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第6話 撃てない悪党
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私は車を止めた。急に真剣な顔になった私を、二人は不思議そうに見る。
「何あんた、知らなかったの?」
ナガサキは思いっきり眉を寄せた。
「ラジオだけじゃないよ。いつだったかなあ」
ミルは天井を向く。しばらく考えていたと思うと、ぽん、と手を叩いた。
「うんそうそう、あの二人が殺されてからちょっと後だよ。何かもう、二人してわんわん泣いてたんだけど、それでもお腹は空くからさ、不思議だよね、あたし等その時、まだ二人が捕まった二十三番都市に居たんだ。あたしは腕が痛いし、こいつもところどころにかすり傷があったから、すぐに車や単車奪って都市を逃げようっての、無理だったの。一応あたし等のことも、追ってるの知ってるからさ、あちこちの目立たないとこに隠れたり、反対に人混みに紛れたりしてさ、少しづつ都市の出口の近くへ行ったんだよね。でお腹空いたから、結構人がざわざわさしてるごはん屋に入ったの」
「ホント、すげえ混んだとこでさ、安かったから、皆、どんどん職とか無くなってくしさ、ほら、新しいことなんかできないじゃん。金ねーからみんな、そうゆう店に来るんだよ。オレ達が誰か、なんて気付くヒマもなく、カウンターではどんどん定食よそってく、そうゆうとこでさ」
「で、そうゆうとこって、必ずっていい程、テレビがあるんだよね」
そうだよな、とナガサキはうなづく。
予想はつく。だいたいそういうところで流すのは、東府の電波だ。
エネルギーが少ないから、発信する局も少ない。一方的なニュースが流れ、それを疑う為の比較もできない。
だけどそれに関して疑問を持つ程、私達の都市に住む人間は元気ではなかった。
同じ様な食堂を知っている。都市の中でも、わりと端にあって、屋根が高くて、鉄骨の梁がむき出しになっている様なところもある。
倉庫だったような所が、今ではそんな顔をしているらしい。
その倉庫の端で、大鍋でスープを煮込み、飯を炊く。白い調理服を着た腕の太い女達が、すすけた盆を手に並ぶ人々に一様にスープと飯をつけていく。まるで戦場だ、とその様子を見に来た私の友人は、そう言った。
私もそう思った。もっとも本当の戦場なんて、知らない。昔はよく家庭でも見られたらしい映画にしたところで、今は電力の割り当てがあるから、見ることはできない。
だから、そんな食堂にはわりあい大きな画面のテレビが置いてあり、それはこの食堂にやってくる者達のつかの間の気晴らしになる。気休めではない。気晴らしだ。
食事時でも、連続強盗犯人が捕まって射殺された、というニュースは飛ぶのだ。そこに真っ赤な血が飛んでようが。
「ちょうど麺をすすっている時だったわ」
とミルは言った。
「こいつの方がでかい肉のかたまりが入ってたので、取ってやろうかと狙ってた時だったから覚えてる」
「お前そんなこと考えてたのかよ」
「目の前にある肉がいつまでも食われなかったらそう思うのはとーぜんじゃない!」
「オレは好きなものは最後に残しておくんだよっ!」
何に対して怒っているのか判らなくなって、私は思わずため息をついた。それに気付いたのか、ミルは少し顔を赤らめると、わざとらしい咳払いを一つした。
「とにかく! そんな時だったけど、ニュースは耳に入ってきたのね」
「見ちゃいけない、と思ったよ。顔上げるな、って。だからとにかくそこでは麺をすすってしまうことにオレ達は全力をそそいだんだっ」
ナガサキはこぶしを握って力説する。ずるずると音まで聞こえてきそうだ。
「だけど耳に入ってくるじゃねーの。『指名手配中のアプフェル・パーティのメンバーを発見』ってさ」
「ちょうど並んであたし等食ってたのよ。でもう、お互い聞こえてるんだけど、もう必死。……でも聞こえて来るわけよ。そこであたしびっくりしたわよ。あたし達は、林檎団は、あちこちの店だけでなく、レストランや劇場まで襲って人殺して宝石とか取って逃げた悪党なんだって」
確かに、私はそう聞いていた。
「でもそんなこと、してない。確かに銀行も襲ったよ。人も殺したよ。警官が発砲したら撃ち返したよ。あんへるとカモンはでも、銀行以外で人殺してまで襲おうなんて言わなかったもの」
「それ以外のとこじゃ、そんな風に襲ってもしゃあないって。てっとり早く金を奪って後は逃げろって。それが奴だったんだ。オレはそういう奴がすげえ好きだったよ」
「あたしだってそうよ! だからあんへるのドレス選ぶ時も、ひたすらあたしも脅し役に回ったわよ。あたしをそこでつけるあたり、殺す気なんかなかったってことじゃない? ただドレスが欲しかっただけで、金出して買っても良かったのに、何かうさんくさそーな顔するから、カモンの奴、怒ったんだ。それであたしとこいつに、店員縛り上げて脅しつけてろ、って言ったんだもの」
「撃てない…… んだよね、君ら」
「カッコいいんだけど、オレ、血ぃ見るのやだから」
ナガサキは言った。
