運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

文字の大きさ
19 / 110
4 幸せに成れない人間は幸せに慣れない 。

しおりを挟む
(side夏向)
食堂で生徒会長と会った次の日、僕はナギと大きな木の前にいた。

「学園にある木で一番大きいのはこの木だぜ」
「ありがとう。うん、これだけ大きければ二人でも充分折れないと思う」

木を選んだのはナギだ。僕自身まだ広すぎる学園の全てをまだ把握していない。だからナギに木まで案内して貰った。
でも、この木に何かしら既視感がする。何故だろう。どこかで、見たような……。

「どうした?」
「あ、ううん。なんでも」

建物の三階よりも高く伸び、幹の太さは両手で抱えても足りない。本当にいい木だな。ここなら充分高く登れる。

「ナギ、僕に付いてきて」

そう言って僕は一番近い枝に足をかけた。
ナギも僕に真似て木を登っていく。

「そう次はこの枝……その前にこの枝を掴んで……流石ナギ。やっぱり上手だ」
「ユイの教え方が上手いんだよ」

そう言われて、僕は嬉しくなる。
次の枝へ登ろうと、上を向いて気づいた。

ここは、生徒会長と出会ったところだ……。
なんで今まで気づかなかったんだだろう。転校初日、僕は木に登って、そして窓から身を乗り出した生徒会長と出会い、そして発情した。
ああ、そうか。発情してそれどころじゃ無かったから気づかなかったんだ。周期外の突発的な発情だったから、抑制剤を飲めば治ったけれど……でもあの時はほんとうに混乱していた。
今の既視感はそのせいか。

「どうした?ユイ」
「ううん、なんでも」

そうだ。今はナギに教えるのが先だ。生徒会長がいるとも限らないし、いたとしても気付くとも僕に限らない。
今、隣接している建物の窓は閉じている。大丈夫、大丈夫……。

さらに枝に足をかけて登る。そしてまた気づいた。
窓は確かに閉じられていたが、その向こうに生徒会長はいた。

「……っ」

息が詰まる。幸い生徒会長は窓に背中を向けてこちらに気付く様子は無い。椅子と机の位置的に、窓と背中を向くよう設定されているのだろう。生徒会長は事務作業を熱心にしていた。それを窓越しに確認する。
僕と生徒会長の距離は二メートル。大丈夫、静かにしていれば直ぐには気付かないよね?
窓によってフェロモンの匂いも遮断されていて感じないはずだ。

「ユイ」

後ろにいるナギに呼ばれて振り返った。

「ここの建物の二階、生徒会室なんだぜ」

何故今、ナギはその情報を僕に教えてくれたんだろう。鼓動が何かを伝えてくる。ドクン、ドクン、と。
きっと僕は、道化みたいに誰かの手のひらの上で滑稽に踊っていたんだ。でも、それは、生徒会長の手じゃなくて……。

「ユイ、手を出してくれ」

言われたまま、僕はナギに向かって手を出す。今は片手だけでも体を支えられるほど安定した体勢だ。
ナギは僕の手に『何か』を渡してきた。
僕の手が冷たい『何か』を掴む。金属で出来たそれは、僕はよく知ってる。見なくても形だけで。
学園に、持ってこれないだろうと諦めたもの。
けれども、僕の愛用の……。

「ユイなら殺せるだろう?」
「ナギ、なんで……僕の拳銃を」

ベレッタナノ。特徴的なデザインで、とても小さな銃。

咄嗟にナギを見る。普段は見ないような、攻撃的な顔。

「そんなことはユイには関係ない。絶好のチャンスだぜ。生徒会長は今、俺たちに気付いていない。そしてこの窓は普通のガラス……防弾ガラスでも無いから直ぐに割れる。本来ならセキュリティー万全な学園だけどな、俺が普通のガラスにすり替えたんだ。この時の為に」

この時の為に。早くしないと、生徒会長がこちらを向くかもしれない。確かに今はナギの言う通り……。

「ナギ……ナギは、何者?」

動揺でわけが分からなくなる。ナギ、僕はナギのことは何ひとつ知らないんだ。みんなナギって呼ぶけれど、本当の名前も知らない。

「早くしろよ。『監視者』だった俺がこうやってチャンス作ってるんだから。きっと、頭を撫でて、褒めてくれるだろうな?……兄様は」

瞳が揺れて、涙が零れた。両足を大きな枝に乗せて、立ち上がって体勢を整える。
生徒会長に向けて銃のスライドを引き、構えるけれど、震えて、中々トリガーを引けない。

終わらせたいと思ったのは、僕だ。
大丈夫、確かに。これで……終われる。


『俺は、夏向と幸せになりたい』


ふと、生徒会長の言葉が頭を過ぎった。
その瞬間にガラスの割れる音と、銃声音。

震えながらトリガーを引いた手。

生徒会長に銃弾が掠めることは……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

処理中です...