを断るのも気が引ける。
「仕方ないな、付き合ってあげる」
そう返すと、すぐに「やったー!」と返信が来た。
駅で待ち合わせをしてから私たちは図書館へ向かった。
重厚な扉を開けると、すぐに静寂が私たちを包み込む。
高い天井、ずらりと並ぶ本棚――まるで別世界に来たような感覚だ。
「田所さん、ここ広いね!」
遠野が小さく声を弾ませる。
「図書館なんて久しぶりだな」
「私はたまに来るよ。たくさん本があるとワクワクするじゃん!」
「遠野が本を読むなんて意外だね」
「ひどいなぁ、こう見えて好きなんだから!」
それから私たちはそれぞれ読みたい本を選び、テーブルに着いた。
私は最近気になっていたエッセイ集を開くが隣の遠野が気になって何度も視線を送ってしまう。
普段は賑やかでお喋りな彼女が今は静かに本に集中している。
その姿はとても新鮮で思わず見とれてしまった。
(こんな一面もあるんだ)
1時間ほど本に集中していると隣から小さな声が聞こえた。
「田所さん、お腹すいた~」
やっぱりいつもの遠野だ。
私は小さく笑い、腕時計を確認する。
「じゃあ、休憩にしようか。近くに公園があったよね?」
「うん、行こう!」
図書館を出ると冷たい風が頬をかすめた。
けれど日差しが少しずつ暖かさを感じさせ、春の兆しを思わせる空気が心地よい。
途中のコンビニで温かいスープとサンドイッチを買い、公園のベンチに腰掛けた。
「寒いけど外で食べるのも悪くないね!」
遠野は紙袋からサンドイッチを取り出して嬉しそうにかぶりつく。
中からハムと卵がこぼれそうなくらいぎっしり詰まっていて、一口食べるたびに幸せそうな笑顔を見せていた。
「ん~、あったかくておいしい!」
「遠野って本当に美味しそうに食べるよね」
「だっておいしいんだもん!」
私は買った温かいコーンスープのフタを開け、湯気の立つ香りを吸い込んだ。
ほんのり甘いトウモロコシの香りが冷えた体にじんわりと染み込んでいく。
「ふぅ……あったかい」
遠野もスープを飲みながら「この公園、意外と落ち着くね」と小さく呟いた。
子どもたちの笑い声が遠くで聞こえ、時折風が木々を揺らす音が耳に届く。
しばらく黙ってスープを飲んでいると私はふと口を開いた。
「ねぇ遠野、今日の図書館で思ったんだけどさ」
「ん?」
「遠野って静かに本を読んでる時は普段と全然違うね」
遠野は少し驚いたように目を見開いた後、照れくさそうに笑った。
「えー、そうかな? 普段からちゃんと静かにしてるよ!」
「いや普段はもっと賑やかじゃん。だからちょっと新鮮だったんだよ」
「ふふ、田所さんに褒められるの珍しいね!」
「褒めてるわけじゃないけど……まあ、悪くなかったよ」
遠野は嬉しそうにサンドイッチをもう一口かじり、頬を膨らませながら言った。
「田所さんも、もっといろんな私を見ていいんだよ?」
「……そんなこと、いちいち言わなくてもいいでしょ」
視線をそらしてしまうのが自分でも分かる。
温かいスープをもう一口飲み、なんとか落ち着きを取り戻そうとした。
(でも、確かに遠野にはまだ知らない一面があるのかもしれない)
そう思うと、これからも新しい遠野を知るたびに驚かされるんじゃないかと感じた。
食べ終わる頃、遠野が紙袋をまとめながら言った。
「また一緒に図書館、行こうね!」
「そうだね、たまにはいいかも」
春の気配を感じる風が吹き抜ける中、私は遠野と並んで歩き出した。
知らない一面に気付き、心が少しだけ暖かくなる。
こうして新しい発見をしながら過ごす日々も悪くない――そんな風に思った。
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