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快楽の苦闘
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夜、闘技場遺跡には。照明となる松明が掲げられた。
古代文明が栄えていた頃、捕虜となった者が剣闘奴隷とされて見世物とされた。
解放を条件に命がけで戦わせ、それを娯楽として提供し、鬱憤ばらしとしたのである。
時代が下ると野蛮で残忍、非道徳的な風習として忌避されたが、密かに特権階級の間で楽しみとされた。
ギュスターランド公爵家は、こうした娯楽も主催した。もちろん、賭博の対象にもしている。
教会には、浄財として寄付をする根回しをしており、黙認させている。
観客たちは素性を隠すために仮面を着用しているものが多いが、その中には眼を血走らせている聖職者の姿もある。どれだけ綺麗事を言おうが、特権と欲望があれば簡単に腐敗する。だからこそ、これを押さえて繋がりとする。ギュスターランド公爵家が悪の公爵と誹りを受ける由縁でもあった。
フリージアは、かつては皇帝が観覧したという天覧席に座って闘技場を見下ろしていた。
やがて、興行師が現れて口上を述べる。
「ご来場の紳士淑女の皆様。今宵も胸躍る戦いの場にようこそ。選ばれし者のみが観戦できる試合の数々をどうかご堪能ください!」
歓声が沸き上がる。
金のために命を賭ける真剣勝負だ。
特権階級のみに許された遊戯であることを強調し、その自尊心をくすぐってみせる。
安全なところから死にものぐるいに殺し合う者たちを見下ろすという退廃的な行為をほんの少しばかり正当化してやるのだ。
出し物は、古代の剣闘士そのままの装備での試合や、モンスタ-や猛獣を相手の迫力あるものまで用意されていた。
その餌食となって目を背けたくなるような惨事も起こったが、そういう残忍な光景すら娯楽として消費されるのだ。
「では、本日の目玉試合をご紹介しましょう――!」
どれほどの血が流れようが、歓声は上がり続ける。
むしろ、興奮の度合いはさらに増したようであった。
働きもせず、地位のみによって大きな富を得ると日々生きることに飽き、退屈という病が蝕んでいく。
そうした者たちへの刺激は、禁じられた背徳や快楽を安全に味わうことなのである。
「まずは百戦錬磨、人狼の女戦士フェルディ!」
闘技場の地面がせり上がって、選手を登場させる。
古代人が娯楽のためにかけた情熱は凄まじいに尽きる。
かつては、水を引いて船上の戦いすら再現したという。
現れたのは、剽悍な女戦士である。
鎧はまとわず、胸当てと腰布だけの姿で、鍛え上げた裸体を見せつけている。
大柄で野性味のある顔つきの美女であった。
フェルディは人狼であり、まさに狼のように咆吼を響かせた。
深夜となって満月となれば、その姿も獣に変わる趣向だ。
「挑むのは、幼き少年暗殺者!」
もう一方の側からせり上がって登場するのは、拳闘奴隷の格好そのままの姿のエリンである。
年配の婦人たちから、好色な嬌声が上がった。
娼年のあどけなさとその境遇によって悲しみを湛えた表情は、被虐的なものを呼び起こさずにはいられない。
「あの坊やがあたしの相手なのかい?」
フェルディが、興行師に訊ねた。
「そうだ、盛り上げるなら好きにしていいとのお達しだ」
「へえ、そいつはいい。戦に出たばっかりで血が騒いでんだ」
人狼の女戦士は、舌なめずりをする。
まさに獲物を前にした肉食獣のようだ。
人狼には発情の時期があり、身体が雄を求めてやまぬのだ。
屈強な男も好みではあるが、エリンのような年端の行かない少年もまた性的好奇心を掻き立てる。
観客たちも、それを期待しているのだ。
「今回の趣向は、東方の遊牧民が祭りに行なうという格闘試合とします。その身に油をまとわせ、容易につかめぬ取っ組み合いとなります」
小間使いが四人係で大きな革のシートを会場に敷き詰め、どろりとしたものを注いでいく。
海藻から抽出したぬめりと、オリーブから取った油を混ぜたものだ。
これだと滑ってまともに立つこともできないし、掴みかかっても逃げられてしまう。
より密着しなければならぬということだ。
「おい、貸しな」
フェルディは、油の入った壺を小間使いから引っ掴むとその身体にみずからかぶった。
その身体がてらてらといやらしくぬめり、艶めかしいものとなった。
観客たちもこれから起こることに興奮し、大きな声を上げる。
一方、獣のように自分に標的を定めるフェルディに、エリンは戦慄を覚えた。
これまでの拷問の中で、自分の性を貪り犯そうとする女というものに、恐ろしさを感じるようになっている。
どんな目に遭わされるかを考えただけで、肌が粟立つが、それとは別に股間が硬くなってしまうのだ。
まして、目の前の人狼戦士は尋常ならざる欲望を牙とともに向けているのだ。
「さて、そろそろ始まります」
「エリンには、ちゃんと伝えてあるのですね」
「ご安心を、お嬢様の意向であると言ってあります」
「なら、問題ありません」
責め方を変えようと提案した執事に、フリ-ジアは条件を付け足したのだ。
試合に勝てば、女騎士ノエルを助命し、エリンの拷問も取りやめて自身の側に置くと。
