運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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12 なんなんだ、この違和感は。

話し合い

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(side光希)
「あ、夏向に抑制剤返すの忘れてたな」

なんて独り言を呟く。何気なくポケットに手を入れたらいつもは無い感触に気づいた。
まあ、朝返すの忘れてただけだ。一緒に帰る時に渡せばいいだろう。夏向は今藍と蓮叶くんとランチタイムらしいし。
ちなみに俺は生徒会室の前で右代春都を待っている状態だ。
きっとそろそろ来るだろう。そこで選挙の相談をする。期限とルール確認、それから今後の予定。これから決めることは沢山ある。もちろんリコールの場合の選挙ルールはある程度決められてはいるが。
それでもリコール自体がそもそも珍しく、この学園の歴史において行使されたのは少数だ。
それも、転入してきたばかりの生徒がリコールをするなんてのは歴史上、いちども無かった。

こういう事態になったのは今がSNSが盛んな時期だから、というのも有るのだろう。
匿名で根拠の無いコメントが、あたかも民衆の総意であるかのように錯覚させられてしまう。嘘も真実も一律に広まってしまうから、見分けるのには頭の賢さがいる。
まあ、ハトファイが出来る前は新聞部や放送委員会などが情報を取り締まっていたらしい。
それはつまり、彼らが情報操作をしてしまえば、民衆は真実を知るきっかけが全くなかったと言えるだろう。
だから自由に意見を言える今の世の中は、恵まれているとも言える。

実はよくよく生徒たちの意見を聞いてみると、ハトファイでの意見と生徒たちの意見は違う。
昨日藍に食堂での噂について教えてもらった後、俺もちゃんと調べてみた。情報通の知り合いに頼んだり、実際に俺から生徒たちと連絡してみたり……それで、気づいた。
ハトファイで主にコメントしている反対派の意見は素行が悪い生徒、かつての古波鮫支持派だ。それが今では凪支持派になり、春都支持派になっている。
基本、彼らは集団で俺たちを、夏向を攻撃するようにコメントを書き込む。
昨日は藍の番の蓮叶くんから、俺がβの生徒から反感を得ているという情報を貰った。
これは蓮叶くんが、『そっち』方面の知り合いが多いことから流れてきた噂だ。確かに凪支持派には酷く嫌われているけれど……よくよく探ってみれば、彼らの意見は生徒の総数の中でも少数派だった。

けれども、たったひとつ問題があるなら……生徒たちが夏向をよく知らないことをいいことに、好き勝手貶している事だろう。俺に不満がない、俺支持派の生徒でも夏向のことはよく知らない。だから根拠のない噂でも、噂しか無いのだから真実になってしまう。
確かに俺を崩すのには『そこ』から切り込む方が早い。この一連の悪い噂がアイツらの策略なら、何とも賢いやり方だ。

小さく舌打ちする。自分の番が俺のせいで周りから貶され陥れられている。この現状がもどかしくて仕方が無い。
本当は……俺個人の本音を言うなら民衆みんなよりも、たったひとりうんめいを守り導いていきたいのだけれど。
民衆をとって夏向を失うなんてそれこそ本末転倒だ。
けれども夏向が俺に生徒会長という地位に縋って欲しいと願うなら、俺はこのまま真っ直ぐ立つしかないのだ。
それが俺がαである宿命なら、それを受け入れよう。両方を手に取って、そして幸せになってみせる。

そんな時、強いフェロモンを感じて身構えた。ついに来たようだ。

「ふふ、こんにちは」

右代春都が変わらない笑顔だ。ご近所さんに挨拶するような態度で俺と対峙する。

「……こんにちは」

彼と同じ態度で接したつもりだったのに、彼はふと首を捻った。

「殺気を隠しきれてないよ。君。リラックスしなさい」
「リラックスする気はない。ここは戦場だ。俺は君を敵とみなしているから」

生徒会室の扉を開けて、彼を招き入れた。鍵を閉めて、他に入ってこれないようにする。
下手に侵入者を許したら、殺されるかもしれない。とは言っても、右代春都自身は俺を殺そうとはしないのは明確だった。

もし本当に彼が俺を殺したいのなら……最初からこの学園に右代春都が転入すれば良かった。なんなら、壮一郎に暗殺を任せば良かった。誘惑して殺す方法を知らなくても、壮一郎なら暗殺位の技術は身についているはずだ。

今まで夏向以外にも暗殺者にも何人か出会ったが……彼らもきっとΩだ。

一旦深く息を吐いて、威嚇のつもりでフェロモンを出す。右代春都を椅子に座らせて、俺も続けて向かいあった椅子に座る。

「さて、こちらから要求しよう。演説、そして投票は明日にして欲しい」
「……それは早すぎないかな?」

全校生徒を体育館に集めて、そして得票数を計算しなければならない。ポスター作りだって、何もかも始まっていない。
なのに明日?馬鹿でも分かるだろう。流石に不可能だと。

「でも、僕が正式に転入するのは来週の月曜日からなんだよね。その頃には生徒会長としてこの学園を乗っ取りたいな」

ピリピリと右代春都の……威嚇のフェロモンを感じる。

「この学園は君のものでは無い。ここで暮らす生徒たちのものだ。生徒たちは本物の社会に出る前に、ここで小さな社会を経験する。俺はそんな社会を正常に機能させる為に生徒会長をやっているんだ。自分の欲の為に……独裁政治をする場所では無いよ」
「分からない。みんなαに服従する。それは僕に付き従いたいという意思表示では無いのかい?」
「少なくとも俺は、君に付き従いたいとは思わないよ」

無意識に、俺は腕を組んでいた。価値観が違いすぎて、話はどうしても進まない。育った環境は近いはずなのに、どうしてここまで……俺と君は、価値観が断絶してしまったんだろう。
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