「だからカモンはオレにはできるだけそんな役ばかりやらせた。しんどいならついて来なくてもいい、って言った。だけどオレがついて行きたかったんだ。奴に」
しょーもないよね、とミルはそう付け足した。
「何あんた、知らなかったの?」
ナガサキは思いっきり眉を寄せた。
「ラジオだけじゃないよ。いつだったかなあ」
ミルは天井を向く。しばらく考えていたと思うと、ぽん、と手を叩いた。
「うんそうそう、あの二人が殺されてからちょっと後だよ。何かもう、二人してわんわん泣いてたんだけど、それでもお腹は空くからさ、不思議だよね、あたし等その時、まだ二人が捕まった二十三番都市に居たんだ。あたしは腕が痛いし、こいつもところどころにかすり傷があったから、すぐに車や単車奪って都市を逃げようっての、無理だったの。一応あたし等のことも、追ってるの知ってるからさ、あちこちの目立たないとこに隠れたり、反対に人混みに紛れたりしてさ、少しづつ都市の出口の近くへ行ったんだよね。でお腹空いたから、結構人がざわざわさしてるごはん屋に入ったの」
「ホント、すげえ混んだとこでさ、安かったから、皆、どんどん職とか無くなってくしさ、ほら、新しいことなんかできないじゃん。金ねーからみんな、そうゆう店に来るんだよ。オレ達が誰か、なんて気付くヒマもなく、カウンターではどんどん定食よそってく、そうゆうとこでさ」
「で、そうゆうとこって、必ずっていい程、テレビがあるんだよね」
そうだよな、とナガサキはうなづく。
予想はつく。だいたいそういうところで流すのは、東府の電波だ。
エネルギーが少ないから、発信する局も少ない。一方的なニュースが流れ、それを疑う為の比較もできない。
だけどそれに関して疑問を持つ程、私達の都市に住む人間は元気ではなかった。
同じ様な食堂を知っている。都市の中でも、わりと端にあって、屋根が高くて、鉄骨の梁がむき出しになっている様なところもある。
倉庫だったような所が、今ではそんな顔をしているらしい。
その倉庫の端で、大鍋でスープを煮込み、飯を炊く。白い調理服を着た腕の太い女達が、すすけた盆を手に並ぶ人々に一様にスープと飯をつけていく。まるで戦場だ、とその様子を見に来た私の友人は、そう言った。
私もそう思った。もっとも本当の戦場なんて、知らない。昔はよく家庭でも見られたらしい映画にしたところで、今は電力の割り当てがあるから、見ることはできない。
だから、そんな食堂にはわりあい大きな画面のテレビが置いてあり、それはこの食堂にやってくる者達のつかの間の気晴らしになる。気休めではない。気晴らしだ。
食事時でも、連続強盗犯人が捕まって射殺された、というニュースは飛ぶのだ。そこに真っ赤な血が飛んでようが。
「ちょうど麺をすすっている時だったわ」
とミルは言った。
「こいつの方がでかい肉のかたまりが入ってたので、取ってやろうかと狙ってた時だったから覚えてる」
「お前そんなこと考えてたのかよ」
「目の前にある肉がいつまでも食われなかったらそう思うのはとーぜんじゃない!」
「オレは好きなものは最後に残しておくんだよっ!」
何に対して怒っているのか判らなくなって、私は思わずため息をついた。それに気付いたのか、ミルは少し顔を赤らめると、わざとらしい咳払いを一つした。
「とにかく! そんな時だったけど、ニュースは耳に入ってきたのね」
「見ちゃいけない、と思ったよ。顔上げるな、って。だからとにかくそこでは麺をすすってしまうことにオレ達は全力をそそいだんだっ」
ナガサキはこぶしを握って力説する。ずるずると音まで聞こえてきそうだ。
「だけど耳に入ってくるじゃねーの。『指名手配中のアプフェル・パーティのメンバーを発見』ってさ」
「ちょうど並んであたし等食ってたのよ。でもう、お互い聞こえてるんだけど、もう必死。……でも聞こえて来るわけよ。そこであたしびっくりしたわよ。あたし達は、林檎団は、あちこちの店だけでなく、レストランや劇場まで襲って人殺して宝石とか取って逃げた悪党なんだって」
確かに、私はそう聞いていた。
「でもそんなこと、してない。確かに銀行も襲ったよ。人も殺したよ。警官が発砲したら撃ち返したよ。あんへるとカモンはでも、銀行以外で人殺してまで襲おうなんて言わなかったもの」
「それ以外のとこじゃ、そんな風に襲ってもしゃあないって。てっとり早く金を奪って後は逃げろって。それが奴だったんだ。オレはそういう奴がすげえ好きだったよ」
「あたしだってそうよ! だからあんへるのドレス選ぶ時も、ひたすらあたしも脅し役に回ったわよ。あたしをそこでつけるあたり、殺す気なんかなかったってことじゃない? ただドレスが欲しかっただけで、金出して買っても良かったのに、何かうさんくさそーな顔するから、カモンの奴、怒ったんだ。それであたしとこいつに、店員縛り上げて脅しつけてろ、って言ったんだもの」
「撃てない…… んだよね、君ら」
「カッコいいんだけど、オレ、血ぃ見るのやだから」
ナガサキは言った。
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