17 / 23
17 愛の反対は無関心
しおりを挟む
さてそんな資料つき手紙を送ったら、アリサのほうから、何とももどかしそうな手紙が返ってきた。
「ともかく思いつくこととか色々あるんだけど、まとまらなくって嫌なんですって」
「考え込むタイプ?」
「そうね。考えるのは好きみたい。ただ、順序立てて考えるというより、あれもこれも浮かんで、何となく方針はあるんだけどとっちらかって困る、という感じかしら」
その辺りがアリサの弱いところだ。
順序立てて物事を考えるというのは訓練なのだけど、アリサはその辺りがちょっと弱い。
出来事から何か予想するのは私よりずっと早いのだけど。
「ふむ。じゃあちょっと彼女に会ってこようかな」
キャビンさんはそう言い出した。
「いいんですか?」
「まあ、ちょっと空いているし。それにアリサさんの考えをまとめるのに役立てば、その後の方針も立てやすいだろう?」
*
そしてキャビンさんは行って戻ってきた訳だが。
「え、男爵を罪に問いたいとかじゃないんですって?」
「ちょっとあれは珍しいというか」
どうにも。
私は自分が母に対しての憎しみが原動力だからアリサもある程度そうなのか、と思ってはいた――
と言うか、それ以外の理由が何処にあるんだ? と思っていた。
ところが。
「ただ知りたいだけ。憎んではいない。関心もない…… 何かそれって凄いですね」
オラルフさんもそう言った。
「で、自分の家族はむしろ使用人の皆だ、と言ってましたよ。まあ、確かにそうなんでしょうね。アリサさんは初めから親に捨てられている様なものですから」
「愛の反対は憎しみではない――か」
「何ですかそれは」
私はキャビンさんに聞いた。
「憎しみという感情は、愛している、もしくはいたからこそ生まれるんですよ。ミュゼットさんが夫人のことが憎いと思うのは、それまで愛してくれたのに、という手のひら返しのせいもあるんじゃないですか?」
「確かにそれはあります」
私はうなづいた。
「誕生日を祝ってくれることは無いにしても、私は母にそれなりに愛されていると信じていたんですよね。だからあの日急に目を吊り上げて私を使用人の位置まで追い出した母が憎いんだと思います」
「そう。だけどアリサさんはそもそも憎める程愛されても来なかった。だからどうでもいいんですね。で、その一方で一度知りかけたことに対しては貪欲だ。これはどちらかというと、学究肌のひとにありがちなんですがね」
「ああ……」
確かにアリサにはそういうところがあった。
一度何かを疑問に持つと延々それについて考える様なところが。
私はそこまで考えなかった。
ある程度で切り上げて、とりあえずこれでいいや、ということにしてきた。
今も、アリサの頼みでなかったらきっとスリール子爵の申し出をさっさと受けているかもしれない。
「ともかく思いつくこととか色々あるんだけど、まとまらなくって嫌なんですって」
「考え込むタイプ?」
「そうね。考えるのは好きみたい。ただ、順序立てて考えるというより、あれもこれも浮かんで、何となく方針はあるんだけどとっちらかって困る、という感じかしら」
その辺りがアリサの弱いところだ。
順序立てて物事を考えるというのは訓練なのだけど、アリサはその辺りがちょっと弱い。
出来事から何か予想するのは私よりずっと早いのだけど。
「ふむ。じゃあちょっと彼女に会ってこようかな」
キャビンさんはそう言い出した。
「いいんですか?」
「まあ、ちょっと空いているし。それにアリサさんの考えをまとめるのに役立てば、その後の方針も立てやすいだろう?」
*
そしてキャビンさんは行って戻ってきた訳だが。
「え、男爵を罪に問いたいとかじゃないんですって?」
「ちょっとあれは珍しいというか」
どうにも。
私は自分が母に対しての憎しみが原動力だからアリサもある程度そうなのか、と思ってはいた――
と言うか、それ以外の理由が何処にあるんだ? と思っていた。
ところが。
「ただ知りたいだけ。憎んではいない。関心もない…… 何かそれって凄いですね」
オラルフさんもそう言った。
「で、自分の家族はむしろ使用人の皆だ、と言ってましたよ。まあ、確かにそうなんでしょうね。アリサさんは初めから親に捨てられている様なものですから」
「愛の反対は憎しみではない――か」
「何ですかそれは」
私はキャビンさんに聞いた。
「憎しみという感情は、愛している、もしくはいたからこそ生まれるんですよ。ミュゼットさんが夫人のことが憎いと思うのは、それまで愛してくれたのに、という手のひら返しのせいもあるんじゃないですか?」
「確かにそれはあります」
私はうなづいた。
「誕生日を祝ってくれることは無いにしても、私は母にそれなりに愛されていると信じていたんですよね。だからあの日急に目を吊り上げて私を使用人の位置まで追い出した母が憎いんだと思います」
「そう。だけどアリサさんはそもそも憎める程愛されても来なかった。だからどうでもいいんですね。で、その一方で一度知りかけたことに対しては貪欲だ。これはどちらかというと、学究肌のひとにありがちなんですがね」
「ああ……」
確かにアリサにはそういうところがあった。
一度何かを疑問に持つと延々それについて考える様なところが。
私はそこまで考えなかった。
ある程度で切り上げて、とりあえずこれでいいや、ということにしてきた。
今も、アリサの頼みでなかったらきっとスリール子爵の申し出をさっさと受けているかもしれない。
13
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
無能扱いされ、パーティーを追放されたOL、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
恋愛
かつて王都で働いていたOL・ミナ。
冒険者パーティーの後方支援として、管理と戦略を担当していた彼女は、仲間たちから「役立たず」「無能」と罵られ、あっけなく追放されてしまう。
居場所を失ったミナが辿り着いたのは、辺境の小さな村・フェルネ。
「もう、働かない」と決めた彼女は、静かな村で“何もしない暮らし”を始める。
けれど、彼女がほんの気まぐれに整理した倉庫が村の流通を変え、
適当に育てたハーブが市場で大人気になり、
「無能」だったはずのスキルが、いつの間にか村を豊かにしていく。
そんなある日、かつての仲間が訪ねてくる。
「戻ってきてくれ」――今さら何を言われても、もう遅い。
ミナは笑顔で答える。
「私はもう、ここで幸せなんです」
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。
reva
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。
特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。
けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。
彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下!
「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。
私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる