未来史シリーズ-①希望のカケラ~終末の世界でギャングに襲われたら

江戸川ばた散歩

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第5話 「だったら、銃があったら、撃たなくちゃ」

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「恋人同士でもないのに、いいのか?」

と私は前を向いたまま、ナガサキに問いかける。

「イイんだよ。ついでだったんだし」
「ついで?」
「あたし等のなんて、どーでもいいのよ。あたし達が送りたいのは、も一つのほうなんだもん」

 そう言ってミルは、ベルトポーチの中から、私が持ってきたのと似たようなケースを出した。弾薬かと思ったら、どうもそうではないらしい。

「そ」

 ナガサキもうなづいた。

「別にさあ、オレ等、自分達のなんてどーでもいいんだもんな。問題はこっち」
「こっちって」

 私は思わず問い返していた。自分達のでもないものの方が大切だというのか?

あんへるとカモンのよ」

 その名前は聞いたことがあった。

「確かそれは……」
「あ、モリヤのおにーさん、知ってるんだあ」

 そしてミルは大事そうにそれを元通りにベルトポーチにしまう。

「確か、君らの、亡くなった」
「ばかなヤツ等」

 吐き捨てる様にナガサキは言った。

「ホント、ばっかじゃねーの。ワナだって判ってるのに、ヒシバやウタシナイを助けようとか言って、管理局の包囲線に引っかかりやがって」
「そう馬鹿馬鹿言わないでよ!」
「ばかだからばかだって言ってるんだよっ!」

 そう言うと、いきなりナガサキは膝を抱え込んで顔を伏せた。するとミルはその彼の頭を後ろからはたく。いてーな、と顔を上げた彼の目には涙が浮かんでいた。

「んなこと言ったとこで、あの二人が戻ってくる訳じゃないよ!」
「何言ってんだよそーやっていつも言うクセにお前何よその目」
「何よ」

 あ、と私はミラーの中身に、思わず声を立てそうになった。相棒をののしっていたはずのミルの目にもいつの間にか涙が浮かぶ。

「……ったく……」

 ぽろぽろ、と涙が彼女の頬を転がり落ちる。どっちがどっちということもなく、彼らはその直後、抱きしめ合って大声を立てて泣いていた。
 しかし立ち直りも早かった。
 三分もすれば、二人は泣きやんで、赤くなった自分自身の頬をぺしぺしと叩くと、私に対してちゃんと進むようにと言い出した。
 やがて小さな町が見えてきた。都市と違って、入り口に壁がある訳ではないのは新鮮だった。屋根も無い。雨の時不便だろうな、と私は思った。

 やがてそれでも家やそれ以外の建物が建ち並ぶ場所に入っていく。ナガサキはここいらがいいな、とつぶやくと、相棒の肩を掴む。ミルがうん、とうなづく顔がミラーに映った。

「ほらおにーさん、ちょっと止めてよ」

 ナガサキはそう指示した。私は言われるままに車を止める。その時、しゃきん、という金属の音で私は後ろを振り向いた。
 ミルが、背負っていた小さなトランクの中から弾薬のカートリッジを取り出すと、マシンガンに取り付けていた。
 まさか。

「ちーっと、待っててくれよ」

 ナガサキは後ろのドアを開ける。その手にもやはり、マシンガンが握られていた。ちょっと待て。

「ちょっと待てよ、おい……」
「待ってろよ」
「先に行ったらこれで止めてやるからね」

 窓越しに二人は銃を突きつける。最初に会った時の様に。
 私ははあ、と気のない声を二人に返した。
 二人は赤い屋根と板張りの壁にペンキの塗られた一軒の店へと入っていく。
 あれって果たして店なんだろうか。特に看板も出ていないが。何を扱っているのか、都市生まれ都市育ちの私にはいまいち想像ができない。
 だがその答えはすぐに明かされた。
 悲鳴が、耳に飛び込んできた。
 私は思わずドアを開けた。耳に入ったマシンガンの銃声に、その身体を凍らせた。撃ったのか、連中。
 だが次の瞬間、私は驚くより先に、呆れた。
 がちゃん、と大きな音がして、穴だらけの扉が倒れた。
 そして、その中から、扉を蹴り倒してナガサキが飛び出してきた。……なるほど、蹴り倒さなくてはならなかったはずだ。
 両手には、これでもかとばかりに、食料が抱え込まれている。パンを抱え、つながったソーセージを首に掛け、かんづめを両手に抱え込み――― 林檎がいくつか、今にも転がりだしそうだった。
 それはその後に飛び出してきたミルも同様で、彼女の両腕には、数本のドリンクのボトルが抱え込まれていた。
 二人ともマシンガンには吊りひもがつけられており、そのせいで両手が空いているのだ。

「後ろ開けろーっ!」

 ナガサキは強烈な声で叫んだ。私は思わずその声につられて、後ろのドアを大きく開けた。彼は先に飛び込み、その後に彼女が飛び込んだ。

「早く出せ早く!」

 むん、という熱気が私の首筋に感じられる。二人も汗をかいている。私は慌ててアクセルを踏んだ。エンジンは切っていなかった。

「待てこの野郎!」

 背後から、年輩の男の声が追いかけてくる。

「いっぱいにスピード上げろよぉ!」
「これで精一杯なんだよ!」

 私はちら、と追いかけてくる男の姿を見る。別にどこかケガをしている様子もない。少しばかりほっとする。
 町の「入り口」を出ると二人は大きく息をついた。

「こんだけありゃ、東府まで保つだろ!」

 ナガサキは座席にふんぞりかえりながら、満足そうにそう言った。

「ちょっと聞いていいか?」
「はん?」
「君達また誰か、―――殺したのか?」
「んなことするかよ」
「だってさっき銃が……」
「しないったらしないのよ!」

 ミルはとってきたばかりのドリンクのふたをぐいぐいと回しながら叫んだ。

「だって、ニュースでは君等がもうずいぶんと、たくさんの人々を店や何やら荒らしの間に殺したって言ってるけど」
「そりゃあまあ、そういうこともあったかもしれないけどさ、それはあたし等じゃないわよ! そんな上手いこと、あたし等はできなかったってば」
「う、上手いこと?」

