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第一章
第018話 真実と堅牢
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「アレン、どこに行っていたの?」
母の声に、俺は一瞬戸惑った。
「……少し、用があって」
「そう。アルはまだ貴族たちとの会合があるわ。私たちは先に王宮へ戻りましょう」
俺は黙って頷き、母とともに馬車に乗る。
馬車が静かに揺れながら進んでいく。しばらくの沈黙の後、母が申し訳なさそうに口を開いた。
「アイザックのこと……引き留められなくて、ごめんなさい」
「母上のせいじゃないよ」
「……でも、アレンは……」
「アイザックが決めたことだから。俺は……応援することにした」
「……そう」
母は静かに目を伏せた。
「母上、アイラのことだけど……あの姿は……」
「それについては、何も話せないわ」
――それでも、俺は諦めなかった。
「どうしても知りたいんだ……!」
「お願い、聞かないで」
母の声がかすかに震える。それ以上、俺は何も言えなかった。
長い沈黙の後、母が呟いた。
「アレン、話しておきたいことがあるの」
「俺が知りたいのは、アイラのことだけだ」
「……私は、この国の者ではないの」
唐突な言葉に、息をのむ。
まさか、母の口からその話を聞くことになるとは――。
「……なぜ、今になって?」
「少しでも、隠していることを減らしたいのよ」
「――水と月の国、イシス」俺は淡々と告げる。
「やっぱり知っていたのね……」
母は少し寂しげに微笑んだ。
俺は無言で頷く。
「でも今は、黒髪を差別する人もいないし、昔とは随分変わったわ」
「アイザックから聞いた」
「……やっぱり、アイザックが言っていたのね。そんな気がしていたわ」
「……それで、母上の本当の名前は?」
「リエン・ラステル。それが私の名よ」
「……ラステル」
「そう。だから、本来ならあなたの名にも"ラステル"が入るの」
「どういうこと?」
「この名前は特別なの。水と月の国の王族だけが持つ証――」
――俺の中には、2つの王家の血が流れているというのか?
「待って……理解が追いつかない」
「無理もないわ。アルでさえ困惑していたもの」
「アルも?」
「当たり前でしょう? あなたたちは兄弟なのだから」
「……え?」
母の言葉が、すぐには飲み込めなかった。
「何を言っているの? あなたたちは、私の子供よ」
信じられず、アイザックとの会話を思い返しながら、俺はできるだけ鮮明に母に伝えた。
母は苦笑しながら言う。
「アイザックも、まさかアレンがそんな勘違いをしているとは思っていなかったでしょうね」
「……俺は、ちゃんと家族の一員だったんだ」
「そうよ。顔を見ればわかるでしょう? あなたたちはよく似ているもの」
「アルみたいに端正な顔じゃないよ」
「何を言っているの。私から見たら、ほとんど同じ顔よ。赤子の頃なんて、瓜二つだったんだから」
――血のつながりがあるとは、こんなにも嬉しいものなのか。
「25年以上前にこの国に来たわ」
――母は、一人で知らない土地に連れてこられた。どれほど辛いことがあったのだろう。
「……イシスは、どんな国だったの?」
「それがね、覚えていないの」
「覚えていない?」
「幼い頃だったからね。仕方ないのよ」
――母まで記憶を失っている。
これを、ただの偶然で済ませていいのか?
母は静かに語り始めた。この国に来てから、貴族たちのいじめに耐え抜いたこと。学院でどのように過ごしていたか――。
「母上は、イシスに行ってみたいと思う?」
「……何度も考えたわ。でも、そのたびにあなたたちの顔が浮かぶの」
「……じゃあ、いつか一緒に行こう」
母は、一瞬驚いたように目を見開いた。
そして、そっと涙を零す。
「……アレンが、戦争を止めないとね」
「そういうのは、きっとアルがやってくれるさ」
「二人で協力するの!」
母の強い言葉に、俺は渋々、けれど確かに頷いた。
「母上、一つ聞きたいことがあるんだ」
「アイラのことなら言えないわよ……」
「それはわかってる」
母は小さく首を傾げ、俺が何を尋ねるのか静かに待っている。
一拍置いて、俺は口を開いた。
「ストリーム家って、どんな貴族?」
「ストリーム家?」
母は少し驚いたようだった。予想外の質問だったのだろう。
「そう」
「そうね……ストリーム家は、最も歴史のある家よ」
「王家よりも?」
「ええ。ストリーム家は元々、別の国の王族だったの」
「王族……」
「アレンも学院に通い出したら、そのあたりの歴史を学ぶでしょうね」
「その国の名前は?」
「“イグノムブラ”だったかしら?」
「イグノムブラ……」
――やはり関係ないのか?
