食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†

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第76話 甘酸っぱい休日といちごの誘惑

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 三月の半ば、ぽかぽかと暖かい春の日差しが降り注ぐ休日。
 私は遠野に連れられて、都会のビニールハウスに来ていた。

「田所さん! 見て見て! ハウスの中、いちごがいっぱいだよ!」

 目を輝かせながら遠野がビニールハウスの入り口で小さく跳ねる。
 彼女の視線の先には、ずらりと並んだいちごの苗が広がっていた。
 艶やかな赤い実が太陽の光を浴びて輝き、甘い香りがふわりと漂ってくる。

「確かに、これはテンション上がるかも」

 私は思わず小さく感嘆の声を漏らした。
 実際にこうしていちご狩りの光景を目の当たりにすると確かに心が躍る。

「でしょでしょ!? 今日は絶対たくさん食べるからね!」

 遠野はすでにやる気満々で、手に持ったヘタ入れ用のカップをぎゅっと握っていた。

 ハウス内は高設栽培という方法でいちごが育てられていた。
 腰の高さくらいの棚に苗が並び、しゃがまずに楽に摘めるようになっている。
 目の前には真っ赤に熟した大粒のいちごがたくさん実っていた。

「じゃあ、さっそく……いただきまーす!」

 遠野は早速、一番大きないちごを見つけ、もぎ取るとそのまま口に放り込んだ。

「ん~~っ! 甘い!!」

 頬を緩ませ幸せそうに目を閉じる遠野。
 私はそんな彼女の様子を見ながら少し遅れていちごを摘み取った。
 手に取ると、ほんのり温かい。
 さっきまで陽の光を浴びていた証拠だ。

 一口かじると、果汁がじゅわっと溢れ、爽やかな甘酸っぱさが広がる。

「……確かに甘いね」

 市販のものよりもずっとフレッシュで味が濃い。
 こんなに違うものなのかと改めて感心してしまった。

「でしょ!? 田所さん、もっと感動して!」
「私はそんなに大げさなリアクションはできないよ」
「もう、損してるよ~!」

 遠野はそう言いながら、次から次へといちごを頬張っている。

「この品種は『紅ほっぺ』だって!」

 遠野はプレートを指さしながら、また一粒摘んでいる。
 紅ほっぺは、甘みと酸味のバランスが絶妙で果肉がしっかりしているのが特徴らしい。

「こっちは『おいCベリー』……って名前可愛くない?」

 その隣には「おいCベリー」と書かれたプレートがあった。
 ビタミンCが豊富で、特に甘さが際立つ品種らしい。

「うわっ、これめっちゃ甘い!」

 遠野は『おいCベリー』を口に入れた瞬間、驚いたように目を丸くする。

「ほんとに甘いの?」
「うんうん! 田所さんも食べてみて!」

 そう言われて、一つ摘んで食べてみる。
 口に入れた瞬間、確かに「紅ほっぺ」よりも甘さが前面に出ていてデザート感が強い。

「うん、これは確かに甘いね」
「ね! これなら無限に食べられそう!」

 遠野は嬉しそうに、さらにいちごを摘み続ける。
 私はそんな彼女を横目に、そろそろお腹が満たされてきたことを感じていた。

「いやぁ~、大満足!」

 ハウスを出た遠野はお腹をさすりながら満足そうに笑う。
 彼女のカップはすでにヘタでいっぱいだった。

「そんなに食べたの?」
「そりゃあね! せっかくの食べ放題だから元を取らないと!」

 私は苦笑しつつ、ふと直売所の方に目を向けた。
 そこでは、いちごを使ったスイーツやジャムが売られている。

「せっかくだからお土産でも買っていく?」
「いいね! 私はいちごミルクの瓶入りが気になるなぁ」

 遠野はさっそく売り場へと向かい、私はその後を追った。


 帰り道、遠野は買ったばかりの『いちごミルク』を手に持ち、満足げに歩いていた。
 瓶の中には潰したいちごとミルクが混ざり合い、淡いピンク色をしている。

「ねぇねぇ、田所さんも一口飲んでみる?」
「……別にいいよ」
「まぁまぁ、せっかくだから!」

 そう言って遠野は私に瓶を差し出した。
 仕方なく、一口飲んでみる。

 ――甘酸っぱくて、ほんのりとしたミルクのコクが広がる。

「……うん、これは美味しい」
「でしょ! いちご狩りの締めくくりにぴったりだよね!」

 遠野は楽しそうに笑いながら再び瓶を傾ける。
 私はそんな彼女の無邪気な姿を見ながら改めて思った。

 いちご狩りなんて、ただの観光イベントだと思っていたけれど、こうやって春の味をしっかり楽しむのも悪くない。
 それに――

「田所さん、また来年も行こうね!」
「……また来年の話?」

 ――まぁ、また来てもいいかな、とは思っている。

 私が言葉にしないまま歩き出すと遠野は満足げに後ろをついてきた。
 春の香りをまとった風が、ふわりと私たちの間を通り抜けていく。
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