金魚探偵

洋風の棺

ある長屋の六畳半にそばかす顔の青年が何やらミステリー小説を読んでいた、するとゆらりと立ち上がり何処かに出かけて行った。

そばかす顔、名を矢太郎と言う青年は町の大通りを曲がり左前の古い書店に向かった。

店は薄暗い、矢太郎は店主に話しかけ何やら聞いていた。

「汽車の謎の三巻有りますか？」

初老前の無精髭が生えた店主に問うと気だるげに

「三丁目の南蛮屋の右隣、カツ丼屋に気を付けろ」

とだけ言った。

俗に言う隠語だ、汽車は、記者。三巻は、三丁目。そして店主の、南蛮屋は、野蛮な奴らが多い。そしてカツ丼屋は、警察に気を付けろ。という意味である。

矢太郎が向う三丁目は、港町で良くも悪くも血の気が多い人が多く治安が悪い。何故矢太郎がそこに向かったかというと、三丁目は治安が悪いだけあってネタ探しに困らないらしい。

矢太郎が三丁目に着くと磯の香りが海の風と共にやって来た。

船の出入りする付近を散策していると大きな金魚、しかも朱色の金魚が船着き場の一部分に集まっていた。周りの大きい船と違い川を下る様な小さな木製の船が一隻あった。

何より不可解なのが、洋画でしか見ない様な十字架の描かれた黒い棺が乗っていた。

そして朱色の金魚はこの棺の周りを泳ぐように回っていた。

この件に似た事件を矢太郎は知っている。船が誰の物なのかを周りの漁師に聞いて回ったが気味悪がって近づかないため引き上げ開けた、やはりと言ってその棺には死体があった。しかし、前と違う点はなんと言っても死体の状態だ、前は性別までわからない程ひどく腐っていたのに対し今回はきちんと女性ということも年齢までわかる。それよりも不思議なのは、百合の花で死体を包む様に添えられていることだ。見た所、生花らしく百合の花粉が死体の服に付着していた。棺の蓋の裏は爪で引っ掻かれたような跡があったよく見ると女性の爪にも木屑が詰まっていた、しかし棺の女性は腹の上で手を重ねてとても引っ掻かいたとは思えない死に方だ。

そして、また事件現場に矢太郎がいたことで矢太郎が怪しまれるのも無理はない。

だが、ちゃんと自分の犯行では無いためちゃんと話をし、帰った。

編集部にこの事件を持って行くと、編集長は嬉しそうな顔をして記事を仕上げるようにとご機嫌で仕事を振って来た矢太郎は、何かしらの負と言う餌が上るとうじ虫の如く集り事件と言う名の餌を食いつくし、また新たな獲物を探しに行くものだと矢太郎は心の奥から軽蔑した。