「それも、古代から続いた大国だったと言われているわ」
「そんな国が、どうしてアルテミアに?」
「それは……正直、詳しくは知らないの」
「じゃあ、初代王エルゴンはどうやって古代の王国を……」
「アスランがイグノムブラについて、過去に調べていたはずよ」
「……アスランが?」
「ええ。機会があれば聞いてみるのもいいわね」
――明日からアスランの指導が始まる。さりげなく聞いてみよう。
それから馬車は王宮へと到着した。
神降式の余韻がまだ胸に残る中、俺は静かに眠りについた。
「第二王子、来たか」
「よろしくお願いします……」緊張で手が震える。
「わしは、アイザックほど優しくはないぞ」
ビクリと肩が跳ねる。俺は小さく頷いた。
「まず、魔法を見せてみろ」
俺は剣を構え、力を込める。黒い雷が刃を這い、空気がピリピリと震えた。
「よし、そのまま雷を出し続けろ」
「はい!」
――しばらく、その状態を維持する。
「まだだ」
腕が痺れてきた。長く続ければ続けるほど、筋肉が悲鳴を上げる。
「続けろ」
汗が滲み、指先が震え始める。
このままでは、腕が折れそうだ――。
「よし、今からわしが剣を振る。その斬撃を耐えろ」
「……え?」
「もちろんじゃが、剣は離してはならぬ」
――なんだと。この状態でアスランの斬撃を耐えろって?
「では、いくぞ」
アスランが右手に剣を構える。だが、そのまま微動だにしない。
俺は深く息を吸い、覚悟を決めた。
――次の瞬間、空気が揺れた。
目の前の景色が歪む。アスランの目を見据え、全神経を剣に集中させる。
耐えなければ――!
――だが、気づけば俺は壁にもたれかかっていた。
「……何が……起きた?」
手を見下ろす。そこには何も握られていない。
慌てて周囲を見回すと、俺の剣が壁に半分突き刺さっていた。
「すまんのう、加減したんじゃが」
腕が痺れ、指がうまく動かない。
「……何をしたんですか?」
「剣を振っただけじゃ」
「……剣を振っただけ?」
――この老人、本当に引退しているのか?
純粋な力だけなら、アイザックよりも強い……。
「これを耐えられるまで、次には進めん」
「どのくらいかかりますか?」
「おぬしの力を考えれば、1年で到達すれば上出来じゃろう」
「……1年」
「どうした、やはり耐えられぬか?」
「いや……やる」
アスランは満足げに頷くと、鋭く命じた。
「では、元の位置に戻れ。もう一度じゃ」
――くそ、足が動かない。立ち上がることすらできないのか、俺は……。
必死に力を込めるが、身体は言うことを聞かない。それでも、諦めるわけにはいかない。
俺は1時間かけて、ようやく膝を突きながらも立ち上がった。
アスランは何も言わない。ただ、じっと俺を見つめているだけだった。
そして、さらに1時間かけて、元の位置まで戻った。
「よし、この剣に雷を込めろ」
――アスランから手渡された剣を、震える指で握りしめる。
「……はぁ……剣に……力を……」
微かに黒い雷が刃を這う。だが、まるで燃え尽きたように、俺の力は限界を迎えていた。
「よし、また私の剣を耐えろ」
――こんな状態で、耐えられるわけが……。
次に瞼を開けたとき、俺はまた横たわっていた。
どれほど意識を失っていたのか。頭がぼんやりとして、時間の感覚が曖昧だ。
「よく起きた。今日はここまでじゃ」
外を見ると、すっかり夜になっていた。月が雲間から覗き、静かに輝いている。
その美しさを感じる間もなく、俺の意識は再び闇へと落ちていった。
心地よい風が肌を撫で、俺はゆっくりと目を開けた。
――今、何時だ?
