27 / 40
26.折り紙愛好会連合への招待状
しおりを挟む
「明日までなんですねー、高村せんせー」
帰りのHRが終わった時、教壇に早瀬や、他の生徒が寄って来て、口々に言った
「明日まで……」
高村は天井を向いて、思い返す。
「うん、そう言えば、そうだな」
「何だよ、高村さん、忘れてたのかよ」
へへへ、と男子生徒の一人が笑った。
「うるせえな、その位、オレは真剣だったんだよ、覚えとけ」
けっ、と高村は笑いながら毒づく。だがすぐにその笑いは止まった。
「うん。そうだなあ…… 二週間なんて、長い長いと最初は思っていたけど、過ぎてみると、あっと言う間だったなあ」
「ここは居心地良かった?」
教壇に腕を乗せて、女生徒の一人が問いかける。
「良かった…… うーん、……考える暇、無かったような」
「何だよそりゃ」
男子生徒がげらげら、と笑った。
「君等そうやって笑うけどな、いつかこっちの身にもなってみろって言うんだ」
口を歪めて高村も応戦した。うーん、と中には考える生徒も居た。おそらくは、教職志望の者だろう。
「ま、何にしろ、明日までだし、それまでは、オレもきっちりとやるからな」
「南雲さんの授業より、あたし、好きだったなー」
「それは南雲先生の前じゃ言うなよっ!」
高村は慌てて声をひそめた。ういっす、と男子生徒達が声を揃えて返事をしたので、その場は大笑いになった。
*
二週間か。
高村は職員室に向かう廊下を歩きながら考える。
確かに、よく考えてみると、授業に関することは楽しかった気がする。
あまりにも、他に惑わされることが多すぎたせいかもしれない。幸か不幸か、他の馬鹿馬鹿しさが目について、本分の楽しさが印象つけられてしまったのかもしれない。
とにもかくにも、自分には合っている職だろう、と高村は思った。おそらく、自分はこのままこのコースを進むのだろう、と。
それこそ、森岡の言う通り「あと一押し」なんて無いのかもしれない。気がついたらそれが天職だった、と気付くのかもしれない。それならそれも、いいだろう。
彼はそう思い始めていた。
ただ。
ぷる、と図書室の前に差し掛かった辺りで、ポケットの中の携帯が震えた。
「はい」
『高村さん?』
山東の声だった。
*
「高村先生、明日までだねー。俺は寂しいよっ」
島村の本日の眼鏡は、丸い金属のフレームだった。そう言えば、このひとはこれが一番似合うかもしれない、と彼は思う。
「そうですねえ、島村先生とももうお会いできないと思うと、オレも寂しいですよ」
「ふうん。君もずいぶん、口が上手くなったねえ」
にやり、と島村は笑う。
「まあ口の上手さは教師には大切だしね。良いことだ良いことだ」
ははは、と何処からか、金銀きらきらの扇を取り出し、ぱたぱたとかざす。
一体このひとは何処から何を取り出しているんだ、と本気で高村は判らなくなった。
「それはそうと、今日も残ってくの? ここのとこ、ずっと夜遅くまで、化学準備室に残っていたそうじゃないの」
「あ、今日は早く切り上げようと思います」
少しばかり、彼は声のヴォリュームを上げた。
「明日で最後ですから、今日はゆっくり睡眠をとって、明日最後の授業と、HRを堪能しようと思いまして……」
「余裕だねー、高村先生。よし、そんな君に俺からとっておきのお手紙をあげよう」
「お手紙?」
「折り紙愛好会連合へのご招待状」
そう言いながら、島村は小さな小さな薄桃色の包みを彼に手渡した。
「……これが、ご招待状、ですか?」
「そ」
「もしかして、森岡先生も入ってる、っていう……」
「おや、よく知ってるじゃないの。ただし、ちゃあんとこれを破かずに開けられない奴には、その資格は無いからね」
とん、と島村はその包みを人差し指でつつく。
「はあ……」
「あ、またそんな顔をしてる。この『手紙のバリエーション』はね、全国の旧女子高生が、長い伝統の上に作り上げていった、現代折り紙の中の一つの形なんだよー」
それはそうかもしれないが。
