食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†

文字の大きさ
48 / 96

第48話 図書館の静寂とコーンスープ

しおりを挟む
 休日の朝、スマホの通知が鳴った。
 画面には遠野からのメッセージが表示されている。

「今日、図書館に行かない?」

 少しだけ眉をひそめた。
 今日はどこかに行く気分にはなれなかったが遠野の誘いを断るのも気が引ける。

「仕方ないな、付き合ってあげる」

 そう返すと、すぐに「やったー!」と返信が来た。

 駅で待ち合わせをしてから私たちは図書館へ向かった。
 重厚な扉を開けると、すぐに静寂が私たちを包み込む。
 高い天井、ずらりと並ぶ本棚――まるで別世界に来たような感覚だ。

「田所さん、ここ広いね!」

 遠野が小さく声を弾ませる。

「図書館なんて久しぶりだな」
「私はたまに来るよ。たくさん本があるとワクワクするじゃん!」
「遠野が本を読むなんて意外だね」
「ひどいなぁ、こう見えて好きなんだから!」

 それから私たちはそれぞれ読みたい本を選び、テーブルに着いた。
 私は最近気になっていたエッセイ集を開くが隣の遠野が気になって何度も視線を送ってしまう。

 普段は賑やかでお喋りな彼女が今は静かに本に集中している。
 その姿はとても新鮮で思わず見とれてしまった。

(こんな一面もあるんだ)

 1時間ほど本に集中していると隣から小さな声が聞こえた。

「田所さん、お腹すいた~」

 やっぱりいつもの遠野だ。
 私は小さく笑い、腕時計を確認する。

「じゃあ、休憩にしようか。近くに公園があったよね?」
「うん、行こう!」

 図書館を出ると冷たい風が頬をかすめた。
 けれど日差しが少しずつ暖かさを感じさせ、春の兆しを思わせる空気が心地よい。
 途中のコンビニで温かいスープとサンドイッチを買い、公園のベンチに腰掛けた。

「寒いけど外で食べるのも悪くないね!」

 遠野は紙袋からサンドイッチを取り出して嬉しそうにかぶりつく。
 中からハムと卵がこぼれそうなくらいぎっしり詰まっていて、一口食べるたびに幸せそうな笑顔を見せていた。

「ん~、あったかくておいしい!」
「遠野って本当に美味しそうに食べるよね」
「だっておいしいんだもん!」

 私は買った温かいコーンスープのフタを開け、湯気の立つ香りを吸い込んだ。
 ほんのり甘いトウモロコシの香りが冷えた体にじんわりと染み込んでいく。

「ふぅ……あったかい」

 遠野もスープを飲みながら「この公園、意外と落ち着くね」と小さく呟いた。
 子どもたちの笑い声が遠くで聞こえ、時折風が木々を揺らす音が耳に届く。
 しばらく黙ってスープを飲んでいると私はふと口を開いた。

「ねぇ遠野、今日の図書館で思ったんだけどさ」
「ん?」
「遠野って静かに本を読んでる時は普段と全然違うね」

 遠野は少し驚いたように目を見開いた後、照れくさそうに笑った。

「えー、そうかな? 普段からちゃんと静かにしてるよ!」
「いや普段はもっと賑やかじゃん。だからちょっと新鮮だったんだよ」
「ふふ、田所さんに褒められるの珍しいね!」
「褒めてるわけじゃないけど……まあ、悪くなかったよ」

 遠野は嬉しそうにサンドイッチをもう一口かじり、頬を膨らませながら言った。

「田所さんも、もっといろんな私を見ていいんだよ?」
「……そんなこと、いちいち言わなくてもいいでしょ」

 視線をそらしてしまうのが自分でも分かる。
 温かいスープをもう一口飲み、なんとか落ち着きを取り戻そうとした。

(でも、確かに遠野にはまだ知らない一面があるのかもしれない)

 そう思うと、これからも新しい遠野を知るたびに驚かされるんじゃないかと感じた。
 食べ終わる頃、遠野が紙袋をまとめながら言った。

「また一緒に図書館、行こうね!」
「そうだね、たまにはいいかも」

 春の気配を感じる風が吹き抜ける中、私は遠野と並んで歩き出した。
 知らない一面に気付き、心が少しだけ暖かくなる。
 こうして新しい発見をしながら過ごす日々も悪くない――そんな風に思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...