運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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14 標的を殺したい僕、運命を守りたい俺

逃げる

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(side不明)
夏向の演説が遠くに聞こえる中で、藍は電話を切り、とある人物の人影を追った。

「どこに逃げるつもり~?」

藍はにやり、と笑う。何故非常口から彼は体育館から出ていこうとするのか。まだ夏向の演説が残っている。自分の演説が終わったからもう退出してしまう、というのは無神経過ぎるだろう。彼……いや春都は足を止めて、振り返る。そして口を開いた。

「面倒事に巻き込まれるのは、面倒臭いからね」
「そっか、でも残念~。君はもう、何処にも逃げられないよ」
「どういう意味なんだい?」

じっと、春都は藍を睨む。火花を散らす。うっすらと藍の額には汗が滲んでいた。やっぱり春都のフェロモンは強い。けれども悟られないように『余裕』という表情を浮かべる。

「わかんないなら、実家に電話してみたら?ここは小さな擬似社会だけれど……本物の、大きな社会とは完全に隔離されてるわけじゃ無いんだし」
「……まさか」

藍が初めて見た、春都の動揺の顔だった。いや、藍だけでなくきっと夏向も見たことが無いだろう。いつも彼は余裕そうに口元に笑みを浮かべ、そして人を駒のように扱う。それなのに思わず顔を歪めてしまうのは春都に心当たりがあるからだ。
少し前から春都のスマホがひっきりなしに鳴っていた。今もだ。電話やメールの着信が止まらない。さっきまで無視し続けたけれど……まさか。まさか。

「そのまさかだよ」

藍が言う。
慌てて春都はスマホを取りだした。数あるメールの中から父親からのメールを読む。

『警察が家に来た』
『もうおしまい』
『全部、バレた』
『こっちはもう混乱してめちゃくちゃだ』
『そっちはどうだ?』

概要だけ見ると、そんな感じだ。春都は無意識に舌打ちする。思ったよりも、危機的状況にある。知らないうちに、崖っぷちに立たされていた。

「七世光希に拘りすぎた。それが君の敗因だよね~」
「うるさい。たかが弱小αが」
「それでも、悪いことはしちゃ駄目なんだよね。流石にそれが分からないほど子供でもないよね?」

藍は『弱小』という言葉に密かに怒っていた。そりゃ光希や春都と比べると少し劣るだろう。もっともっとと足掻いてみたが、どうやっても生まれ持ったαとしての資質は変わらない。努力によって掴み取ったのは光希への信頼と、学校の成績だけだった。
それでも高みへはまだまだ遠い。
親にはいつも失望されて生きてきた人生だ。
怒りをどうにか抑えようと拳を握る。

「悪いこと、した覚えも無いけどね?みんな、僕のために動いてくれるから。僕はただ、笑って、言うんだ『いつもありがとう。これからもよろしくね』って」
「それで、君はかなたんに罪を擦り付けた。悪いのは、右代春都。君だよ」
「かなたん……?僕の弟にまた変な渾名をつけるね。壮一郎のも傑作だったけれど」
「話をそらさないで」

遠くで、パトカーの音が聞こえる。この学園に、何か異常事態が起きている。少しづつ、平穏なものが破壊され世界は混沌に満ちる。
春都は仕方なしにと切り札を切る。流石に無傷とはいかない。
けれども、最後に笑えばいいのだ。

「へぇ。君は良いのかな?君の愛すべきご主人様が『運命』なんかに殺されるかもしれないのに」
「……?」

藍はフェロモンの、匂いを感じた。

「……!!」

そして、その瞬間それが爆発する。
藍は番がいるからラットになることは無いが、察しの良さで分かってしまった。焦りで、身体が震える。ギリギリ耐えていた春都との威嚇のフェロモンも、意識を逸らしてしまいプツンと敗れてしまった。
瞬間、ぐらりと頭が揺れる。

「僕のことなんて放っておいて、行った方がいいよ」
「その間に、君は逃げるでしょ~?」

藍は息が切れてしまう。α同士のフェロモンは、睨み合いや、喧嘩に例えられる。
けれども優劣が付くと、一方的な暴力になってしまう。α同士のフェロモンの強さは、生まれながらの才能の差で、決して努力では埋まらないものだ。

さっきまで、追い詰めて優勢だったのに。そんなにも、持って生まれたものが違う?この差はなんだろう。
同じ人間なのに、人は平等では無いのだ。
藍は世界の理を憎んだ。

本音を吐くと、今すぐここから、逃げてしまいたい。光希や夏向のことも心配だ。でも、それ以上に、こんな化け物と対峙したくない。光希はずっと、『こんなの』と対等に威嚇しあっていた。悔しい。自分とではこんなにも格が違うのか。光希との差は埋まらないのか。

行った方がいいんじゃないか。夏向のフェロモンに代わって、行方不明だった光希のフェロモンを強く感じた。体育館から離れたここでも感じるくらいだから、きっと向こうはもっとキツいのだろう。光希は夏向を助けに行って、それで……。
考えれば考える程悪い方に想像してしまう。
まさか、自分の番の蓮叶にまで、まさか。
藍はぐるぐる考えてしまい、顔面蒼白になる。
春都はそれを面白がって、『ほら』と笑った。
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