高村はちょこん、と手の真ん中に小さく乗ったそれを見つめる。どうやら、薄手の桃色の紙をこれでもかとばかりに小さく複雑に折り畳んだものらしい。
「ま、返事は明日もらうからね。それと」
「ま、まだ何かあるんですか?」
高村はやや逃げ腰になる。
「高村先生の、端末の電話番号が欲しいなー」
「端末の」
「これは個人的に」
にやり、と島村は笑った。
「……」
個人的に、って一体何だろう……
不可解に感じつつも、高村はじゃあ、と近くのメモに自分のナンバーを書いた。
「ちなみに俺のはこれね。何か役立つかもしれないからさ」
役立つ…… 役立つだろうか。高村は非常にそれは疑問だったが、とりあえずメモを受け取り、ちら、と見ておいた。
「忘れないでよ、ご招待状」
「はいはい」
そう言いながら高村はズボンのポケットに「ご招待状」を入れ、今日明日限りの自分の席についた。
「ずいぶんと島村先生と仲が良くなったようじゃないの、高村先生」
くすくす、と南雲は笑う。
「仲が良くなった…… と言うんでしょうか」
「だって最初の時のあなたの反応からしても大違いよ。それに今の見てたら誰だって思うわよ。島村先生からしたらこれはすごく気に入った部類よ」
そうですか、と答えつつも、高村の気持ちはやや複雑だった。
「あ、で、今聞こえちゃったんだけど、あなた今日は、早く帰るの?」
「ええ」
高村はうなづいた。
「明日担当の一時間は、前にやった所の手直しの様なものですから…… どちらかというと、体調万全で、ちゃんと生徒に向かいたくて……」
「そう」
南雲はうなづいた。
「それはそれで、良いことじゃない? じゃあ、定時で帰るのね」
「定時よりは少し遅くなるかもしれませんが」
「それでもここ最近の七時八時上がり、なんてのは無しよ。私もそろそろちゃんと定時少しで切り上げたいわ。お肌の曲がり角なんだし」
「南雲先生、女性のお肌のピークは十代だそうですよ」
島村が声を飛ばした。
「うるさいですよ!」
彼女は腕を振り上げながらも笑った。高村もつられて笑ってみせた。
帰りのHRが終わった時、教壇に早瀬や、他の生徒が寄って来て、口々に言った
「明日まで……」
高村は天井を向いて、思い返す。
「うん、そう言えば、そうだな」
「何だよ、高村さん、忘れてたのかよ」
へへへ、と男子生徒の一人が笑った。
「うるせえな、その位、オレは真剣だったんだよ、覚えとけ」
けっ、と高村は笑いながら毒づく。だがすぐにその笑いは止まった。
「うん。そうだなあ…… 二週間なんて、長い長いと最初は思っていたけど、過ぎてみると、あっと言う間だったなあ」
「ここは居心地良かった?」
教壇に腕を乗せて、女生徒の一人が問いかける。
「良かった…… うーん、……考える暇、無かったような」
「何だよそりゃ」
男子生徒がげらげら、と笑った。
「君等そうやって笑うけどな、いつかこっちの身にもなってみろって言うんだ」
口を歪めて高村も応戦した。うーん、と中には考える生徒も居た。おそらくは、教職志望の者だろう。
「ま、何にしろ、明日までだし、それまでは、オレもきっちりとやるからな」
「南雲さんの授業より、あたし、好きだったなー」
「それは南雲先生の前じゃ言うなよっ!」
高村は慌てて声をひそめた。ういっす、と男子生徒達が声を揃えて返事をしたので、その場は大笑いになった。
*
二週間か。
高村は職員室に向かう廊下を歩きながら考える。
確かに、よく考えてみると、授業に関することは楽しかった気がする。
あまりにも、他に惑わされることが多すぎたせいかもしれない。幸か不幸か、他の馬鹿馬鹿しさが目について、本分の楽しさが印象つけられてしまったのかもしれない。
とにもかくにも、自分には合っている職だろう、と高村は思った。おそらく、自分はこのままこのコースを進むのだろう、と。
それこそ、森岡の言う通り「あと一押し」なんて無いのかもしれない。気がついたらそれが天職だった、と気付くのかもしれない。それならそれも、いいだろう。
彼はそう思い始めていた。
ただ。
ぷる、と図書室の前に差し掛かった辺りで、ポケットの中の携帯が震えた。
