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4 幸せに成れない人間は幸せに慣れない 。
窓
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(side夏向)
食堂で生徒会長と会った次の日、僕はナギと大きな木の前にいた。
「学園にある木で一番大きいのはこの木だぜ」
「ありがとう。うん、これだけ大きければ二人でも充分折れないと思う」
木を選んだのはナギだ。僕自身まだ広すぎる学園の全てをまだ把握していない。だからナギに木まで案内して貰った。
でも、この木に何かしら既視感がする。何故だろう。どこかで、見たような……。
「どうした?」
「あ、ううん。なんでも」
建物の三階よりも高く伸び、幹の太さは両手で抱えても足りない。本当にいい木だな。ここなら充分高く登れる。
「ナギ、僕に付いてきて」
そう言って僕は一番近い枝に足をかけた。
ナギも僕に真似て木を登っていく。
「そう次はこの枝……その前にこの枝を掴んで……流石ナギ。やっぱり上手だ」
「ユイの教え方が上手いんだよ」
そう言われて、僕は嬉しくなる。
次の枝へ登ろうと、上を向いて気づいた。
ここは、生徒会長と出会ったところだ……。
なんで今まで気づかなかったんだだろう。転校初日、僕は木に登って、そして窓から身を乗り出した生徒会長と出会い、そして発情した。
ああ、そうか。発情してそれどころじゃ無かったから気づかなかったんだ。周期外の突発的な発情だったから、抑制剤を飲めば治ったけれど……でもあの時はほんとうに混乱していた。
今の既視感はそのせいか。
「どうした?ユイ」
「ううん、なんでも」
そうだ。今はナギに教えるのが先だ。生徒会長がいるとも限らないし、いたとしても気付くとも僕に限らない。
今、隣接している建物の窓は閉じている。大丈夫、大丈夫……。
さらに枝に足をかけて登る。そしてまた気づいた。
窓は確かに閉じられていたが、その向こうに生徒会長はいた。
「……っ」
息が詰まる。幸い生徒会長は窓に背中を向けてこちらに気付く様子は無い。椅子と机の位置的に、窓と背中を向くよう設定されているのだろう。生徒会長は事務作業を熱心にしていた。それを窓越しに確認する。
僕と生徒会長の距離は二メートル。大丈夫、静かにしていれば直ぐには気付かないよね?
窓によってフェロモンの匂いも遮断されていて感じないはずだ。
「ユイ」
後ろにいるナギに呼ばれて振り返った。
「ここの建物の二階、生徒会室なんだぜ」
何故今、ナギはその情報を僕に教えてくれたんだろう。鼓動が何かを伝えてくる。ドクン、ドクン、と。
きっと僕は、道化みたいに誰かの手のひらの上で滑稽に踊っていたんだ。でも、それは、生徒会長の手じゃなくて……。
「ユイ、手を出してくれ」
言われたまま、僕はナギに向かって手を出す。今は片手だけでも体を支えられるほど安定した体勢だ。
ナギは僕の手に『何か』を渡してきた。
僕の手が冷たい『何か』を掴む。金属で出来たそれは、僕はよく知ってる。見なくても形だけで。
学園に、持ってこれないだろうと諦めたもの。
けれども、僕の愛用の……。
「ユイなら殺せるだろう?」
「ナギ、なんで……僕の拳銃を」
ベレッタナノ。特徴的なデザインで、とても小さな銃。
咄嗟にナギを見る。普段は見ないような、攻撃的な顔。
「そんなことはユイには関係ない。絶好のチャンスだぜ。生徒会長は今、俺たちに気付いていない。そしてこの窓は普通のガラス……防弾ガラスでも無いから直ぐに割れる。本来ならセキュリティー万全な学園だけどな、俺が普通のガラスにすり替えたんだ。この時の為に」
この時の為に。早くしないと、生徒会長がこちらを向くかもしれない。確かに今はナギの言う通り……。
「ナギ……ナギは、何者?」
動揺でわけが分からなくなる。ナギ、僕はナギのことは何ひとつ知らないんだ。みんなナギって呼ぶけれど、本当の名前も知らない。
「早くしろよ。『監視者』だった俺がこうやってチャンス作ってるんだから。きっと、頭を撫でて、褒めてくれるだろうな?……兄様は」
瞳が揺れて、涙が零れた。両足を大きな枝に乗せて、立ち上がって体勢を整える。
生徒会長に向けて銃のスライドを引き、構えるけれど、震えて、中々トリガーを引けない。
終わらせたいと思ったのは、僕だ。
大丈夫、確かに。これで……終われる。
『俺は、夏向と幸せになりたい』
ふと、生徒会長の言葉が頭を過ぎった。
その瞬間にガラスの割れる音と、銃声音。
震えながらトリガーを引いた手。