壁に掛けられた砂時計に視線を移し、凍りつく。
「もう昼じゃないか!?」
――やばい、大幅に遅刻だ。とてつもない失態を犯してしまった。
慌てて身支度を整え、訓練場へと向かう。
扉を開けると、アスランが椅子に腰掛け、腕を組んで俺を見ていた。
「思ったより早かったな」
――思ったより……早かった? 聞き間違いか?
「え?」
「今日は起きないと思っておったが、精神力はなかなかのものじゃな」
「でも……俺、遅れてしまって……」
「気にするな。それより、体に痛みはないのか?」
「……痛み?」
その言葉を聞いた瞬間、意識が体の感覚へと向かう。
――全身が軋み、まるで焼け付くような痛みが襲ってきた。
痛い――いや、痛すぎて声にならない。
苦悶の声を漏らす俺を見て、アスランが苦笑する。
「寝かせるときに、一応治癒煙を撒いてもらったんじゃがな」
――それでこの痛みなのか?
「どうする? 今日はやめておくか?」
「……やめない……やめたくない」
アスランは俺の目を見据え、静かに言った。
「わしは、おぬしを第1王子よりも強くするとアイザックと約束した。
だが、これほどの苦痛に耐えられぬというのなら……やめてもいい」
「……やめない……お願いします」
俺の答えに、アスランは満足げに頷いた。
「そうか。なら立て。わしに聞きたいこともあるのじゃろ?」
「なんで……それを?」
「おぬしの母に聞いたのじゃ。耐えたら何でも教えたるとな」
俺は歯を食いしばりながら、また時間をかけて立ち上がる。
そして再び、アスランの斬撃を受け、倒れ、目を開け、また立ち上がる。
――それを、ひたすら繰り返した。
母の声に、俺は一瞬戸惑った。
「……少し、用があって」
「そう。アルはまだ貴族たちとの会合があるわ。私たちは先に王宮へ戻りましょう」
俺は黙って頷き、母とともに馬車に乗る。
馬車が静かに揺れながら進んでいく。しばらくの沈黙の後、母が申し訳なさそうに口を開いた。
「アイザックのこと……引き留められなくて、ごめんなさい」
「母上のせいじゃないよ」
「……でも、アレンは……」
「アイザックが決めたことだから。俺は……応援することにした」
「……そう」
母は静かに目を伏せた。
「母上、アイラのことだけど……あの姿は……」
「それについては、何も話せないわ」
――それでも、俺は諦めなかった。
「どうしても知りたいんだ……!」
「お願い、聞かないで」
母の声がかすかに震える。それ以上、俺は何も言えなかった。
長い沈黙の後、母が呟いた。
「アレン、話しておきたいことがあるの」
「俺が知りたいのは、アイラのことだけだ」
「……私は、この国の者ではないの」
唐突な言葉に、息をのむ。
まさか、母の口からその話を聞くことになるとは――。
「……なぜ、今になって?」
「少しでも、隠していることを減らしたいのよ」
「――水と月の国、イシス」俺は淡々と告げる。
「やっぱり知っていたのね……」
母は少し寂しげに微笑んだ。
俺は無言で頷く。
「でも今は、黒髪を差別する人もいないし、昔とは随分変わったわ」
「アイザックから聞いた」
「……やっぱり、アイザックが言っていたのね。そんな気がしていたわ」
「……それで、母上の本当の名前は?」
「リエン・ラステル。それが私の名よ」
「……ラステル」
「そう。だから、本来ならあなたの名にも"ラステル"が入るの」
「どういうこと?」
「この名前は特別なの。水と月の国の王族だけが持つ証――」
――俺の中には、2つの王家の血が流れているというのか?
