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4 幸せに成れない人間は幸せに慣れない 。
夕食
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(side夏向)
割れたガラスは騒ぎになったが、生徒会長が払えない僕の代わりに弁償を名乗り出た。教師には、生徒会室の窓は木登り中に枝がガラスに当たって割れた、と誤魔化した。
銃弾は既に僕が回収してある。生徒会長はただ笑って『また秘密が増えたな』と僕に言った。
きっとバレたとしても、また誰かが揉み消すのだろうか。
窓ガラスを片付けた後、僕は生徒会長の部屋まで来ていた。
「手、見せて」
「怪我してる?俺も夏向に必死で」
「うん、痛そう……」
生徒会長の手は窓ガラスの破片で血だらけだ。心配になって保健室に連れて行こうとしたら、生徒会長に断られた。そして代わりにここに連れてこられた。
救急箱を空け、消毒液を生徒会長の手にかける。せめて、これくらいはするべきだろう。僕のせいで怪我をしたのだ。いや、本当にこれ位で済んでほっとした。ほっと、安心してしまった。
「保健室はなんで嫌なの?」
「だって、こうして夏向に手当てをして貰えない。α専用の保健室にΩは入れないから。こんな時に、離れ離れになる。それは俺にとって耐え難い苦痛だ」
「そうかな……僕から離れた方がいいと思う」
本当は、気づいてた。生徒会長は僕にとって眩しいくらいの希望だということを。
でも……僕に差し出す手を掴んでしまえば、きっと道連れにしてしまう。生徒会長まで絶望の海に落としてしまう。……僕のせいで。
まだ、やっぱり怖いんだ。僕はここから抜け出せない。僕の罪は剥がれない。
それまでにただ、生徒会長の手を……離したいんだ。僕は、生徒会長を不幸にしか出来ないから。
「俺は、夏向と一緒に居たいよ。あの時……銃弾を外したのはわざと……だよな?」
こくり。と頷いた。殺したいとあれ程思ったはずなのに、あの場面で殺したくないと思ってしまった。死ななくて、ほっとして、良かったと思ってる。
本当はずっと、心の奥底では殺したくなかったのかも。
僕のΩとしての性が、出会いたかったと叫んでいる。僕の片割れと、ずっと一緒にいたいと叫んでいるんだ。
僕はこんな簡単なことに漸く気づいた。これは、とっくに諦めた感情。
生徒会長が……好き
でも、だからこそ……幸せになって欲しい。
「ごめんなさい」
「だからなんで謝るの」
「僕なんかが、運命で」
「光栄だよ。君を守る為に俺がいるんだから」
「……」
何も言葉を紡ぐことが出来なくて、無言で生徒会長の手に包帯を巻く。そうやって都合が悪くなると黙る僕を、生徒会長はどう思っているのだろう。
嫌な奴だって、思ってくれないだろうか。
「夏向」
生徒会長が僕を呼んだ。
「今日はここに泊まってくれないだろうか。許可はもう出てる。夜は遅いし、その方が夏向も楽だと思うんだ」
「うん……」
「手当て、ありがとう。とりあえず……夕飯はシェフを呼ぶから待っててくれ」
「待って、シェフを呼ぶの?」
「いつもそうしてる。ここにキッチンはあるけど俺は作れないし、ここから食堂は遠い。だからシェフを呼んで作って貰ってるんだよ」
「それは……待って。僕が作る」
シェフを呼ぶのは気が引けて、つい提案してしまった。こう見えて家事は出来る方だ。Ωとして捨てられたあの日から、生活力は僕の必要な能力になってしまった。
「作れるんだ」
「シェフの料理の方が美味しいだろうね。僕は生憎、料理のプロじゃないから。嫌ならいいし、多分苦労を知らないα坊ちゃんの口には合わないし」
「嬉しい。夏向が作ったものならなんでも食べるよ、俺は」
「メニューは味噌汁と……後は材料で決める」
僕から言い出したのだし、後には引けなくなってキッチンへと向かった。
材料は…何があるだろうか。冷蔵庫を開けると、背後から生徒会長の声がした。
「何が作れる?」