生徒会長に銃弾が掠めることは……無かった。
食堂で生徒会長と会った次の日、僕はナギと大きな木の前にいた。
「学園にある木で一番大きいのはこの木だぜ」
「ありがとう。うん、これだけ大きければ二人でも充分折れないと思う」
木を選んだのはナギだ。僕自身まだ広すぎる学園の全てをまだ把握していない。だからナギに木まで案内して貰った。
でも、この木に何かしら既視感がする。何故だろう。どこかで、見たような……。
「どうした?」
「あ、ううん。なんでも」
建物の三階よりも高く伸び、幹の太さは両手で抱えても足りない。本当にいい木だな。ここなら充分高く登れる。
「ナギ、僕に付いてきて」
そう言って僕は一番近い枝に足をかけた。
ナギも僕に真似て木を登っていく。
「そう次はこの枝……その前にこの枝を掴んで……流石ナギ。やっぱり上手だ」
「ユイの教え方が上手いんだよ」
そう言われて、僕は嬉しくなる。
次の枝へ登ろうと、上を向いて気づいた。
ここは、生徒会長と出会ったところだ……。
なんで今まで気づかなかったんだだろう。転校初日、僕は木に登って、そして窓から身を乗り出した生徒会長と出会い、そして発情した。
ああ、そうか。発情してそれどころじゃ無かったから気づかなかったんだ。周期外の突発的な発情だったから、抑制剤を飲めば治ったけれど……でもあの時はほんとうに混乱していた。
今の既視感はそのせいか。
「どうした?ユイ」
「ううん、なんでも」
そうだ。今はナギに教えるのが先だ。生徒会長がいるとも限らないし、いたとしても気付くとも僕に限らない。
今、隣接している建物の窓は閉じている。大丈夫、大丈夫……。
さらに枝に足をかけて登る。そしてまた気づいた。
窓は確かに閉じられていたが、その向こうに生徒会長はいた。
「……っ」
息が詰まる。幸い生徒会長は窓に背中を向けてこちらに気付く様子は無い。椅子と机の位置的に、窓と背中を向くよう設定されているのだろう。生徒会長は事務作業を熱心にしていた。それを窓越しに確認する。
僕と生徒会長の距離は二メートル。大丈夫、静かにしていれば直ぐには気付かないよね?
窓によってフェロモンの匂いも遮断されていて感じないはずだ。
「ユイ」
後ろにいるナギに呼ばれて振り返った。
「ここの建物の二階、生徒会室なんだぜ」
何故今、ナギはその情報を僕に教えてくれたんだろう。鼓動が何かを伝えてくる。ドクン、ドクン、と。
きっと僕は、道化みたいに誰かの手のひらの上で滑稽に踊っていたんだ。でも、それは、生徒会長の手じゃなくて……。
「ユイ、手を出してくれ」
言われたまま、僕はナギに向かって手を出す。今は片手だけでも体を支えられるほど安定した体勢だ。
ナギは僕の手に『何か』を渡してきた。
僕の手が冷たい『何か』を掴む。金属で出来たそれは、僕はよく知ってる。見なくても形だけで。
学園に、持ってこれないだろうと諦めたもの。
けれども、僕の愛用の……。
「ユイなら殺せるだろう?」
「ナギ、なんで……僕の拳銃を」
ベレッタナノ。特徴的なデザインで、とても小さな銃。
咄嗟にナギを見る。普段は見ないような、攻撃的な顔。
「そんなことはユイには関係ない。絶好のチャンスだぜ。生徒会長は今、俺たちに気付いていない。そしてこの窓は普通のガラス……防弾ガラスでも無いから直ぐに割れる。本来ならセキュリティー万全な学園だけどな、俺が普通のガラスにすり替えたんだ。この時の為に」
この時の為に。早くしないと、生徒会長がこちらを向くかもしれない。確かに今はナギの言う通り……。
「ナギ……ナギは、何者?」
動揺でわけが分からなくなる。ナギ、僕はナギのことは何ひとつ知らないんだ。みんなナギって呼ぶけれど、本当の名前も知らない。
「早くしろよ。『監視者』だった俺がこうやってチャンス作ってるんだから。きっと、頭を撫でて、褒めてくれるだろうな?……兄様は」
瞳が揺れて、涙が零れた。両足を大きな枝に乗せて、立ち上がって体勢を整える。
生徒会長に向けて銃のスライドを引き、構えるけれど、震えて、中々トリガーを引けない。
終わらせたいと思ったのは、僕だ。
大丈夫、確かに。これで……終われる。
『俺は、夏向と幸せになりたい』
ふと、生徒会長の言葉が頭を過ぎった。
その瞬間にガラスの割れる音と、銃声音。
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生徒会長に銃弾が掠めることは……無かった。
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