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悪徳の流転
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館に帰ってからは、事は迅速に進んだ。
ギュスターランド公爵家の者が暗殺、襲撃の標的になること事態は珍しくはない。
フリージアもエリンに命を狙われた。
襲撃者を割り出すのは、メイド長と執事が手回しをするだろう。
執務室に戻り、落ち着きを取り戻す。
護衛をつけなかったのは、至らぬ点として反省すべきだと振り返る。
一方で、エリンが自分を守ったことを嬉しく思っていた。
自分を殺すためだと、少年は言う。
強がりなのか本心なのか、今はわからない。
だが、その心境をいじましく思う女なのだと、フリージアはおのれの中にある悪を自覚していた。
給仕の格好をしたエリンを自室に呼び寄せる。
「なんの用ですか、お嬢様……」
ふてくされた態度を隠そうともせず、エリンは答えた。
まだ反抗をしようとするところに、いじめ甲斐を感じてしまう。
「ちゃんとお礼を言ってないと思ったの」
「そんなこと」
「わたくしね、嬉しかったわ。お前が守ってくれたこと」
「言っただろ、殺すのは僕だって」
「それで構いません。いつか誰かに殺される日が来ると、覚悟して生きてきました」
「馬鹿にするな! だったら、今すぐにでも……!」
「あのときだって殺せなかったくせに」
「くっ……!」
どういう葛藤をしているのか、フリージアはエリンの心を読み取ろうとする。
悪の令嬢とされる自分の暗殺を果たそうとする想い。
度重なる快楽への恐怖と並行する欲求。
熾烈な拷問の中で構築された、与えられる者と与える者の関係。
いつの間にか複雑に絡み合った愛憎を形成していた。
「お前を差し向けた者は、もうお前がわたくしに屈したと思っているようね」
「…………」
一部、事実ではあった。
暗殺に失敗し、囚われの身となり、殺せないでいる。
この屈辱は、やはりフリージアを手にかけることで払拭できるのだろうか?
だが、それでもエリンは標的を暗殺し、依頼人の名を明かさないという矜持を捨てるに至っていない。
暗殺者という使い捨てにされる職業への自負か? それともフリージアへのなんらかの感情なのか?
エリン自身も答えを見つけられないでいる。
「もし、わたくしの命をやると言ったら、お前は信じますか?」
「そんなこと、信じられるはずがない。どうせ口だけ、でまかせに決まってる」
だしぬけに言ったフリージアに、エリンはそう答えた。
人を信用しないのは、暗殺者として当然の前提だ。
すべてを疑い、目的を達成しなくてはならない。
依頼人ですら信じてはいないが、これも自身への信用を担保するためというよりも保身のためである。
「わたくしは、このギュスターランド公爵家の為ならば、身を捧げることも惜しくはありません。お前から刺客として送り込んだ首謀者の名を聞き出すことで当家の敵を確実に葬れるなら、安い取引だと思っているわ」
後ろからエリンの肩を抱くようにして、フリージアは囁いた。
その覚悟は、覚悟は本心でもある。
一方で、エリンが自分に何を要求するのかを、どこか期待している――。
フリージアは、そんな感情が芽生えているに気づいた。
この淫虐の限りを尽くされた少年が、どのような復讐を自分にするのだろうか。
想像すると、体の芯が熱くなってしまい。
エリンの境遇を自身に重ねていたことを、フリージアは自覚している。
あれが自分であったら、どうなるのだろうか。
高貴な生まれであるがゆえに、被虐への興味が宿っていたのだ。
「だったら――」
「だったら、なに?」
「僕と同じ目に遭ってみせろよ」
ギュスターランド公爵家の者が暗殺、襲撃の標的になること事態は珍しくはない。
フリージアもエリンに命を狙われた。
襲撃者を割り出すのは、メイド長と執事が手回しをするだろう。
執務室に戻り、落ち着きを取り戻す。
護衛をつけなかったのは、至らぬ点として反省すべきだと振り返る。
一方で、エリンが自分を守ったことを嬉しく思っていた。
自分を殺すためだと、少年は言う。
強がりなのか本心なのか、今はわからない。
だが、その心境をいじましく思う女なのだと、フリージアはおのれの中にある悪を自覚していた。
給仕の格好をしたエリンを自室に呼び寄せる。
「なんの用ですか、お嬢様……」
ふてくされた態度を隠そうともせず、エリンは答えた。
まだ反抗をしようとするところに、いじめ甲斐を感じてしまう。
「ちゃんとお礼を言ってないと思ったの」
「そんなこと」
「わたくしね、嬉しかったわ。お前が守ってくれたこと」
「言っただろ、殺すのは僕だって」
「それで構いません。いつか誰かに殺される日が来ると、覚悟して生きてきました」
「馬鹿にするな! だったら、今すぐにでも……!」
「あのときだって殺せなかったくせに」
「くっ……!」
どういう葛藤をしているのか、フリージアはエリンの心を読み取ろうとする。
悪の令嬢とされる自分の暗殺を果たそうとする想い。
度重なる快楽への恐怖と並行する欲求。
熾烈な拷問の中で構築された、与えられる者と与える者の関係。
いつの間にか複雑に絡み合った愛憎を形成していた。
「お前を差し向けた者は、もうお前がわたくしに屈したと思っているようね」
「…………」
一部、事実ではあった。
暗殺に失敗し、囚われの身となり、殺せないでいる。
この屈辱は、やはりフリージアを手にかけることで払拭できるのだろうか?
だが、それでもエリンは標的を暗殺し、依頼人の名を明かさないという矜持を捨てるに至っていない。
暗殺者という使い捨てにされる職業への自負か? それともフリージアへのなんらかの感情なのか?
エリン自身も答えを見つけられないでいる。
「もし、わたくしの命をやると言ったら、お前は信じますか?」
「そんなこと、信じられるはずがない。どうせ口だけ、でまかせに決まってる」
だしぬけに言ったフリージアに、エリンはそう答えた。
人を信用しないのは、暗殺者として当然の前提だ。
すべてを疑い、目的を達成しなくてはならない。
依頼人ですら信じてはいないが、これも自身への信用を担保するためというよりも保身のためである。
「わたくしは、このギュスターランド公爵家の為ならば、身を捧げることも惜しくはありません。お前から刺客として送り込んだ首謀者の名を聞き出すことで当家の敵を確実に葬れるなら、安い取引だと思っているわ」
後ろからエリンの肩を抱くようにして、フリージアは囁いた。
その覚悟は、覚悟は本心でもある。
一方で、エリンが自分に何を要求するのかを、どこか期待している――。
フリージアは、そんな感情が芽生えているに気づいた。
この淫虐の限りを尽くされた少年が、どのような復讐を自分にするのだろうか。
想像すると、体の芯が熱くなってしまい。
エリンの境遇を自身に重ねていたことを、フリージアは自覚している。
あれが自分であったら、どうなるのだろうか。
高貴な生まれであるがゆえに、被虐への興味が宿っていたのだ。
「だったら――」
「だったら、なに?」
「僕と同じ目に遭ってみせろよ」
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