四代目は身代わりの皇后④十年後~皇后アリカの計画と皇太子ラテの不満

江戸川ばた散歩

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第18話 報告三件

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 十日もすると、フヨウの直属の部下が夜の闇に紛れて戻り、報告をし始めた。

「現在暫定的に完成されました地図によるところの砂漠と思われる境界線に沿って、我々は調査を開始いたしました。調査は男女一組で。旅の商人夫婦ということで」

 戻ってきた一人一人とフヨウとサボンを加え、その「夫婦」を演じていた女の方が直接報告にやって来る。現在報告しているのは「浅葱アサギ」という名を持っている、サボンより少し年上の女だった。

「もともとカリョン様のところに持ち込んだとされる物売りの経路を調べたところ、彼等は彼等で問屋があり、個々人で仕入れる訳ではなさげです。そこに入り込み、糸の産地を調べました」
「問題はそれがどの範囲まで、だが……」
「中心を出荷された村落に置き、そこからどれだけの範囲で生産がされているのか、後は散っての調査だったのですが」

 浅葱は懐から布と油紙で包んだ数枚の葉を取り出した。

「桑の葉ですね。ですが少し形と色が私の知っているものと違いますが」

 フヨウはその一枚を手に取ろうとするが、アリカは首を横に振った。

「形は違いがあるのが元々…… 色か」
「形は違いがあるのが普通なのですか?」

 サボンが問いかける。

「桑は木によって葉の形が違う。はじめから水のみで育てたならば、丸いままだが……」
「水のみで育てられるのですか!」

 フヨウが驚いた。彼女達の里でも桑は普通にあったが、あくまで野生にあるものだという認識だった。

「育てようと思えば、水と陽の光があれば大概の植物は育つ。ただそれができる環境があれば。残念ながら今のここでは無理だが」

 アリカの中には「できる環境」が見えているのだろう。サボンはそういう時少し寂しくなる。そしてまた、アリカはできない環境であることに苛立ちを感じるのだろうな、とも思う。

「この葉は糸の生産地のものです。実際、その地ではその様な糸しか蚕から出てこないと言ってました。あの辺りでは不吉な色だということで、喪の服を作ることに使っていたようです。ところが近年の『珍しい糸』や『編み飾り』が広まったことで、他地方では別の目的で売れるかもしれない、と出してきたところであると」
「その地方では当たり前だった訳だな。それ以外の服は何で作っていた?」
「地図ですとこの辺りになります」

 帝都と緯度はそう変わらないのだが、より深く砂漠地帯に食い込んでいるかの様だった。

「この辺りに人が住んでいるの?」
「ええ。砂漠側に進んで行くと、砂ではなく岩と乾いた大地の続く地が続くのですが、唐突に緑と水が豊かな地があるのですよ」
「そこにだけ人は集って住んでいる…… ということで良いか?」
「はい。最も近い内地側の集落とは馬でも一日かかりました。『行き止まりの村』と呼ばれているそうです」
「『行き止まり』」

 アリカは繰り返した。



 やがて次々に戻ってくる者達も全て葉を携えてきた。北の遊牧地に近い辺りから戻ってきた「珊瑚」はその呼び名の様なつややかな唇と柔らかな声でこう語った。

「自分が向かった地では特にそれらの色を持つ糸が生産されることはありませんでした。そもそも桑が育つ様な環境でもなく、糸も羊や山羊の毛から取ることが普通の場所でしたので」

 そういう地が多いことはアリカもサボンも良く知っている。何かと二人の話題に出た場所だ。メ族もその辺りに昔は住んでいた。

「現在はあくまで遊牧のみなのか?」
「一応その様です」
「一応というのは」
「途中に山地を通って行くのですが、そこで時々美しい石が採れるということで、それを生業にする者も」
「遊牧の民はそれはしないのか?」
「石採りの民は遊牧を捨てた者とされて、彼等からは侮蔑の対象となっている模様。天と地の恵みにより育てた山羊や羊、馬にて生きることより安易に、大地の一部を掘り起こし削り取り金に換える者を彼等は好みません」
「しかし彼等にも装飾品はあるのではないか? 美しい石ならば」
「如何なものでしょう。私が調べた場所においては、飾りといえば色鮮やかな刺繍でしたが。その場合の糸は絹糸ですので、他の地から買い付けるという具合ですが」
「石は拒否するのか」
「宝石は我々の里でも珍重されるものですが」
「私もそう思う。何処にでもあるものでない美しいものであるから宝石と呼ばれるのだ。だとしたら、彼等が石のものを忌避する理由があるのか?」
「その辺りまでは」
「引き続き調べる様に」
「は」

 そう言って珊瑚は下がった。



 またこう報告する者もいた。

「我々から見たら食べられる植物でも、止められることが途中から増えてきました」
「それはどの辺りからか?」

 地図を示してアリカは次の「蘇芳」に問いかけた。

「自分の担当はこの辺りから」

 帝都よりずっと北の方だった。

「大地自体が常に凍り付いている様な場所でした。全体的に山地で、標高が高く、住む者も少なく」
「それでもその地に住む者達は、我々の知る植物が駄目だというなら、何を食べていたのだ?」
「最も止められたのは苔でした。角の大きな馬と鹿の間の様な獣を飼い慣らし、時には食している模様。山の木々にて頑丈な家を作る部族と、天幕を張って移動する部族が半々というところです」
「……様々だな。少なくともここの資料にある記録とはずいぶんと様変わりしている」

 やや苛立った口調でアリカはつぶやいた。
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