運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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2部 光希と夏向のそれから

あーん

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(side夏向)
それから。
僕が熱で入院しているうちに、六月から七月になっていた。
僕はまた学園に通った。ナギはもうクラスにいなくて……いつの間にか学園を辞めていた。噂では警察に捕まったらしい。
噂の真偽は分からないけれど、きっと光希なら知っている。けれどまだ尋ねようとは思わない。光希から聞かされた真実に、僕はどう反応すればいいのか分からないからだ。


あの演説でのことは警察沙汰になり、結構な騒ぎになったと聞いているけれど……ニュースでは一切騒がれていなかった。まあ、そのことについては、藍先輩から『七世からマスメディアに圧力かけたからね~』と聞かされている。

ちなみに、テレビは『右代』の不正発覚で大盛り上がりだ。
こっちに矛先が向くことは、もう暫く無いと思う。
『圧力かけてても、たまにアホが出現することが有るんだけどね~。でもマスコミがもっと大きな餌に食いついてくれたおかげで、今はその心配は無さそう』なんて藍先輩も笑っていた。

『アホって……』と苦笑していたけれど、言いたいことは分かる。言い方が酷いけれど、流石に藍先輩と光希はその辺慣れていそうだ。


ちなみに、学園内で僕のことはそりゃもう、全校生徒に名前が広まってしまっている。
どう広まったか。それは『生徒会長と付き合ってる結野夏向』だ。
それがこの学園での僕の肩書き。間違っちゃ居ないけれど、『運命』だとか『番』だとかはスルーされた。βに無い概念だから、番とか言ってもぴんと来ないのだろう。

教室に入れば、机の上に当たり前のように貢物があって、昼食を取ろうとすれば誘われ、後は今日の靴箱にも貢物が入っていた。
悪意では無いから良いんだけど、思惑としてはアレらしい。
僕と友達になれば生徒会長とも知り合えるという、『将を射んとせば先ず馬を射よ』的なやつだ。つまり僕は馬だ。
まあ、いくら頑張ったところで無意味なんだけどさ。
なぜなら嫉妬心全開の光希が貢物を全部捨て、昼食では僕をかっさらっていくから。
完全に『将を射んとせば先ず馬を射よ作戦』は本末転倒だろう。
だからまあ、そのうち収まるだろう。僕はそう思ってる。あんまり気にしてないし、気にしたら光希が怒るから……慰めるのも大変だ。


そして今日も、光希にかっさらわれてお昼を一緒に食べる。ちなみに騒がれないよう、せっせと食堂の個室に移動した。

「今日は何貰ったのかな?」
「アクセサリーと?鞄と?えーと……」
「夏向」

じろり、と睨まれる。うう、そんな顔しないでってば。

「高級有名店のチョコレートの詰め合わせ……」
「うん、全部俺が処分しておくから出して」
「え、駄目!?絶対美味しいと思うんだけど……光希と一緒に食べたいな~なんて思ってたんだけど」

恨みがましく僕は光希を睨む。最近はお見通しみたいであまり隠さなくなってきたけれど……僕も藍先輩と同じくかなりお菓子好きだ。それも有名店のチョコレートってなったら絶対美味しいに決まってる。

「毒が入ってたらどうするのかな。惚れ薬とかさ。夏向に何かあったら、俺は犯人をうっかり殺しちゃうかもしれない」

なんてこと言うんだ。光希に相応しくない『殺す』という発言に、僕は口をあんぐり開ける。

「学園の生徒を疑うのデスカ?生徒会長サン」
「全校生徒の心情までは俺は把握出来ないよ。『うちの学園の生徒はみんないい子なんです!!』というのは対外向けに先生が使う美辞麗句みたいなものだ」

そりゃそうだけど……もうちょっと言い方があるでしょうよ。光希サン。何だかんだで、藍先輩と同じく口が悪いな、光希。上に立つ人間に相応しい、いい性格してる。

「なんか最近。αコンビはもしかすると、すんげぇ本性は悪いんじゃないかと思ってきた……」
「αコンビって、俺と藍のこと?」
「そう」

僕が頷くと光希はため息をついて、『心外だなぁ』と呟いた。

「俺、なるべく優秀な生徒会長でいようとしてるんだけど……夏向には分からない?」
「それは認めるって。光希はめちゃくちゃ頑張ってるよ」
「じゃあ日々の頑張りに、夏向が俺をよしよししてくれる?」
「へ?」

光希は口を膨らまし眉間に皺を寄せる。
そんな顔をした光希から、とんでもない言葉が聞こえてきて、僕は首を傾げてしまった。

「いや、食事中なんだけど。今日の唐揚げ、見えない?ほら、光希の好物」

僕たちは向かい合って座っているし、ここからよしよしするとなると……僕は立ち上がらないといけない。流石にマナー違反だろう。個室だから僕たち以外誰もいないっていってもさ。

「見えてるよ。じゃあよしよしの代わりに夏向が『あーん』して」
「甘えたいだけだな。光希」
「嫌なら俺の『あーん』で食べる?ほら、あーん」
「あーーもう。押し付けないで。食べるから。……あーん」

もごっと口の中に唐揚げが入る。美味しい。話がめちゃくちゃ逸れた気がするけど、美味しい。熱々唐揚げを丸々食べるのは、猫舌の僕にはちょっと辛いけれど……お水を口に含んで何とか食べる。
一生懸命飲み込もうと、もごもごしていたら、光希が震えながら『可愛い』と呟いていた。
……なんか、悔しい。

そんな時、校内放送が僕を呼んだ。
お昼に呼び出されるの、二回目だ。今度はなんだろう。

「行ってくるよ」
「待って俺も……」
「大丈夫だから。流石に過保護過ぎ」

ここから職員室は近い。光希は本当に過保護過ぎる。下手したら『授業を夏向と一緒に受ける!』とか言いかねないのでちょっとひやひやしてるんだ。適度に僕が離さないと、光希の品格とかが色々地に落ちそうだ。
ただでさえ、『前の方がクールでかっこよかったのに、幻滅!』みたいな声もちゃんとあるのに。
これ以上酷くなったら支持率が落ちて、もう一回リコール騒ぎになりそうだ……。

ため息を付きながら、僕は職員室に向かった。

ちなみに。用事を終わらせて光希の元へ帰ってきたら、今日の貢物が勝手に全部消えていたのは言うまでもない。
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