未来史シリーズ⑧カモンレッツゴーベースボール~よせ集め新チーム、他星へ遠征す。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
15 / 27

第15話 「そうそう『そんな好きなもの』が、順風満帆の中でやってこられる訳、普通は無いんだし」

しおりを挟む
 マーティの顔は笑顔に近かった。
 しかし近いだけで、決して笑顔ではない。
 それ以上は聞かないでくれ、という言葉が隠されているような気がして、ダイスは結局、突っ込んで聞くことはできなかった。
 友達と言えば。彼はふと、実業学校時代の友達のことを思い出す。
 故郷はサンライズの合宿所からは遠い。遠征もこうやって度々ある訳だから、そうそう会える訳ではない。ただ、時々通信は取る。
 すると、友達はまずこう言うのだ。

「お前、好きなことやっていられていいなあ」

 確かにそうだ、とダイスは思う。
 彼は自分がそういう意味では幸せだ、と思っていた。実際、今のチームのメンツも、おおよそ好きだった。訳の判らない部分はまだまだあるけれど、好き嫌いとは別である。
 判らない、にしたところで、単に彼自身、まだ理解できていないだけなんだ、と思っている。生きている年数が、人生経験が足りなさすぎる。
 彼等はそれを良く知っているから、自分に何かと気を使ってくれているのだ、と彼は認識していた。
 そのいい例がマーティであり、普段からかってばかりの様な、ストンウェルやテディベァルだったりするのだ。もっともテディベァルの場合、何も考えていない可能性もあったが……
 ただ時々、得体の知れない不安の様なものが彼を襲っていた。
 不安、と言うとやや言葉が違うかもしれない。
 友達は彼にそうやって言う。好きなことが仕事にできていいな、と。確かに好きで、それが一番で、自分は幸運。

 だけど。

 一つの光景が、浮かび上がる。
 そんな自分を見て、いつも彼女は悲しそうだった。
 それも後で気付いたことだった。彼は結局、言われるまでずっと気付かなかった。
 彼女に別れて欲しい、と言われるまで。
 彼はその時ようやく、自分が、自分自身と野球のことしか目に入ってなかったことに気付いた。
 それが悪い、とは言わない。彼女すらそれを口にはしなかった。ただこう言ったのだ。

「ダイスはそういうひとなのよね。だから仕方ないのよね。……でもそれじゃあ、私は耐えられないの」

 だから別れてほしい、と言ったのだ。
 正直、彼には寝耳に水、だった。
 何の根拠もなく、自分は野球をして、彼女はそんな自分をグラウンドに見に来て。そんな日々が続くと思っていた。
 だけどそう思っていたのは自分だけで。
 彼女のことはとても好きだったのだけど。
 気付かなかった自分が、野球のことしか考えられない自分が、何か人間として、おかしいのではないか、と、彼は思ってしまうのだ。
 だから彼は、彼等に「どうして」球団に入ったのか、ということを聞かれた時、少しばかり困った。
 少しばかり、ではある。
 が、それは小さな棘にも似て、妙に気に掛かって、じくじくと痛み出す様なものだった。



「ストンウェルさん」

 投げ込みの間だった。ダイスは少しのスキを見て、彼に話しかける。

「何」

 ストンウェルは汗を拭きながら問い返した。

「昨日の朝の質問ですけど」
「昨日? 俺、何か言ったかなあ」
「や、皆に聞かれた奴なんですけど…… 何で球団に入ったか、って言うの」

 ああそれ、と確実に忘れていた様な口調で、ストンウェルはうなづいた。バッグの中からドリンクを取り出すと、ストローで吸い出す。

「で、それが?」
「あれからちょっと考えてまして」

 ふむふむ、とストンウェルはうなづく。

「俺は確かに、野球が好きで、……だから、スカウトが来た時に、飛びついたクチなんです」

 ふうん、と相手は軽く受け流す。

「本当に、ただそれだけなんだけど…… それって、時々変なんじゃないかな、って」
「変?」

 ストローから、口を離す。

「確かに、野球が好きなのは当然だけど…… そのために、俺、気が回らないことが多くて、何か気付かないことが多くて、……誰かを傷つけて」

 はあ、とストンウェルは更に受け流した。ダイスはそんな相手の様子に気付かずに、顔を上げた。

「何か自分は人としてどっかおかしいのかな、って…… そうやって思うのって、おかしいですかね?」
「んー……」

 ストンウェルは軽く目を伏せた。ぱぁんぱぁん、と周囲では、投げ込みの音が響いている。

「ま、な。おかしいって言えばおかしいし、別にそーでもないと言えば、そーでもないと、俺は思うけど」
「俺、本気で聞いてるんですよ?」
「俺だって本気よ、ダイス君や」

 それじゃ、と言いかけると、ストンウェルはぱっ、と両手を胸の前で広げ、首を傾げた。

「あんなあダイス、何かに本当に本気になったら、誰かを傷つける可能性があるなんて、当たり前のことなの」
「そんな」

 本当に当たり前、当然のことの様に言われて、ダイスは驚いた。そんなものなのか?
 そんな彼の気持ちは露骨に表情に出たらしい。

「ったり前でしょ。そうそう『そんな好きなもの』が、順風満帆の中でやってこられる訳、普通は無いんだし」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...