「牛乳がある。それから玉ねぎとか……野菜も揃ってるからシチューかな。いや、パン粉もあるからクリームコロッケなんかも作れるよ」
「作れるのか?なら、クリームコロッケが食べたい。好物なんだ」
「オーケー」
メニューはそうやって決定した。生徒会長も高いところにある食器を取ってくれたりして、何だかんだで手伝ってくれた。久々だから少し苦戦したけれど……ちゃんと完成。味も悪くないと思う。
僕の作った味噌汁とクリームコロッケを、生徒会長は喜んで食べてくれた。
「そんなに美味しい?」
「もちろん。毎日食べたいくらい」
「飽きるよ。毎日食べたら。別に……作ったことがあるだけ」
「嬉しい。俺は幸せ者だ」
その言葉に、ドキッとした。本当にそうだろうか。ああ、やっぱり居心地がどうも悪い。下を向いて、気付かれないよう頬を染める。
「違う……あんたなら、もっと……」
「夏向、食べないのか?」
「気分じゃない」
「そうか。なあ、夏向。明日俺と話そう。話したいことは沢山ある。明日からは連休だし、どこかに出かけるのもいい。俺たちの今後のことを話したいんだ」
「……うん」
連休。確か明日から土日。そのあとの月曜日は創立記念日で休みだったはずだ。そして火曜日から4日間がテスト期間。本当ならこの連休中にナギとテストの勉強会をする約束だった。でももう約束は中止だろう。
今後のこと……か。それを考える余裕は、僕には無かった。
ただ、生徒会長の元から離れたいと思った。僕は『運命』かもしれないけど、きっと生徒会長は僕以外にもいい人がいる。
僕のせいで不幸になるべき人ではない。
離れるなら今日かな、なんて考えてみる。
今後、右代家がどう動くのか分からない。またナギみたいなことになったら……僕はどうしたら良いんだろう。
僕の傍は人を不幸にさせる。そんなことはとっくに知っている。罪を重ねたこの身体は、きっと幸せになることも許してくれない。
『ここ』以外に居場所なんて無いけれど、そんなことはどうでも良かった。
きっと意外と何ととでもなる。ならなければ……忌み物にされて、野垂れ死ぬだけだ。
生き甲斐や希望など、すべて忘れてしまった僕には最早それすらもどうでもよかった。
割れたガラスは騒ぎになったが、生徒会長が払えない僕の代わりに弁償を名乗り出た。教師には、生徒会室の窓は木登り中に枝がガラスに当たって割れた、と誤魔化した。
銃弾は既に僕が回収してある。生徒会長はただ笑って『また秘密が増えたな』と僕に言った。
きっとバレたとしても、また誰かが揉み消すのだろうか。
窓ガラスを片付けた後、僕は生徒会長の部屋まで来ていた。
「手、見せて」
「怪我してる?俺も夏向に必死で」
「うん、痛そう……」
生徒会長の手は窓ガラスの破片で血だらけだ。心配になって保健室に連れて行こうとしたら、生徒会長に断られた。そして代わりにここに連れてこられた。
救急箱を空け、消毒液を生徒会長の手にかける。せめて、これくらいはするべきだろう。僕のせいで怪我をしたのだ。いや、本当にこれ位で済んでほっとした。ほっと、安心してしまった。
「保健室はなんで嫌なの?」
「だって、こうして夏向に手当てをして貰えない。α専用の保健室にΩは入れないから。こんな時に、離れ離れになる。それは俺にとって耐え難い苦痛だ」
「そうかな……僕から離れた方がいいと思う」
本当は、気づいてた。生徒会長は僕にとって眩しいくらいの希望だということを。
でも……僕に差し出す手を掴んでしまえば、きっと道連れにしてしまう。生徒会長まで絶望の海に落としてしまう。……僕のせいで。
まだ、やっぱり怖いんだ。僕はここから抜け出せない。僕の罪は剥がれない。
それまでにただ、生徒会長の手を……離したいんだ。僕は、生徒会長を不幸にしか出来ないから。
「俺は、夏向と一緒に居たいよ。あの時……銃弾を外したのはわざと……だよな?」
こくり。と頷いた。殺したいとあれ程思ったはずなのに、あの場面で殺したくないと思ってしまった。死ななくて、ほっとして、良かったと思ってる。