「はい」
『高村さん?』
山東の声だった。
*
「高村先生、明日までだねー。俺は寂しいよっ」
島村の本日の眼鏡は、丸い金属のフレームだった。そう言えば、このひとはこれが一番似合うかもしれない、と彼は思う。
「そうですねえ、島村先生とももうお会いできないと思うと、オレも寂しいですよ」
「ふうん。君もずいぶん、口が上手くなったねえ」
にやり、と島村は笑う。
「まあ口の上手さは教師には大切だしね。良いことだ良いことだ」
ははは、と何処からか、金銀きらきらの扇を取り出し、ぱたぱたとかざす。
一体このひとは何処から何を取り出しているんだ、と本気で高村は判らなくなった。
「それはそうと、今日も残ってくの? ここのとこ、ずっと夜遅くまで、化学準備室に残っていたそうじゃないの」
「あ、今日は早く切り上げようと思います」
少しばかり、彼は声のヴォリュームを上げた。
「明日で最後ですから、今日はゆっくり睡眠をとって、明日最後の授業と、HRを堪能しようと思いまして……」
「余裕だねー、高村先生。よし、そんな君に俺からとっておきのお手紙をあげよう」
「お手紙?」
「折り紙愛好会連合へのご招待状」
そう言いながら、島村は小さな小さな薄桃色の包みを彼に手渡した。
「……これが、ご招待状、ですか?」
「そ」
「もしかして、森岡先生も入ってる、っていう……」
「おや、よく知ってるじゃないの。ただし、ちゃあんとこれを破かずに開けられない奴には、その資格は無いからね」
とん、と島村はその包みを人差し指でつつく。
「はあ……」
「あ、またそんな顔をしてる。この『手紙のバリエーション』はね、全国の旧女子高生が、長い伝統の上に作り上げていった、現代折り紙の中の一つの形なんだよー」
それはそうかもしれないが。
高村はちょこん、と手の真ん中に小さく乗ったそれを見つめる。どうやら、薄手の桃色の紙をこれでもかとばかりに小さく複雑に折り畳んだものらしい。
「ま、返事は明日もらうからね。それと」
「ま、まだ何かあるんですか?」
高村はやや逃げ腰になる。
「高村先生の、端末の電話番号が欲しいなー」
「端末の」
「これは個人的に」
にやり、と島村は笑った。
「……」
個人的に、って一体何だろう……
不可解に感じつつも、高村はじゃあ、と近くのメモに自分のナンバーを書いた。
「ちなみに俺のはこれね。何か役立つかもしれないからさ」
役立つ…… 役立つだろうか。高村は非常にそれは疑問だったが、とりあえずメモを受け取り、ちら、と見ておいた。
「忘れないでよ、ご招待状」
「はいはい」
そう言いながら高村はズボンのポケットに「ご招待状」を入れ、今日明日限りの自分の席についた。
「ずいぶんと島村先生と仲が良くなったようじゃないの、高村先生」
くすくす、と南雲は笑う。
「仲が良くなった…… と言うんでしょうか」
「だって最初の時のあなたの反応からしても大違いよ。それに今の見てたら誰だって思うわよ。島村先生からしたらこれはすごく気に入った部類よ」
そうですか、と答えつつも、高村の気持ちはやや複雑だった。
「あ、で、今聞こえちゃったんだけど、あなた今日は、早く帰るの?」
「ええ」
高村はうなづいた。
「明日担当の一時間は、前にやった所の手直しの様なものですから…… どちらかというと、体調万全で、ちゃんと生徒に向かいたくて……」
「そう」
南雲はうなづいた。
「それはそれで、良いことじゃない? じゃあ、定時で帰るのね」
「定時よりは少し遅くなるかもしれませんが」
「それでもここ最近の七時八時上がり、なんてのは無しよ。私もそろそろちゃんと定時少しで切り上げたいわ。お肌の曲がり角なんだし」
「南雲先生、女性のお肌のピークは十代だそうですよ」
島村が声を飛ばした。
「うるさいですよ!」
彼女は腕を振り上げながらも笑った。高村もつられて笑ってみせた。
0
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる