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第33話 マドリョンカ、激する
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「え、もう帰られるのですか」
「そうだ」
マウジュシュカ夫人はそう言うとミチャ夫人の方を見た。
「そなたはどうします」
「私は」
ミチャ夫人は娘達をちら、と見る。
「お母様お疲れではありませんか?」
セレが口をはさむ。
「差し出がましい様ですが、私はあの――― 先方様のご家族がいらしていると言うので……」
そう言って頬を赤らめる。ほぉ、とマウジュシュカ夫人は太い眉を上げる。
「そう言えばそなた、婚礼が近かったな」
「はい。おかげさまで」
「母上」
ウリュンはひょい、と母の方へ顔を向けた。
「私が居ます。妹達にとってもこれだけの人が出席している場に居ることは決して悪いことではありません。もしミチャ様もお疲れなら、母上と一緒に帰られては如何でしょうか」
「疲れたのか、そなた」
「は、はい」
正直ミチャ夫人は先程の衝撃が抜け切れていなかった。
あそこに居たのはアリカだが、アリカではない。
おそらくその件については夫が今宵説明してくれるだろうが、この動揺した気持ちのまま、宴の席に居るのは。
「では仕方あるまい。帰宅じゃ」
「お前達はどうする?」
ウリュンは妹達に問い掛ける。大人しいセレがわざわざ言い出したということは、おそらく。
「私は居たいですわ、お兄様」
案の定、マドリョンカは強い口調で返してきた。
「シャンポン、お前は?」
「この先宮中に私達が行くことはできますか?」
「それは無論」
「では私も今日は帰りたく思います」
「シャンポン?」
ミチャ夫人は怪訝そうな顔で娘を見る。
「私は不器用ですから」
「けど」
「シャンポンがそう言うなら、そうすればいいんじゃないの? 私なら大丈夫。セレ姉様とお兄様がついて下さるから」
「……そう…… そうね」
「そなたは美しい。今日の女達の中でも群を抜いて美しいからな」
「奥様」
マウジュシュカ夫人の乾いた声に、ミチャ夫人は次の言葉を失った。
「我等は帰宅するとしよう。ウリュンそれではくれぐれも間違いの無いよう」
「はい母上」
立ち去って行く三人の後ろ姿を見ながら、マドリョンカはふうっ、と大きく息をついた。
「ありがと、お兄様お姉様」
「何のことだ?」
「判ってるでしょ。私がどれだけここに居残りたかったか!」
ウリュンとセレは顔を見合わせる。確かにそうだ。
「見れば判るさ」
「確かにこれからも宴はあるでしょうし、私が出席する機会はあるわ。だけどこれだけたくさんの人々が一堂に会することは滅多にないのよ!」
「お前、何かむきになっていないか?」
ウリュンは軽く首を傾げる。
「むきに? いいえそんなことは」
「いいえ私にも判りました。マドリョンカ、あなた何か焦っていない?」
マドリョンカはふっと笑った。だがその姉の問いには答えず、彼女は兄の方を向いた。
「お兄様はご存知でしたのね」
二人の入れ替わりを、という言葉は無論省略する。
「ああ」
「何故私達に何一つ?」
「マドリョンカ、大変なことでしょう、それは」
「ええ大変なことかもしれないわ。でも私達もサヘ家の人間よ。女よ。何かの力になれたかもしれないし――― お兄様」
そこまで言って、マドリョンカは言葉を止めた。
「あの二人は――― サハヤ様とセン様はご存知ですか?」
あ、とセレは口を押さえた。いや、とウリュンは首を横に振った。
「あいつ等も知らない。―――いや、もう、今では、あれが、本当のことなんだ。皇后になったのはアリカ。そういうことなんだ」
「じゃあお兄様、皇后様に仕えている、上級女官になった女がサボンということなのね。そうなのね。そうなったのね」
「マドリョンカ、声を」
「ああごめんなさいお姉様。そういうことに、したのね」
「そうだ」
「お父様にとって、私達も、そういうことなのね」
「―――マドリョンカ」
「それは言い過ぎよ、マドリョンカ」
「いいえお姉様」
きっ、とマドリョンカは姉を見据える。
「それはお姉様自身、よくご存知のことでは」
「マドリョンカ!」
ウリュンは妹の言葉を遮る。
「それは言い過ぎだ」
「ごめんなさいお姉様。でもお父様の考えが、それでよく判った気がするわ。お父様にとって、私達って、そういうものなんだわ」
「それは違う、マドリョンカ」
「何処が違うと!」
マドリョンカは鋭い声で問い掛ける。
「少なくとも、当人は納得している」
「当人」
マドリョンカはくす、と笑う。
「ではその本人に会ってみたいものです。会いたいですお兄様。会えますか? 会わせて下さい」
「今日それを言うのは」
「『皇后様』はずっと今謁見の最中でしょう? 私達は家族です。サボンに少しでも会えないなんてことは無いでしょう?」
む、とウリュンは口ごもった。
「そうだ」
マウジュシュカ夫人はそう言うとミチャ夫人の方を見た。
「そなたはどうします」
「私は」
ミチャ夫人は娘達をちら、と見る。
「お母様お疲れではありませんか?」
セレが口をはさむ。
「差し出がましい様ですが、私はあの――― 先方様のご家族がいらしていると言うので……」
そう言って頬を赤らめる。ほぉ、とマウジュシュカ夫人は太い眉を上げる。
「そう言えばそなた、婚礼が近かったな」
「はい。おかげさまで」
「母上」
ウリュンはひょい、と母の方へ顔を向けた。
「私が居ます。妹達にとってもこれだけの人が出席している場に居ることは決して悪いことではありません。もしミチャ様もお疲れなら、母上と一緒に帰られては如何でしょうか」
「疲れたのか、そなた」
「は、はい」
正直ミチャ夫人は先程の衝撃が抜け切れていなかった。
あそこに居たのはアリカだが、アリカではない。
おそらくその件については夫が今宵説明してくれるだろうが、この動揺した気持ちのまま、宴の席に居るのは。
「では仕方あるまい。帰宅じゃ」
「お前達はどうする?」
ウリュンは妹達に問い掛ける。大人しいセレがわざわざ言い出したということは、おそらく。
「私は居たいですわ、お兄様」
案の定、マドリョンカは強い口調で返してきた。
「シャンポン、お前は?」
「この先宮中に私達が行くことはできますか?」
「それは無論」
「では私も今日は帰りたく思います」
「シャンポン?」
ミチャ夫人は怪訝そうな顔で娘を見る。
「私は不器用ですから」
「けど」
「シャンポンがそう言うなら、そうすればいいんじゃないの? 私なら大丈夫。セレ姉様とお兄様がついて下さるから」
「……そう…… そうね」
「そなたは美しい。今日の女達の中でも群を抜いて美しいからな」
「奥様」
マウジュシュカ夫人の乾いた声に、ミチャ夫人は次の言葉を失った。
「我等は帰宅するとしよう。ウリュンそれではくれぐれも間違いの無いよう」
「はい母上」
立ち去って行く三人の後ろ姿を見ながら、マドリョンカはふうっ、と大きく息をついた。
「ありがと、お兄様お姉様」
「何のことだ?」
「判ってるでしょ。私がどれだけここに居残りたかったか!」
ウリュンとセレは顔を見合わせる。確かにそうだ。
「見れば判るさ」
「確かにこれからも宴はあるでしょうし、私が出席する機会はあるわ。だけどこれだけたくさんの人々が一堂に会することは滅多にないのよ!」
「お前、何かむきになっていないか?」
ウリュンは軽く首を傾げる。
「むきに? いいえそんなことは」
「いいえ私にも判りました。マドリョンカ、あなた何か焦っていない?」
マドリョンカはふっと笑った。だがその姉の問いには答えず、彼女は兄の方を向いた。
「お兄様はご存知でしたのね」
二人の入れ替わりを、という言葉は無論省略する。
「ああ」
「何故私達に何一つ?」
「マドリョンカ、大変なことでしょう、それは」
「ええ大変なことかもしれないわ。でも私達もサヘ家の人間よ。女よ。何かの力になれたかもしれないし――― お兄様」
そこまで言って、マドリョンカは言葉を止めた。
「あの二人は――― サハヤ様とセン様はご存知ですか?」
あ、とセレは口を押さえた。いや、とウリュンは首を横に振った。
「あいつ等も知らない。―――いや、もう、今では、あれが、本当のことなんだ。皇后になったのはアリカ。そういうことなんだ」
「じゃあお兄様、皇后様に仕えている、上級女官になった女がサボンということなのね。そうなのね。そうなったのね」
「マドリョンカ、声を」
「ああごめんなさいお姉様。そういうことに、したのね」
「そうだ」
「お父様にとって、私達も、そういうことなのね」
「―――マドリョンカ」
「それは言い過ぎよ、マドリョンカ」
「いいえお姉様」
きっ、とマドリョンカは姉を見据える。
「それはお姉様自身、よくご存知のことでは」
「マドリョンカ!」
ウリュンは妹の言葉を遮る。
「それは言い過ぎだ」
「ごめんなさいお姉様。でもお父様の考えが、それでよく判った気がするわ。お父様にとって、私達って、そういうものなんだわ」
「それは違う、マドリョンカ」
「何処が違うと!」
マドリョンカは鋭い声で問い掛ける。
「少なくとも、当人は納得している」
「当人」
マドリョンカはくす、と笑う。
「ではその本人に会ってみたいものです。会いたいですお兄様。会えますか? 会わせて下さい」
「今日それを言うのは」
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む、とウリュンは口ごもった。
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