未来史シリーズ⑪ベル~父をたずねてここまできたぜ

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
12 / 19

第12話 「お腹ん中は、ぐるぐる」

しおりを挟む
「お前ソレ嫌いらしいけど、そんなに嫌?」
「リクツじゃないもん」
「嫌なんだろ」
「嫌は嫌だけど。リクツでは嫌だって感じる自分が嫌」
「おお、真面目」
「だってマスター、あんた等が好き同士ってのは仕方ないし。そのくらいは判るし」
「あ、じゃあお前、俺がKとアレでも、マジで構わないんだ」

 ほう、と彼は感心した様な声を立てた。

「構う構わないじゃなくてねえ」

 はあ、とあたしはため息をついた。

「だって知ってるもん。確かにここではあんまりソレって好かれてもないけど、他星系では違うの知ってるし。文化の差じゃん、結局。それにマスター達はイロイロあってあーなってるんだ、ってことは判るし」
「それがお前の言うとこのリクツ?」
「そ。だけど」
「だけど?」
「お腹ん中は、ぐるぐる」

 くくっ、と彼は笑った。だがその笑いはすぐに優しいものに変わった。

「それでいーんじゃないの? けど俺なんか、お前がそーんなにリクツで自分を納得させようとする奴だなんて思わなかったなあ」

 そう言いながら彼は、カウンターにもたれて腕を前で組んだ。

「だって事実は事実だもん。事実を認めなくちゃ、人間、前に行けないじゃない。進歩は全てそこから来るんじゃないの?」
「お前ホント、前向き」
「マスターはそうは思わないの?」

 はい、とあたしは拭き終わったほうろうのポットをマスターに渡した。彼はははは、と乾いた笑いを漏らした。

「思いたいんだけどねー」
「思えないの?」
「さあ、どーかな。まー俺達の場合なんか、振り返るべき後ろが無いっーのが一番問題」

 そう言われてしまうと、どう言っていいのか困る。それはどうも顔に出ていたらしく、マスターは苦笑しながら、あたしの頭をぽん、と叩いた。

「だから別にソレはいいの。リクツで納得できる。納得できないのはも一つの方」
「も一つの方?」
「だーかーらー、あたし、マスターが女だったとしても同じ気持ちになるっての」

 ぽん、とマスターは手を叩いた。

「つまりお前は、単純に、『ママハハ』に対して妬いてるんだ」
「妬いてるっーか、『ママが可哀想でしょ!』って感じ」

 はーいはいはい、と彼は大きくうなづいた。

「納得。でもそれお前、普通俺に言うか?」
「マスターが女だったら言わない。どろどろになるの見え見えだし。男だから言うの」
「……それはまた複雑怪奇な」

 そうなのだ。結局あたしの気持ちはそこで止まる。
 あたしのモットー「批判的精神であれ」と思ったとしても、どーしてもうまくいかない感情の部分。

「あーもう、マスターが簡単に憎めるタイプだったら楽だったのにーっ」

 言いながらあたしは残りの拭くべき食器を力まかせに拭く。きゅっきゅっ、と音が耳にうるさい。

「俺はやだねー。ママムスメとどろどろの戦いなんか。ホントのスプラッタの方が気楽」
「ホントのスプラッタ、経験してるの?」
「そらまあそれなりに」

 ぞ、と背筋に寒気が走るのを感じた。

「……それなりにって」
「んー、だってなー、……」

 マスターはそう言いながら、天井を見上げた。そして軽く首を回す。

「……やめた。あまりいい話じゃあない」
「あたしでも?」
「一応お前女だし。チビでガリのガキでも」
「禁句ーっ!」

 ぼん、とまたステンレスの盆が音を立てた。

「おいお前ら、またやってるのか……」

 そう言いながら、カウベルを鳴らして、ドクトルKが入ってくる。彼は閉店後の、共通時九時頃にやって来るのが普通だ。「お疲れ」とマスターは手を挙げる。
 ドクトルはこんな風に、ほぼ毎晩、夕食にやって来る。そしてそのまま泊まり込んで、翌朝朝飯を一緒に食べてく。
 医院の方は、朝は九時くらいから。昼の患者が終わって一時くらいから三十分ほど休むと、また午後の患者がやって来る。一体何処からわいて来るんだろう、というくらい、毎日毎日、ひっきりなしに患者は来るらしい。

「で、うちには一応休みがあるだろ?」
「うん」
「ヤツの方には無いの。お休み」
「ええっ!!」

 このことを言われた時には、あたしもさすがに驚いた。

「……そんなに患者さん、多いの?」
「多いねー。両隣の町からも来るし、またあいつも来れば来たで、全部診ようとするし、自分に手に負えないとみれば、大病院への紹介状も書いてやってるし」
「へーえ」

 さすがにあたしも感心した。
 そう、何でも、この「アンデル」と、両隣りの町には、ドクトルが来るまで医者がここ数年、居なかったそうだ。だから仕方なく町の人々は、病気やケガの時には、遠くの病院まで出かけて行ったのだという。

「お前も見たろ? この町の様子は」

 うん、とあたしはうなづく。
 だいたい無いのは、病院医院だけじゃない。警察も無い。消防も無い。一応食料品や生活用品を扱う店、食堂は何軒かあるけれど、発展というには程遠い。

「貧乏…… って訳じゃないでしょうに」
「うん、貧乏じゃあない。ただ、物騒」

 「物騒」の内容はともかく、そのせいで人は居なくなってしまったらしい。
 ここにやって来た時、あたしは軽いカルチュアショックを受けた。駅には必ず駅員さんが居て、改札があって、切符売り場があるものだと思っていた。けどここには何も無い。

「それでも駅舎はあるだろ?」

 そのことを言うと、マスターはそう返した。ん、とあたしはうなづいた。

「俺達が来る十年位前までは、ちゃんとあそこには駅員が切符も売ってたらしいんだわ」
「じゃあ何で、今は居ないの?」
「そりゃあ、乗るヤツが少ない駅に駅員を置くのは無駄だろ」

 と言う訳で人口の低下は駅にまで影響をきたすということがよーく判った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...