「待って……理解が追いつかない」
「無理もないわ。アルでさえ困惑していたもの」
「アルも?」
「当たり前でしょう? あなたたちは兄弟なのだから」
「……え?」
母の言葉が、すぐには飲み込めなかった。
「何を言っているの? あなたたちは、私の子供よ」
信じられず、アイザックとの会話を思い返しながら、俺はできるだけ鮮明に母に伝えた。
母は苦笑しながら言う。
「アイザックも、まさかアレンがそんな勘違いをしているとは思っていなかったでしょうね」
「……俺は、ちゃんと家族の一員だったんだ」
「そうよ。顔を見ればわかるでしょう? あなたたちはよく似ているもの」
「アルみたいに端正な顔じゃないよ」
「何を言っているの。私から見たら、ほとんど同じ顔よ。赤子の頃なんて、瓜二つだったんだから」
――血のつながりがあるとは、こんなにも嬉しいものなのか。
「25年以上前にこの国に来たわ」
――母は、一人で知らない土地に連れてこられた。どれほど辛いことがあったのだろう。
「……イシスは、どんな国だったの?」
「それがね、覚えていないの」
「覚えていない?」
「幼い頃だったからね。仕方ないのよ」
――母まで記憶を失っている。
これを、ただの偶然で済ませていいのか?
母は静かに語り始めた。この国に来てから、貴族たちのいじめに耐え抜いたこと。学院でどのように過ごしていたか――。
「母上は、イシスに行ってみたいと思う?」
「……何度も考えたわ。でも、そのたびにあなたたちの顔が浮かぶの」
「……じゃあ、いつか一緒に行こう」
母は、一瞬驚いたように目を見開いた。
そして、そっと涙を零す。
「……アレンが、戦争を止めないとね」
「そういうのは、きっとアルがやってくれるさ」
「二人で協力するの!」
母の強い言葉に、俺は渋々、けれど確かに頷いた。
「母上、一つ聞きたいことがあるんだ」
「アイラのことなら言えないわよ……」
「それはわかってる」
母は小さく首を傾げ、俺が何を尋ねるのか静かに待っている。
一拍置いて、俺は口を開いた。
「ストリーム家って、どんな貴族?」
「ストリーム家?」
母は少し驚いたようだった。予想外の質問だったのだろう。
「そう」
「そうね……ストリーム家は、最も歴史のある家よ」
「王家よりも?」
「ええ。ストリーム家は元々、別の国の王族だったの」
「王族……」
「アレンも学院に通い出したら、そのあたりの歴史を学ぶでしょうね」
「その国の名前は?」
「“イグノムブラ”だったかしら?」
「イグノムブラ……」
――やはり関係ないのか?
「それも、古代から続いた大国だったと言われているわ」
「そんな国が、どうしてアルテミアに?」
「それは……正直、詳しくは知らないの」
「じゃあ、初代王エルゴンはどうやって古代の王国を……」
「アスランがイグノムブラについて、過去に調べていたはずよ」
「……アスランが?」
「ええ。機会があれば聞いてみるのもいいわね」
――明日からアスランの指導が始まる。さりげなく聞いてみよう。
それから馬車は王宮へと到着した。
神降式の余韻がまだ胸に残る中、俺は静かに眠りについた。
「第二王子、来たか」
「よろしくお願いします……」緊張で手が震える。
「わしは、アイザックほど優しくはないぞ」
ビクリと肩が跳ねる。俺は小さく頷いた。
「まず、魔法を見せてみろ」
俺は剣を構え、力を込める。黒い雷が刃を這い、空気がピリピリと震えた。
「よし、そのまま雷を出し続けろ」
「はい!」
――しばらく、その状態を維持する。
「まだだ」
腕が痺れてきた。長く続ければ続けるほど、筋肉が悲鳴を上げる。
「続けろ」
汗が滲み、指先が震え始める。
このままでは、腕が折れそうだ――。
「よし、今からわしが剣を振る。その斬撃を耐えろ」
「……え?」
「もちろんじゃが、剣は離してはならぬ」
――なんだと。この状態でアスランの斬撃を耐えろって?