 私は思わず身構える。

「あんへるはすごかったなあ……」

 ふう、と彼女はため息をつく。

「彼女はすごかったのよ? ねえおにーさん。彼女の顔知ってる? 天使の様に可愛いの。だからあんへる。天使。あたし達はそう呼んでたわ。だけど、中身はすごいザンコクなの。すごいのよ」
「カモンもすごかったんだぜえ?」

 うっとりとして話す彼女の言葉をナガサキはさえぎった。

「あいつがマシンガン持って、あの黒づくめのカッコで、サングラスかけて銀行の窓口でがん、と足かけて撃ちまくったの見た時、オレ、ホントに惚れ惚れしたよなあ……」
「それを言うだったら、あんへるだってそうよ! 覚えてる? ほら、カモンが三十一番都市を襲った時に、彼女にアンティークな黒白の膝丈より少し短いワンピを奪って着させたじゃない。あれでいて、あの柔らかそうな巻き毛で、大きな目で、綺麗な顔で、笑いながら狙いも確かに撃ちまくるのよ?」
「でかくて黒いバイクを調達した時は、カモンはあんへるを後ろに乗せて、走り回ったよなあ」
「それで火炎ビンとか作ってさ、投げ込む時の表情ときたら!」

 ねえ、と二人はうなづき合う。

「なのにさ、仲間にはすごく義理堅い二人だからさ、あんな馬鹿なワナに引っかかっちゃうのよ!」

 だん! とミルはバスケットの上にドリンクのびんを置いた。

「嫌な予感がしたのよ。行くんじゃない行くんじゃないって止めたのよね」
「そーだよ。オレだって、絶対変な予感がする、よせよって、カモンに言ったんだ。だけど奴は、それでも仲間だからって」

 ……そう言っては、また今にも泣き出しそうな勢いが、二人の間には漂っていた。

「二人ともその二人が好きだったんだなあ」

 思わず私はつぶやく。そこまで悲しがられれば本望だと思うが。だがミルは顔を上げて叫んだ。

「違うわよ!」 

 え、と私は思わずのけぞる。

「あたしが悲しいのは、あんへるの為だけよ! 誰がカモンのためなんかに」
「オレだってそーだよ! 何だってそんな女のためにいちいち悲しがらなきゃならねーんだよ」
「あれ? じゃあ君らって」
「あたしはあくまで彼女の友達だったの! こいつだってそうよ。カモンの腰巾着だったんだから」
「腰巾着たぁ何だよ!」
「だってそーじゃない! いっつもさ、べったりくっついてて」
「お前だってそーだろが! まあお前っー怖い女が居たせいで、あの女、別に悪い虫もつかねーで、カモンみたいないい男に出会えてシアワセってトコだろーさ」
「天使と出会えてしあわせだったのは奴じゃない! あの子にだったらどんな綺麗な服も着せてあげたいと思えたもの」

 はあ、と私はため息をついた。つまりはあの一枚板の様に報道されていた林檎団も、そういう集団だったのか。私はふと、がっかりする自分に気付いておかしくなった。

「でもさ、ちゃんと待っててくれたんだね、おにーさん」

 ミルは身体を乗り出して、私に話しかけた。手には再びドリンクのびんを掴んでいる。呑む? と彼女は私に問いかける。少し、と私はびんを受け取った。

「殺しゃしないわよ」

 彼女は言った。

「あたし達そんな、度胸無いのよ、ホントは」
「おいミル」

 ナガサキが口をはさむ。

「いいじゃない。どーせこの人も、短いつきあいなんだし、愚痴くらいこぼしたって」

 愚痴なのか。

「だけどニュースでは、君らのことは極悪犯人のように言ってるけど」
「確かに、あの二人が居た頃は、あたし達のパーティもそういうことしたわよ。でもそれはあの二人がやっていたことよ」
「だよなー」

 だるそうな声で、ナガサキも付け加える。

「奴らはすごかった。オレもこいつも、そんな二人に惹かれてて、それぞれくっついてんのに、絶対、マシンガン持ってもさ、じっさい引き金引いてもさ、当たりゃしねーのよ」

 そういえば、あの店から出てきた男には傷一つなかったようだ。

「悪いかどーかなんか、オレ知らない。だってさ、始めた時はどーだったか、忘れたけど、今じゃオレら、それこそあんたの言う通り、極悪犯じゃん。何したって言うのよ。せいぜい今のように、食べ物屋襲ってしこたま逃げ回るだけなんだぜ?」

 見なよ、と不意にナガサキは彼女の手を掴んで腕の内側を見せる。

「これさ、ワナ仕掛けられた時に、焼かれたんだぜ?」

 引きつった様なあと。火傷のあとだったのか。

「見つかれば、こんなことされるのかもしれんのよ? オレ達だって生き残りたいじゃん。だったら、銃があったら、撃たなくちゃ」

 さも当たり前の様に、ナガサキは言う。

「でもさひどいよね。あたし前、ラジオ聞いたんだ。そしたら何、あたし等がやってもない様な場所の強盗まであたし等のせいになってるじゃない!」
「何だって?」

 私は思わず、問い返していた。
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