【R18】悪役令嬢と囚われの少年暗殺者

とけみゆい

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悪徳の流転

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 兎の園から、フリージアとエリンは引き上げた。
 馬車の中では、エリンはフリージアの隣に座わらされたが、ずっと窓の外を見ていた。
 まともに、フリージアの顔を見ることができない。
 おのれの弱い部分を晒し、暴かれた気分だった。
 伯爵夫人を母と呼ばされ、快楽にすがるように泣き、犬のようにその秘所すらねぶる事になった。
 恥ずかさと悔しさで、その顔を視線に入れたくない。
 というか、顔を合わせたらどんな表情をすればいいのか、わからないのだ。

「…………」

 一方、フリージアはそんなエリンの手にそっと触れた。
 ピクリと怯えたように震えたのがわかる。
 あんなことをさせ、自身もした。
 それは秘密を共有し、繋がりを得たということ。
 乙女であるフリージアにも不思議な自信となった。
 フリージアの細くしなやかな指が、エリンの指の間をなぞる。
 ぴくり、エリンが反応した。それがフリージアには嬉しかった。

「エリン……。あなたもあんなふうに甘えることはあるのね」
「……あ、あれは、お前が……お嬢様がやらせたことだろっ!」

 エリンは顔を真っ赤にして、必死に否定する。
 この少年の、もっとも弱い部分をさらけ出し、目の当たりにしたという確信がある。
 いまだ雇い主の名を明かすことなく、フリージアを諦めずに狙い続けるほどの強さを持つエリンが、母恋しさに泣きながら伯爵夫人に抱かれて果てたのだ。
 フリージアも、いずれあのように愛すると心に決める。
 いつか来るそのときのことを思うと、ぞくぞくとしたものがこみ上げるのは、やはり悪の令嬢としての資質であろう。
 絶対にエリンと結ばれようと、フリージアは決めてる。

「エリン、わたくしは――」

 言いかけたとき、馬車を引く馬が激しくいなないた。
 暴れる馬を、なだめようとする御者が落馬した。

「何事ですか……!?」

 異変に気づいたフリージアが、外の様子をうかがう。

「危ない、伏せろ!」
「きゃっ!?」

 馬車の窓から顔を出そうとしたフリージアを、エリンが無理やり中に引き戻す。
 その途端、空を切り裂いて何かが飛来する。
 馬車に刺さったのは、クロスボウのボルトだ。
 頭から黒い布を被った、数名の人影が襲撃してくる。

「……襲撃か!」

 エリンの顔つきが、鋭いものに変わっていく。
 暗殺者として訓練を受け、実際に修羅場をくぐり抜けてきた本能がそうさせる。
 事実、捕らえられはしたものの、ギュスターランド公爵家の館に単身乗り込み、フリージアのしとねに忍び込むという技量を持ち合わせているのだ。
 短剣を握った黒ローブが、馬車に張り付いてくる。

「このっ!」
「ぐあ……!?」

 乗り込んでこようとする黒ローブを、蹴りで叩き落とした。

「エリン……」
「なんとかする、馬車の中から出ないで!」

 エリンは短く言って、扉から馬車に張り付きながら御者台に向かう。
 黒ローブも、エリンの動きを察して白刃を翻して襲いかかった。
 それが振り下ろされる前に、エリンが腕を押さえた。
 そいつに肘を食らわして短剣を奪い、叩き落とす。
 隙を見て、手綱を引き、鞭を入れた。
 馬はふたたび嘶き、襲撃者を振り切るように走り出した。
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