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策謀の果てに
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舞踏会は終わり、フリージアは貴賓室に案内された。
夜通し続く宴は、朝まで繰り広げられる。
豪奢な天蓋つきの寝台があり、従者やメイドたちも下がらせてある。
「ふう……」
フリージアは、ひと心地ついた。
しかし、油断はできない。
宮廷は、敵ばかりであると考えよい。
ギュスターランド公爵家というのは、そういう家系だ。
まして王城ともなれば、第一王子一派の懐の内である。
暗闘はすでに始まっており、これはからはフリージアも受け身ではいられないだろう。
「こちらから仕掛けるしかありませんわね」
決意とともに、呟いた。
代々、公爵家の当主は諜報と陰謀の担い手であり、フリージアにもその血は流れている。
そして、手段も心得ていた。
「……誰かいるの?」
フリージアは、寝室に何者かの気配を感じたのだ。
エリン、執事、メイドたちら、お付きのものたちは下がらせている。
自分のしくじりだと、フリージアは内心で舌打ちした。
油断はできない、決意したといっても、まだ甘さがあったと認めざるを得ない。
下がらせる前に、部屋を改めておくべきだったのだ。
まさか、さっそく仕掛けてくるとは予想外である。しかし、謀略、陰謀は、相手に予想されては失敗する。
その点、第一王子は陰謀家としての資質があろう。
敵は、ベッドの下とバルコニーに潜んでいた。
フリージアが気配に感づいたと知り、即座に始末しようというのだろう。
ふたりとも、女だ。
「誰かっ!」
フリージアが人を呼ぼうと声を上げた。
貴賓の泊まる部屋だけに、無闇に人が近づかないよう人払いをしておくのは難しくない。
「…………!!」
暗殺者たちは、短剣を構えてフリージアに向かってくる。
寝台に置いてあった枕で、なんとかその刃を防いだ。
ばっと詰められた羽毛が飛び散った。
「お嬢様……!」
「エリン!?」
エリンが部屋に飛び込んでくる。
人払いされているにもかかわらず、すぐに現れたのは彼が部屋の周囲で警戒していたからだ。
とはいえ、エリンも無手である。
王城に武器を帯びての入城は、衛兵か騎士身分でもないと許されない。
「……エリン、お前が公爵令嬢に寝返ったというのは本当だったのね」
暗殺者の女が言った。
もうひとりも、エリンに対峙する。
ふたりとも、同じ顔だ。
褐色の肌を持つ、南方の生まれの双子の暗殺者。
エリンと同じアサシンギルドで育った同門である。
「アーミナ、アサーラ……」
それがふたりの名だ。
短剣の刃を翻し、左右から連携する。
「ふっ!」
後ろにステップを踏んで、エリンは躱す。
短剣はぬめった光を放っている。
暗殺者なのだから、確実に仕留めるためには毒も仕込む。
クラーレという別大陸由来の植物から抽出した毒で、掠めると身体が動かなくなる。
最悪、呼吸も止まって死に至る。
「いいわ、裏切り者のお前から先に始末してあげる」
「待ってくれ、ふたりとも!」
もはや交わす言葉はないと、アーミナとアサーラはエリンに襲いかかった。
「くそっ!」
しかし、エリンもまた幼い頃から生き残ってきた暗殺者である。
刃をくぐり抜けると、左から繰り出される短剣――姉のアーミナの方――の持ち手を蹴り上げた。
回転して落ちる刃を転がりながら拾い、咄嗟に妹のアサーラめがけて放った。
「――っぐ!?」
「アサーラッ!?」
短剣は、願い違わずアサーラの喉に突き立った。
口から血の泡を吹き、痙攣して倒れる。
「よくもアサーラを!」
憤怒の表情をエリンに向ける、姉のアーミナ。
クラーレの毒性の強さは、アーミナもよく知っている。
喉の血管もやられ、肺に血が溜まっては助けることもできない。
裏切りと妹の復讐のため、エリンを殺す――。
憎しみの視線を向けるアーミナであったが、突如その場に倒れた。
「エリン、お嬢様を守ったことは褒めてやる」
アーミナを組み伏せたのは、ダークエルフの執事であった。
姿隠しの魔法で身を隠し、いつの間にかフリージアの声を聞きつけて寝室に入り、背後を取ったのだ。
「離せ、このっ!」