本当はずっと、心の奥底では殺したくなかったのかも。
僕のΩとしての性が、出会いたかったと叫んでいる。僕の片割れと、ずっと一緒にいたいと叫んでいるんだ。
僕はこんな簡単なことに漸く気づいた。これは、とっくに諦めた感情。
生徒会長が……好き
でも、だからこそ……幸せになって欲しい。
「ごめんなさい」
「だからなんで謝るの」
「僕なんかが、運命で」
「光栄だよ。君を守る為に俺がいるんだから」
「……」
何も言葉を紡ぐことが出来なくて、無言で生徒会長の手に包帯を巻く。そうやって都合が悪くなると黙る僕を、生徒会長はどう思っているのだろう。
嫌な奴だって、思ってくれないだろうか。
「夏向」
生徒会長が僕を呼んだ。
「今日はここに泊まってくれないだろうか。許可はもう出てる。夜は遅いし、その方が夏向も楽だと思うんだ」
「うん……」
「手当て、ありがとう。とりあえず……夕飯はシェフを呼ぶから待っててくれ」
「待って、シェフを呼ぶの?」
「いつもそうしてる。ここにキッチンはあるけど俺は作れないし、ここから食堂は遠い。だからシェフを呼んで作って貰ってるんだよ」
「それは……待って。僕が作る」
シェフを呼ぶのは気が引けて、つい提案してしまった。こう見えて家事は出来る方だ。Ωとして捨てられたあの日から、生活力は僕の必要な能力になってしまった。
「作れるんだ」
「シェフの料理の方が美味しいだろうね。僕は生憎、料理のプロじゃないから。嫌ならいいし、多分苦労を知らないα坊ちゃんの口には合わないし」
「嬉しい。夏向が作ったものならなんでも食べるよ、俺は」
「メニューは味噌汁と……後は材料で決める」
僕から言い出したのだし、後には引けなくなってキッチンへと向かった。
材料は…何があるだろうか。冷蔵庫を開けると、背後から生徒会長の声がした。
「何が作れる?」
「牛乳がある。それから玉ねぎとか……野菜も揃ってるからシチューかな。いや、パン粉もあるからクリームコロッケなんかも作れるよ」
「作れるのか?なら、クリームコロッケが食べたい。好物なんだ」
「オーケー」
メニューはそうやって決定した。生徒会長も高いところにある食器を取ってくれたりして、何だかんだで手伝ってくれた。久々だから少し苦戦したけれど……ちゃんと完成。味も悪くないと思う。
僕の作った味噌汁とクリームコロッケを、生徒会長は喜んで食べてくれた。
「そんなに美味しい?」
「もちろん。毎日食べたいくらい」
「飽きるよ。毎日食べたら。別に……作ったことがあるだけ」
「嬉しい。俺は幸せ者だ」
その言葉に、ドキッとした。本当にそうだろうか。ああ、やっぱり居心地がどうも悪い。下を向いて、気付かれないよう頬を染める。
「違う……あんたなら、もっと……」
「夏向、食べないのか?」
「気分じゃない」
「そうか。なあ、夏向。明日俺と話そう。話したいことは沢山ある。明日からは連休だし、どこかに出かけるのもいい。俺たちの今後のことを話したいんだ」
「……うん」
連休。確か明日から土日。そのあとの月曜日は創立記念日で休みだったはずだ。そして火曜日から4日間がテスト期間。本当ならこの連休中にナギとテストの勉強会をする約束だった。でももう約束は中止だろう。
今後のこと……か。それを考える余裕は、僕には無かった。
ただ、生徒会長の元から離れたいと思った。僕は『運命』かもしれないけど、きっと生徒会長は僕以外にもいい人がいる。
僕のせいで不幸になるべき人ではない。
離れるなら今日かな、なんて考えてみる。
今後、右代家がどう動くのか分からない。またナギみたいなことになったら……僕はどうしたら良いんだろう。
僕の傍は人を不幸にさせる。そんなことはとっくに知っている。罪を重ねたこの身体は、きっと幸せになることも許してくれない。
『ここ』以外に居場所なんて無いけれど、そんなことはどうでも良かった。
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