5 / 23
5 家を出てから、マルティーヌと
しおりを挟む
だがそんな日々も二年で終わった。
私が十五の時だった。
男爵は私が自分の胤でないことを知ってしまったのだ。
私自身、どうして自分とアリサがそう変わらない歳なんだろう、と思わなくもなかった。
ただそれは、母が男爵を慰めたからだ、と思ってもいた。
だがそうではなかった。
母は他の男との間に子供ができたことを知ったからこそ、傷心の男爵につけ込んで関係を結んだのだ。
後に誰が本当の父親であるのかは明らかになったが、この時点ではまだ私は男爵が父親だとしっかり思い込んでいた。
ところが、どういう訳かそれが嘘だと判ってしまった。
この辺りは夫婦間の出来事なので判らない。
それで母が離婚されるかというと、そういう訳でもなかった。
この時点では既に弟ができていた。
これで彼女のこの家での地位は安泰だったのだ。
ただ男爵の怒りは強かった。
もともとさほど戻ってこないひとだったが、更にその度合いは強くなった。
それに何と言っても、私に対して偽物の子供、ということで憎しみが湧いたらしい。
こうなるともう私は両親(と思われていた人々)から憎まれ、何をされるか判らなくなった。
実際、母の視界に入るまい、とはしていたが男爵に見つかってしまった時に、彼もまた、私をひっぱたいてきた。
私の顔があまりにも母と似ていないこともあったかもしれない。
派手な彼女とも、後に散々言われる「ゲルマン系」な男爵の特徴も示していないのだ。
「このままじゃ貴女の身が危険だわ」
そうアリサが切り出して、皆で私を外へと逃がしてくれた。
行き先がこれまたアリサの乳母のマルティーヌのところだ。
この辺りに彼女のお人好しなのか何なのか判らないところがある。
マルティーヌは乳母になった時点では、生まれたばかりの子供を亡くした女だったという。
つまり本当に八歳までアリサを娘のつもりで世話し、愛してきたひとなのだ。
そんな彼女からすれば、私は自分を追い出した女の娘なのだ。
これはアリサには秘密だが。
正直、当初はマルティーヌと私の仲は相当ぎくしゃくしていた。
「……お嬢様も何だって、また酔狂な」
そうこぼしていた。
だがそこは、この二年間で得たアリサの様子を話すなり、マルティーヌが請け負った内職を自分もしたい、仕事があまり無いなら家事を、外に働きに出るならそれでも、と積極的に出たのが効いたのだと思う。
「あんたはあの女とは何か違うね。おんなじつもりでいて悪かった」
そう言ってくれるまで、半年みっちりかかった。
アリサへの手紙にはそれは一言も書いていない。
私が十五の時だった。
男爵は私が自分の胤でないことを知ってしまったのだ。
私自身、どうして自分とアリサがそう変わらない歳なんだろう、と思わなくもなかった。
ただそれは、母が男爵を慰めたからだ、と思ってもいた。
だがそうではなかった。
母は他の男との間に子供ができたことを知ったからこそ、傷心の男爵につけ込んで関係を結んだのだ。
後に誰が本当の父親であるのかは明らかになったが、この時点ではまだ私は男爵が父親だとしっかり思い込んでいた。
ところが、どういう訳かそれが嘘だと判ってしまった。
この辺りは夫婦間の出来事なので判らない。
それで母が離婚されるかというと、そういう訳でもなかった。
この時点では既に弟ができていた。
これで彼女のこの家での地位は安泰だったのだ。
ただ男爵の怒りは強かった。
もともとさほど戻ってこないひとだったが、更にその度合いは強くなった。
それに何と言っても、私に対して偽物の子供、ということで憎しみが湧いたらしい。
こうなるともう私は両親(と思われていた人々)から憎まれ、何をされるか判らなくなった。
実際、母の視界に入るまい、とはしていたが男爵に見つかってしまった時に、彼もまた、私をひっぱたいてきた。
私の顔があまりにも母と似ていないこともあったかもしれない。
派手な彼女とも、後に散々言われる「ゲルマン系」な男爵の特徴も示していないのだ。
「このままじゃ貴女の身が危険だわ」
そうアリサが切り出して、皆で私を外へと逃がしてくれた。
行き先がこれまたアリサの乳母のマルティーヌのところだ。
この辺りに彼女のお人好しなのか何なのか判らないところがある。
マルティーヌは乳母になった時点では、生まれたばかりの子供を亡くした女だったという。
つまり本当に八歳までアリサを娘のつもりで世話し、愛してきたひとなのだ。
そんな彼女からすれば、私は自分を追い出した女の娘なのだ。
これはアリサには秘密だが。
正直、当初はマルティーヌと私の仲は相当ぎくしゃくしていた。
「……お嬢様も何だって、また酔狂な」
そうこぼしていた。
だがそこは、この二年間で得たアリサの様子を話すなり、マルティーヌが請け負った内職を自分もしたい、仕事があまり無いなら家事を、外に働きに出るならそれでも、と積極的に出たのが効いたのだと思う。
「あんたはあの女とは何か違うね。おんなじつもりでいて悪かった」
そう言ってくれるまで、半年みっちりかかった。
アリサへの手紙にはそれは一言も書いていない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
157
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる