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第22話 心配されるのがくすぐったい。
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「はい、新作のサラダ」
とん、とテーブルに置くと、おお、とP子さんは細い目をそれでも大きく開けた。ブロッコリやにんじん、かぼちゃと言った温野菜を一度加熱した上で、それをまた冷やしたらしい。盛ったガラスのボウルが汗をかいていた。
テーブルの上には、今年既に何度か食卓に上がっているそうめんもある。ざるに移され、氷を散らされたそれは、目にも涼しい。
「サウザンドレッシングっぽいけど、少し違うからね」
「けどいちいち冷やすなんて手間でしょう? 普通のサラダでもいいでしょうに」
「温野菜のほうが一杯食べられるし、栄養価も違うんだよ? 消化だっていいし」
「ふうん。詳しいですねえ」
「うん、そういうのは、割と好きなんだ……」
「料理も上手いし。いっそアナタ、調理師とかもいいんじゃないですかね?」
「うんそれも考えたことはあったけど……」
「うんうん」
言いながら、P子さんはかぼちゃの一片を口にし、ん、と声を出す。かぼちゃの甘味と、ドレッシングの酸味がちょうどいい具合に口の中で混ざり合った。
「……いいですね、これ」
「でしょ!? 店でいいな、と思ったんだ。P子さん最近、ホント、ずいぶんと好み変わったんじゃない?」
「好み…… 変わりましたかね?」
P子さんは首をひねる。本人にはその自覚は無かった。ただ、確かに最近暑くなってきて、そのせいで疲れやすくなっているな、とは感じていたが。
「疲れがたまってるから、きっと食欲が落ちてるんですよ。だからさっぱりしたものが欲しいんじゃないですかね」
「ってあなたこの間も言ってたけど、もうそろそろツアーの疲れも取れてもいい頃じゃない。だってあなたのバンドのひと達は、毎日元気でしょ」
「それは個人差というものが」
「それはそうだけど」
「どちらにせよ、ワタシの身体のことだし、……ああ、そんな顔しないで」
黙り込んでしまった彼の肩に、P子さんは手を伸ばした。
「そうですね、まああんまり疲れが取れないようだったら、ちゃんと医者に行きますから、そう心配しないでくださいな。ワタシのために誰かが心配するってのは、どうも慣れないから」
慣れない。
そう、確かに慣れないものだったのだ。母親とか妹と言った家族はともかく、他人から、こういう感情を向けられるということは、P子さんの今までの生活の中ではそうそうあるものではなかった。
「心配されたことは、ない?」
「うちの家族は、……別ですけどね。うん。でも、小さい頃から喘息持ちだったから、ワタシがうちに引っ込んでいて、学校に行かない、とか調子悪いってのは、割と日常茶飯事だったから、そんなにはさすがに心配しなくなりましたね。慣れてしまうって言うか」
「慣れるもの、かなあ」
「慣れるものなんですよ。どんなものでも。ワタシもそういうのは、格別に心配されるよりは、慣れてしまった方がいい、と思うし……」
「そうかもしれない。けどP子さんの場合は、……人に心配させてくれないでしょ」
「え?」
P子さんはそうめんに伸ばした箸を止めた。
「あなたいつも、そうやってひょうひょうとかわしてしまうから、こっちが心配することができなくなるんだもの」
「DB……」
箸を置き、目を伏せた。
「そういう訳じゃあないんですよ」
「違う?」
「違わないかもしれないけれど…… ワタシはただ、ひとに心配するのもされるのも、できるだけ避けていたいと思ってるのかもしれませんね。卑怯なのかもしれないけれど。できるだけ、そういうのから、遠くで生きていたい、ってのはあるんですよ。それはもう、……性分のようなものですかね」
「でも、……僕は、P子さんのことは、心配する時にはしたいよ。それはいけないの?」
「いけないんじゃなくて…… ただ、慣れないだけなんですってば。ワタシのために、誰かが辛い思いするってのも、やっぱり嫌だし」
「心配はするけど、別にそれは嫌じゃないもの」
「うん、だから、DBがしてくれるのは……」
彼女は首を軽く傾げた。
「たぶん、くすぐったいんですよ。だから、どうしていいのか、ワタシには良くわからないんですよ。アナタが嫌じゃないなら、心配してくれるのは、たぶん、それは…… 嬉しいのかもしれない。……うーん…… よく判らなくなってきた」
「……うん」
何と答えていいのか判らなくなって、DBはただうなづく。
「じゃあ別に僕があなたを心配するのは構わないんでしょ」
「嫌じゃあないのなら」
「嫌じゃない。だから今は、ちゃんとごはんにしようよ」
そうですね、とP子さんは答えた。
しかし実際、確かに体調が変だ、とP子さん自身も感じていたのである。
とん、とテーブルに置くと、おお、とP子さんは細い目をそれでも大きく開けた。ブロッコリやにんじん、かぼちゃと言った温野菜を一度加熱した上で、それをまた冷やしたらしい。盛ったガラスのボウルが汗をかいていた。
テーブルの上には、今年既に何度か食卓に上がっているそうめんもある。ざるに移され、氷を散らされたそれは、目にも涼しい。
「サウザンドレッシングっぽいけど、少し違うからね」
「けどいちいち冷やすなんて手間でしょう? 普通のサラダでもいいでしょうに」
「温野菜のほうが一杯食べられるし、栄養価も違うんだよ? 消化だっていいし」
「ふうん。詳しいですねえ」
「うん、そういうのは、割と好きなんだ……」
「料理も上手いし。いっそアナタ、調理師とかもいいんじゃないですかね?」
「うんそれも考えたことはあったけど……」
「うんうん」
言いながら、P子さんはかぼちゃの一片を口にし、ん、と声を出す。かぼちゃの甘味と、ドレッシングの酸味がちょうどいい具合に口の中で混ざり合った。
「……いいですね、これ」
「でしょ!? 店でいいな、と思ったんだ。P子さん最近、ホント、ずいぶんと好み変わったんじゃない?」
「好み…… 変わりましたかね?」
P子さんは首をひねる。本人にはその自覚は無かった。ただ、確かに最近暑くなってきて、そのせいで疲れやすくなっているな、とは感じていたが。
「疲れがたまってるから、きっと食欲が落ちてるんですよ。だからさっぱりしたものが欲しいんじゃないですかね」
「ってあなたこの間も言ってたけど、もうそろそろツアーの疲れも取れてもいい頃じゃない。だってあなたのバンドのひと達は、毎日元気でしょ」
「それは個人差というものが」
「それはそうだけど」
「どちらにせよ、ワタシの身体のことだし、……ああ、そんな顔しないで」
黙り込んでしまった彼の肩に、P子さんは手を伸ばした。
「そうですね、まああんまり疲れが取れないようだったら、ちゃんと医者に行きますから、そう心配しないでくださいな。ワタシのために誰かが心配するってのは、どうも慣れないから」
慣れない。
そう、確かに慣れないものだったのだ。母親とか妹と言った家族はともかく、他人から、こういう感情を向けられるということは、P子さんの今までの生活の中ではそうそうあるものではなかった。
「心配されたことは、ない?」
「うちの家族は、……別ですけどね。うん。でも、小さい頃から喘息持ちだったから、ワタシがうちに引っ込んでいて、学校に行かない、とか調子悪いってのは、割と日常茶飯事だったから、そんなにはさすがに心配しなくなりましたね。慣れてしまうって言うか」
「慣れるもの、かなあ」
「慣れるものなんですよ。どんなものでも。ワタシもそういうのは、格別に心配されるよりは、慣れてしまった方がいい、と思うし……」
「そうかもしれない。けどP子さんの場合は、……人に心配させてくれないでしょ」
「え?」
P子さんはそうめんに伸ばした箸を止めた。
「あなたいつも、そうやってひょうひょうとかわしてしまうから、こっちが心配することができなくなるんだもの」
「DB……」
箸を置き、目を伏せた。
「そういう訳じゃあないんですよ」
「違う?」
「違わないかもしれないけれど…… ワタシはただ、ひとに心配するのもされるのも、できるだけ避けていたいと思ってるのかもしれませんね。卑怯なのかもしれないけれど。できるだけ、そういうのから、遠くで生きていたい、ってのはあるんですよ。それはもう、……性分のようなものですかね」
「でも、……僕は、P子さんのことは、心配する時にはしたいよ。それはいけないの?」
「いけないんじゃなくて…… ただ、慣れないだけなんですってば。ワタシのために、誰かが辛い思いするってのも、やっぱり嫌だし」
「心配はするけど、別にそれは嫌じゃないもの」
「うん、だから、DBがしてくれるのは……」
彼女は首を軽く傾げた。
「たぶん、くすぐったいんですよ。だから、どうしていいのか、ワタシには良くわからないんですよ。アナタが嫌じゃないなら、心配してくれるのは、たぶん、それは…… 嬉しいのかもしれない。……うーん…… よく判らなくなってきた」
「……うん」
何と答えていいのか判らなくなって、DBはただうなづく。
「じゃあ別に僕があなたを心配するのは構わないんでしょ」
「嫌じゃあないのなら」
「嫌じゃない。だから今は、ちゃんとごはんにしようよ」
そうですね、とP子さんは答えた。
しかし実際、確かに体調が変だ、とP子さん自身も感じていたのである。
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