運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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1 運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

プロローグ

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(side夏向)
この世は雑音が多すぎる。
考え事をする度に、木に登るようになったのはいつからだろう。生きる為に、僕は沢山の罪を犯した。そして、これからも沢山自分は汚れていくのだろう。
それでも木に登っている間だけは、それら全ての汚いものを忘れられるような気がした。
普段、ふんぞり返っているαアルファだって、今の僕なら見下げることが出来る。そんな優越感だって心地いい。
せめてここにいる間だけは、僕は誰にも縛られず僕のために生きることが出来る。

なんて、思ってた。

ふと、誰かに見られている気がして窓の方に目をやった。この木は建物と隣接していて二階の窓と近い。案の定、そこから誰かが僕のことを見ていて――。

「……!!」

その瞬間、身体が沸騰した。
ふわりと甘い匂いが漂う。これは知っている。αの匂いだ。でも、今まで嗅いだ匂いよりも強烈に甘く、まるでそれは熟した果実のようだ。
食べられたい、身体中の僕の本能がそう思う程に。
黒い、黒曜石のような瞳が僕を見る。黒髪黒目で整った外見をした彼はさぞかし身長も高いのだろう。窓枠で胸から上しか見えないけれど。
写真では何度も見たけれど、実物を見るのは初めてだ。まさか、彼が僕の運命の番だったなんて。
風が空を自由に舞い、木の葉は耳に心地の良い音を奏でる。
正しく、運命に相応しい場面だけれど――それでも今は邪魔されたくなった。
結局僕はΩオメガである宿命からは逃げられない。

「君……まさか、俺の運命?」
「……駄目、僕は……」

それ以上、声が出ない。あいつは二階の窓からこちらの木に飛び移ろうとしている。僕に近づくために。

「おいで」

必死に首を振った。どうしたら良いんだろう。完全に不意打ちで、予想外だった。
混乱する頭で、僕は必死に身体を動かす。逃げた方がいい。正常に動かない頭で漸く出せた結論は「それ」だった。
ほとんど木から落ちるような形で、僕はその場から逃げた。体があちこち痛いけれど、気にしないことにする。生理的な涙が滲んで視界の邪魔をした。
結局、僕は第二の性からは逃げられない。
自身の「宿命」と「運命」に振り回される人生なのだ。
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