だからこそ、この闘技場にも立ったのだ。
「さあ、挑戦者たる少年の運命やいかに! それでは、始め――」
合図とともに、戦いが始まった。
古代文明が栄えていた頃、捕虜となった者が剣闘奴隷とされて見世物とされた。
解放を条件に命がけで戦わせ、それを娯楽として提供し、鬱憤ばらしとしたのである。
時代が下ると野蛮で残忍、非道徳的な風習として忌避されたが、密かに特権階級の間で楽しみとされた。
ギュスターランド公爵家は、こうした娯楽も主催した。もちろん、賭博の対象にもしている。
教会には、浄財として寄付をする根回しをしており、黙認させている。
観客たちは素性を隠すために仮面を着用しているものが多いが、その中には眼を血走らせている聖職者の姿もある。どれだけ綺麗事を言おうが、特権と欲望があれば簡単に腐敗する。だからこそ、これを押さえて繋がりとする。ギュスターランド公爵家が悪の公爵と誹りを受ける由縁でもあった。
フリージアは、かつては皇帝が観覧したという天覧席に座って闘技場を見下ろしていた。
やがて、興行師が現れて口上を述べる。
「ご来場の紳士淑女の皆様。今宵も胸躍る戦いの場にようこそ。選ばれし者のみが観戦できる試合の数々をどうかご堪能ください!」
歓声が沸き上がる。
金のために命を賭ける真剣勝負だ。
特権階級のみに許された遊戯であることを強調し、その自尊心をくすぐってみせる。
安全なところから死にものぐるいに殺し合う者たちを見下ろすという退廃的な行為をほんの少しばかり正当化してやるのだ。
出し物は、古代の剣闘士そのままの装備での試合や、モンスタ-や猛獣を相手の迫力あるものまで用意されていた。
その餌食となって目を背けたくなるような惨事も起こったが、そういう残忍な光景すら娯楽として消費されるのだ。
「では、本日の目玉試合をご紹介しましょう――!」
どれほどの血が流れようが、歓声は上がり続ける。
むしろ、興奮の度合いはさらに増したようであった。
働きもせず、地位のみによって大きな富を得ると日々生きることに飽き、退屈という病が蝕んでいく。
そうした者たちへの刺激は、禁じられた背徳や快楽を安全に味わうことなのである。
「まずは百戦錬磨、人狼の女戦士フェルディ!」
闘技場の地面がせり上がって、選手を登場させる。
古代人が娯楽のためにかけた情熱は凄まじいに尽きる。
かつては、水を引いて船上の戦いすら再現したという。
現れたのは、剽悍な女戦士である。
鎧はまとわず、胸当てと腰布だけの姿で、鍛え上げた裸体を見せつけている。
大柄で野性味のある顔つきの美女であった。
フェルディは人狼であり、まさに狼のように咆吼を響かせた。
深夜となって満月となれば、その姿も獣に変わる趣向だ。
「挑むのは、幼き少年暗殺者!」
もう一方の側からせり上がって登場するのは、拳闘奴隷の格好そのままの姿のエリンである。
年配の婦人たちから、好色な嬌声が上がった。
娼年のあどけなさとその境遇によって悲しみを湛えた表情は、被虐的なものを呼び起こさずにはいられない。
「あの坊やがあたしの相手なのかい?」
フェルディが、興行師に訊ねた。
「そうだ、盛り上げるなら好きにしていいとのお達しだ」
「へえ、そいつはいい。戦に出たばっかりで血が騒いでんだ」
人狼の女戦士は、舌なめずりをする。
まさに獲物を前にした肉食獣のようだ。
人狼には発情の時期があり、身体が雄を求めてやまぬのだ。
屈強な男も好みではあるが、エリンのような年端の行かない少年もまた性的好奇心を掻き立てる。
観客たちも、それを期待しているのだ。
「今回の趣向は、東方の遊牧民が祭りに行なうという格闘試合とします。その身に油をまとわせ、容易につかめぬ取っ組み合いとなります」
小間使いが四人係で大きな革のシートを会場に敷き詰め、どろりとしたものを注いでいく。
海藻から抽出したぬめりと、オリーブから取った油を混ぜたものだ。
これだと滑ってまともに立つこともできないし、掴みかかっても逃げられてしまう。
より密着しなければならぬということだ。
「おい、貸しな」
フェルディは、油の入った壺を小間使いから引っ掴むとその身体にみずからかぶった。
その身体がてらてらといやらしくぬめり、艶めかしいものとなった。
観客たちもこれから起こることに興奮し、大きな声を上げる。
一方、獣のように自分に標的を定めるフェルディに、エリンは戦慄を覚えた。
これまでの拷問の中で、自分の性を貪り犯そうとする女というものに、恐ろしさを感じるようになっている。
どんな目に遭わされるかを考えただけで、肌が粟立つが、それとは別に股間が硬くなってしまうのだ。
まして、目の前の人狼戦士は尋常ならざる欲望を牙とともに向けているのだ。
「さて、そろそろ始まります」
「エリンには、ちゃんと伝えてあるのですね」
「ご安心を、お嬢様の意向であると言ってあります」
「なら、問題ありません」
責め方を変えようと提案した執事に、フリ-ジアは条件を付け足したのだ。
試合に勝てば、女騎士ノエルを助命し、エリンの拷問も取りやめて自身の側に置くと。
だからこそ、この闘技場にも立ったのだ。
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