反帝国組織MM⑪完 Seraph――生きていくための反逆と別れ

江戸川ばた散歩

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75.精算はできない

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「本気か」
「本気だ」

 Gもまた、スイッチを押す。充分エネルギーを補充してあるらしいレーザーソードは、その光も鮮やかだ。
 相手が走り込んでくる。
 受け止める。
 レーザーソードは実体があるものではない。だから、手に受ける衝撃は、そのまま、エネルギーとエネルギーのぶつかり合いである。
 手に重い衝撃が走る。
 この連絡員とこんな風に立ち会ったのは初めてだったが、この重さだけでも、相手の腕が相当なものであることが判る。
 数回、ソードをぶつけあった後、Gはその場から大きく飛び退いた。

「逃げるのかよ!」

 キムはその背中を追った。逃げる訳ではない。Gは場所を変えたかった。この場所は、ちょっとした高さの違う場所が多すぎる。
 背の半分になったコンクリートの塀、割れた窓、さして高くは無い建物。
 そんな中途半端な高さだったら、このレプリカントは軽く飛び越える。攻撃が三次元になる。
 彼は死ぬ訳にはいかなかった。無論自分がまず死ぬことは無いことは知っている。ただ、それは相手が自分の正体を知らない場合だった。
 キムは自分の正体を知っている。天使種がどうすれば息の根を止めるのか知っている。その昔、最初に会った時、だからこそ自分を含めた小隊を全滅させることができたのだ。
 それでも彼は死ぬ訳にはいかなかった。

 俺には待ってる人達が居るんだ。

 長い時間をかけて、自分という存在を待って居た人達のためにも。
 ひどく個人的に、自分を信じて待って組織を作り上げてきた者達のためにも。
 それがこのもと盟友の命を奪うことになっても――― それは仕方がないことだ、と。
 言い聞かせようと、していた。
 こんな手段で、決着をつけたくは無かった。Gにとっても、この惑星は大きな意味がある場所だった。生まれた惑星の呪縛をその身体で知り、長い時間の旅の出発点となった場所。
 彼もまた、無意識にこの場所を避けていた。
 そのまま彼は昔は生産がされていただろう建物の中へと飛び込む。中を細かく覚えている訳ではない。ただ、時間は稼げる、と思った。
 相手は時間制限がある。
 それはあの林檎爆弾を持った少女人形と戦った時に、思い知らされたことだった。
 それを逆手に取ることはしたくはなかった。だが一番有効な方法であることも、相手が天使種の有効な殺し方を知っているのと同様、彼はよく知っていたのだ。
 階段を駈け上る。確か再会した最初の事件の時には、自分は長い階段を駆け下りていた。腕にはデータバンクの少女人形を抱えて。あれは自分が惑星「泡」に行かせたものだった。だから結局自分の言葉にしか従わなかった。
 知っていた? 知っていたろう。その時から「今の」彼がその辺りの時間でうろうろと根回しをしていたことは、知っていたはずだ。
 終わりはいつか来ると、判っていたのだ。
 繰り返される感覚。あの旧友とも、そんな気分はあった。終わりがいつか来る、関係。
 それを引き延ばし引き延ばししていた。
 敵になっても、何処かでまた生きていてくれれば。そんな気持ちが、心の片隅にあった。
 上へ、と彼は走る。
 その途中に、トラップが幾つか仕掛けてある。新しいものだ。そのたび彼はそれを破壊する。手持ちの武器はレーザーソードだけではない。
 目的は、正々堂々と戦うことではない。生き残ることだ。
 服のボタンを引きちぎり、途中の廊下に煙幕を張る。場合によっては天井を破壊する。
 そんなことをしながら、上へ上へ、と彼は足を進めていった。
 最後の踊り場は、大きな窓が天井まで続いている。ここで終わりか、と彼はつぶやく。
 階段の突き当たりまで登り詰めると、彼はさびついた扉を力を入れて押し開けた。ぎい、と大きな音がする。床にへばりついていたさびが、べりべりとはがれ落ちる。
 開けた途端に、青い、抜ける様な色の空が、目の前に広がっていた。
 段差を降りると、下よりは少し強い風が、軽く髪を揺らす。汗ばんでいた額が、首筋が少し涼しい。

「……遅かったよな」

 はっとして彼は上を向く。扉の上の、箱の様な階段室の上に、キムは既に待っていた。

「お前が考えそうなことは、判ってるよ。俺に時間稼ぎをしようったって、無駄だよ」
「どうやって……」

 キムは黙って屋上のへりを指さした。伝ってきたらしいロープがそこにはあった。そしてその都度、あちこちに引っかけたらしい金具も。

「あれからどれだけの時間が経ってると思ってる?」

 Gは苦笑した。

「全くもって、俺は甘いらしいな」
「そうだよ。お前は甘いんだ」

 そう言葉を投げると、キムはぽん、と腰掛けていた場所から飛び降りた。コンクリートの上に足を下ろすその瞬間、長い髪がざっと揺れた。
 向き直る。キムはポケットにしまい直していたレーザーソードを手に取る。

「どうしても、そうしなくちゃならないのか?」

 我ながら未練がましいな、と思いながらGは問いかける。時間稼ぎではない。本心である。

「言うな!」

 キムはソードのボタンを押す。勢い良く、光が手元から伸びる。本気だ。
 だったら、どうしてそんな顔をしている?
 唇を噛みしめ、両手で強く、ソードを握っている?

「それでも」

 Gはつぶやく。

「そうしなくちゃならないのか?」
「お前が今までの行為を全て精算して、Mの元に帰順するというなら考えてもいい」
「それはできない」

 即答する。それだけは、できない。
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