「おとなしくしてもらうぞ。お前には、エリンと同じ目に遭ってもらおう」
端正な面持ちに、特有の残酷な笑みが浮かんだ。
夜通し続く宴は、朝まで繰り広げられる。
豪奢な天蓋つきの寝台があり、従者やメイドたちも下がらせてある。
「ふう……」
フリージアは、ひと心地ついた。
しかし、油断はできない。
宮廷は、敵ばかりであると考えよい。
ギュスターランド公爵家というのは、そういう家系だ。
まして王城ともなれば、第一王子一派の懐の内である。
暗闘はすでに始まっており、これはからはフリージアも受け身ではいられないだろう。
「こちらから仕掛けるしかありませんわね」
決意とともに、呟いた。
代々、公爵家の当主は諜報と陰謀の担い手であり、フリージアにもその血は流れている。
そして、手段も心得ていた。
「……誰かいるの?」
フリージアは、寝室に何者かの気配を感じたのだ。
エリン、執事、メイドたちら、お付きのものたちは下がらせている。
自分のしくじりだと、フリージアは内心で舌打ちした。
油断はできない、決意したといっても、まだ甘さがあったと認めざるを得ない。
下がらせる前に、部屋を改めておくべきだったのだ。
まさか、さっそく仕掛けてくるとは予想外である。しかし、謀略、陰謀は、相手に予想されては失敗する。
その点、第一王子は陰謀家としての資質があろう。
敵は、ベッドの下とバルコニーに潜んでいた。
フリージアが気配に感づいたと知り、即座に始末しようというのだろう。
ふたりとも、女だ。
「誰かっ!」
フリージアが人を呼ぼうと声を上げた。
貴賓の泊まる部屋だけに、無闇に人が近づかないよう人払いをしておくのは難しくない。
「…………!!」
暗殺者たちは、短剣を構えてフリージアに向かってくる。
寝台に置いてあった枕で、なんとかその刃を防いだ。
ばっと詰められた羽毛が飛び散った。
「お嬢様……!」
「エリン!?」
エリンが部屋に飛び込んでくる。
人払いされているにもかかわらず、すぐに現れたのは彼が部屋の周囲で警戒していたからだ。
とはいえ、エリンも無手である。
王城に武器を帯びての入城は、衛兵か騎士身分でもないと許されない。
「……エリン、お前が公爵令嬢に寝返ったというのは本当だったのね」
暗殺者の女が言った。
もうひとりも、エリンに対峙する。
ふたりとも、同じ顔だ。
褐色の肌を持つ、南方の生まれの双子の暗殺者。
エリンと同じアサシンギルドで育った同門である。
「アーミナ、アサーラ……」
それがふたりの名だ。
短剣の刃を翻し、左右から連携する。
「ふっ!」
後ろにステップを踏んで、エリンは躱す。
短剣はぬめった光を放っている。
暗殺者なのだから、確実に仕留めるためには毒も仕込む。
クラーレという別大陸由来の植物から抽出した毒で、掠めると身体が動かなくなる。
最悪、呼吸も止まって死に至る。
「いいわ、裏切り者のお前から先に始末してあげる」
「待ってくれ、ふたりとも!」
もはや交わす言葉はないと、アーミナとアサーラはエリンに襲いかかった。
「くそっ!」
しかし、エリンもまた幼い頃から生き残ってきた暗殺者である。
刃をくぐり抜けると、左から繰り出される短剣――姉のアーミナの方――の持ち手を蹴り上げた。
回転して落ちる刃を転がりながら拾い、咄嗟に妹のアサーラめがけて放った。
「――っぐ!?」
「アサーラッ!?」
短剣は、願い違わずアサーラの喉に突き立った。
口から血の泡を吹き、痙攣して倒れる。
「よくもアサーラを!」
憤怒の表情をエリンに向ける、姉のアーミナ。
クラーレの毒性の強さは、アーミナもよく知っている。
喉の血管もやられ、肺に血が溜まっては助けることもできない。
裏切りと妹の復讐のため、エリンを殺す――。
憎しみの視線を向けるアーミナであったが、突如その場に倒れた。
「エリン、お嬢様を守ったことは褒めてやる」
アーミナを組み伏せたのは、ダークエルフの執事であった。
姿隠しの魔法で身を隠し、いつの間にかフリージアの声を聞きつけて寝室に入り、背後を取ったのだ。
「離せ、このっ!」
「おとなしくしてもらうぞ。お前には、エリンと同じ目に遭ってもらおう」
端正な面持ちに、特有の残酷な笑みが浮かんだ。
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