運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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1 運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

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(side夏向)
目が覚めた。どこだろう、ここは。
確か、階段の踊り場で蹲っていたはずだ。なのに僕は知らないベッドの上で寝ていた。
見た感じ保健室だろうか。今日は手続きや自分の荷物を部屋に入れるだけで授業は無い。授業自体は明日からだから多少時間が押しても大丈夫だけれど……まさか、倒れるとは思っていなかった。誰かがここまで運んでくれたのだろうか。

起き上がると、それに気づいたらしい保健医がカーテンを開いてこちらに顔を見せる。

「あら、起きたの」
「ここは……保健室ですか」
「そうよ、結野くん。倒れていたところを発見されてね」
「……」

誰が発見したか、聞いた方が良いんだろうか。つい動揺して思わず黙ってしまった。少しの躊躇いの後、勇気をだして口を開いてみる。

「七世会長ですか?」
「ええ。そうよ」

殺そうとしている相手に助けられた。
正確には殺そうとしている運命の相手に……か。やっぱりそうか。そんな気がしたんだ。
あの後、七世光希は僕を追いかけて、倒れている僕を発見した。なんでだ、別に放っておいても良かっただろうに。それでも少し変に心がざわつく。

「とりあえず抑制剤は持ってるかしら?無いならこちらで用意するわ」
「大丈夫、まだ残ってます」
「なら良かった。体調も……もう大丈夫そうね。きっと七世くんも安心するわ。なんなら迎えに来てって連絡する?」
「あ、いえ。それは悪い……です。まだ初対面なので」
「『運命』ではないの?」
「えっ」

なぜ知っている、そう聞こうとするより早く彼女は口を開く。

「だって、全く時期外れの発情期だもの」
「……ですね」

それを言われてしまえば、もう否定することは出来ない。出会った瞬間に僕は七世光希の匂いを嗅いで発情した。発情期のサイクル外の発情。どうしよう、ただ何となく……どうしようもなく泣きたい。
僕は泣いてる様子を見られたくないあまり、殆ど逃げるようにして保健室から退出した。

ふと携帯を見ると荷物が無事に寮に届いたと連絡が入っていた。僕は気を失っていたことに申し訳ないと思いつつ急いで寮に向かう。
校舎のエントランスであの甘い匂いが漂う。

「やあ」

七世光希と目が合った。やっぱり彼はαらしく高身長に恵まれていて筋肉も程よくついていた。それでいて既に実家の事業を任されている程優秀で、この学園の生徒会長もしているのだから、αの中でも優秀な部類だろう。
切れ長の……あの漆黒の瞳にはきっと魔法がかかっている……と思う。
目が合えば、底の見えなさに僕は堕落しそうで……気がつけば絶望だ。鼓動が何かを伝えてくる。ドクンと。いっそ落ちてしまえと。闇の中に囚われそうだ。正直、怖い。
心の中を悟られないように深く息を吐く。気丈に振る舞うことくらいは出来る。
大丈夫だからと、言い聞かせて僕は返事をした。

「さっきは助けてくれてありがとう……ございます」
「いいよ。寮に行くんだろう?俺と一緒に行こう。君は転入生だから不慣だろうし、案内するよ」
「ありがとうございます」

とりあえず乗っかることにした。標的ならば仲良くしていて損は無い。運命の相手だろうと関係ない。そのうち殺す隙ぐらいは見せるはずだ。
ふにゃりと七世光希は笑う。

「なんで、笑うんですか?」

ぎょっとして聞けばそっと手を握られた。確かめるような握り方だったが、僕は特に拒むことはしなかった。

「嬉しかったからだよ。まえは逃げられたから、嫌われたのかと思った」

僕が彼の提案に承諾しただけだ。それだけだ。ほんとうに、初めて会った人で。
生徒会長と転入生。まだろくに会話も出来ていないふたりだ。運命の出会いは強烈だったが、今僕が突然七世光希の前から居なくなっても彼の人生にはさほど影響など無いだろう。
生徒会長、そうだ。彼はこの学園では生徒会長にあたる人で。もちろんこの学園ではどういう立場なのか、今日実際に担任になる人に注意を受けた。学園の中でもトップのエリート。そして教師ですら逆らえない人。
α同士はフェロモンで威嚇して序列を決める。彼は正しく生徒会長にまで上り詰めその序列に勝った人だ。
僕も不自然にならないよう、身の程を弁えないといけない。
警戒される前に。

「たったそんなことで……」
「『たった』じゃない。俺は君と仲良くなりたい。名前くらいは知っているだろうが、改めて自己紹介から始めよう。俺は七世光希。光とこいねがうと書いて『みつき』。君は?」
「結野夏向。夏に向かうで『かなた』……です。生徒会長」
「光希って読んで欲しい。折角自己紹介したんだから。だめか?」
「光希会長?」
「違う……ただの光希でいいんだ」
「……」

何となく、いけないような気がした。だって僕の下の名前に敬称を付けない呼び方なんて、僕が幼い頃のかつての家族しか呼ばれないものだ。
つまり、呼び捨てはそれ程親しい人にしか呼ばない名前であるはずだ。
僕にはそんな人は居ないし、彼は僕のそんな人にはなり得ないだろう。絶対に。
身の程を弁えようと決意したばかりだ。あくまで普通に見えるように。

「夏向」

なのに、彼はあっさり僕の内側に侵入し、壁をひとつ壊した。

「夏に向かう。うん、正しく君らしい。出会った時に眩しさを感じたんだ。いい名前だ」
「いや、ただの夏生まれなんで……」
「それでも、夏に向かう時期に俺たちは出会えたから運命だ」

居心地がどうも悪い。終わりたい、と思った。一刻も早くここから抜け出して、僕の日常に戻りたい。二ヶ月なんて遠い。その頃まで待っていたら、僕はとっくに落ちてしまっているだろう。ああ、嫌だ。
繋いだ手から伝わってくる彼の熱と、人間味ある鼓動。それが僕をいっそう焦らせた。
αよ。どうか僕に殺されて。僕の犯した罪は大きすぎて重すぎて、またひとつ重ねたところで大した傷にならないだろうし。
そうだ……その為には目の前の男を殺さなければ。少しでも早く。

「生徒会長」
「呼び名戻ってるし、頑なだな。なぁに?……夏向」

生徒会長の顔をじっと見た。少し強めにΩのフェロモンを出してみる。大丈夫、エントランスはとっくに出て、ここは屋外だから監視カメラも少ない。丁度カメラの死角になる位置に辿り着けてよかった。
生徒会長は僕のフェロモンに気付いた途端、沸騰するように顔を真っ赤にした。よし、かかった。

「……え!?」
「ごめんなさい……」

背中から取り出したのは小型のナイフ。流石に拳銃は学校には持ってこれなかった。
一瞬の隙だけど、それで充分。ナイフを抜いて彼の心臓を突き刺すだけ。そう難しいことでは無い。慣れた作業だ。それにしても、咄嗟の僕は何に対しての謝罪をしたんだろう。
答えが出る前に手が動いた。
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