「では、いくぞ」
アスランが右手に剣を構える。だが、そのまま微動だにしない。
俺は深く息を吸い、覚悟を決めた。
――次の瞬間、空気が揺れた。
目の前の景色が歪む。アスランの目を見据え、全神経を剣に集中させる。
耐えなければ――!
――だが、気づけば俺は壁にもたれかかっていた。
「……何が……起きた?」
手を見下ろす。そこには何も握られていない。
慌てて周囲を見回すと、俺の剣が壁に半分突き刺さっていた。
「すまんのう、加減したんじゃが」
腕が痺れ、指がうまく動かない。
「……何をしたんですか?」
「剣を振っただけじゃ」
「……剣を振っただけ?」
――この老人、本当に引退しているのか?
純粋な力だけなら、アイザックよりも強い……。
「これを耐えられるまで、次には進めん」
「どのくらいかかりますか?」
「おぬしの力を考えれば、1年で到達すれば上出来じゃろう」
「……1年」
「どうした、やはり耐えられぬか?」
「いや……やる」
アスランは満足げに頷くと、鋭く命じた。
「では、元の位置に戻れ。もう一度じゃ」
――くそ、足が動かない。立ち上がることすらできないのか、俺は……。
必死に力を込めるが、身体は言うことを聞かない。それでも、諦めるわけにはいかない。
俺は1時間かけて、ようやく膝を突きながらも立ち上がった。
アスランは何も言わない。ただ、じっと俺を見つめているだけだった。
そして、さらに1時間かけて、元の位置まで戻った。
「よし、この剣に雷を込めろ」
――アスランから手渡された剣を、震える指で握りしめる。
「……はぁ……剣に……力を……」
微かに黒い雷が刃を這う。だが、まるで燃え尽きたように、俺の力は限界を迎えていた。
「よし、また私の剣を耐えろ」
――こんな状態で、耐えられるわけが……。
次に瞼を開けたとき、俺はまた横たわっていた。
どれほど意識を失っていたのか。頭がぼんやりとして、時間の感覚が曖昧だ。
「よく起きた。今日はここまでじゃ」
外を見ると、すっかり夜になっていた。月が雲間から覗き、静かに輝いている。
その美しさを感じる間もなく、俺の意識は再び闇へと落ちていった。
心地よい風が肌を撫で、俺はゆっくりと目を開けた。
――今、何時だ?
壁に掛けられた砂時計に視線を移し、凍りつく。
「もう昼じゃないか!?」
――やばい、大幅に遅刻だ。とてつもない失態を犯してしまった。
慌てて身支度を整え、訓練場へと向かう。
扉を開けると、アスランが椅子に腰掛け、腕を組んで俺を見ていた。
「思ったより早かったな」
――思ったより……早かった? 聞き間違いか?
「え?」
「今日は起きないと思っておったが、精神力はなかなかのものじゃな」
「でも……俺、遅れてしまって……」
「気にするな。それより、体に痛みはないのか?」
「……痛み?」
その言葉を聞いた瞬間、意識が体の感覚へと向かう。
――全身が軋み、まるで焼け付くような痛みが襲ってきた。
痛い――いや、痛すぎて声にならない。
苦悶の声を漏らす俺を見て、アスランが苦笑する。
「寝かせるときに、一応治癒煙を撒いてもらったんじゃがな」
――それでこの痛みなのか?
「どうする? 今日はやめておくか?」
「……やめない……やめたくない」
アスランは俺の目を見据え、静かに言った。
「わしは、おぬしを第1王子よりも強くするとアイザックと約束した。
だが、これほどの苦痛に耐えられぬというのなら……やめてもいい」
「……やめない……お願いします」
俺の答えに、アスランは満足げに頷いた。
「そうか。なら立て。わしに聞きたいこともあるのじゃろ?」
「なんで……それを?」
「おぬしの母に聞いたのじゃ。耐えたら何でも教えたるとな」
俺は歯を食いしばりながら、また時間をかけて立ち上がる。
そして再び、アスランの斬撃を受け、倒れ、目を開け、また立ち上がる。
――それを、ひたすら繰り返した。
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