14 / 38
第14話 やっと話は進み始めた。
しおりを挟む
「正直、そこは先帝も誤算だったらしい」
アリカとサボンは顔を見合わせた。
「それが……? そもそも憎ませることが必要だったから彼女を選んだのでは?」
「確かにそうだ。行動力もある方が良かったからな。おい、天井の! 先帝はお主等の存在までは想像できなかったようだ」
がた、と少し大きめの音が上から聞こえてきた。
「奴の動きに戻そう。追っ手を撒いて只人に紛れるために、当時の都まであれはたどりついた。若い女の一人身が危険とは言っても、同じ里の追っ手ほどの強さは持っていないことが殆どだったからな…… それでも都にやってきた頃はさすがに飢えと疲れでぼろぼろだったということだ。そこで『誰にでも門が開かれてる』と言われていた当時の棒術師範の道場の前で倒れてみせた」
「見せた」
「そう、見せた。まあ殆ど本気だがな。それでも場所を選ぶだけの力を根性で残していたらしい」
「『門が開かれて~』は噂になっていたのですね」
「ああ。先帝はそこに入り込んでから、その様な噂を流した。実際それで良い人材も育ったし、不要な奴は叩きだしている。困る程のことではなかった。だがあれにとっては良いすがりつき場所だった。そしてまた、そこの師範が良い御仁でな」
「……そういう方を選んで?」
「無論だ。ついでに言うと、その御仁は全く先帝の計画など知ることなく後の戦乱で死んでいった。惜しい者を使い捨てにする辺り、孫も罪なことをした」
さすがにその言葉にはアリカは何も返すことはできなかった。おそらく先帝は目的に至るまでのものを全て駒と見なしていたのだろう。そこまでは想像ができてしまう。
「一応そこで孫も師範代になるくらいには充分な時間、共に過ごしてはいるのだがな。後に戦乱が起きた時に都と君主を守ろうとした一群の中で命を散らしていったらしい」
「全くお心を痛めてないとは思われませんが」
「さてどうかな。私の連れ合いも、そういう所は薄情だったよ」
連れ合い――― 初代皇帝イリヤ・クアツ。
「目的のために利用するときっちり決めていた相手に対しては本当に薄情だった。その血は孫まで引き継がれていたな。カヤにしてもその一端は残っている。ただカヤは先の三人よりは、ずっとまともな育ちをしてきた」
「『宿屋の倅』ですか?」
「そう。あの女性には感謝している。まともな人間の感覚をこの血筋にもたらしてくれたからな。カヤはだからこそ、帝位についてから殆ど何もしなかったし、太公主サシャにも愛しさとすまなさをいつも抱えている」
それはそれで太公主には重いものではないか、とサボンは思ったが、それは言わずにおく。何が普通の感覚で何が違うのか、自分もここ一年がところで少し判らなくなっているところがあるのだ。
「で、あの女に戻すが。棒術師範の家にそのまま居候しつつ、棒術も会得していった訳だ。筋がいい弟子というのはやはり持っていて心地が良い。師範もその気持ちが大きかったのだろうな。あれに対しては娘のような気持ちで見る様になっていったらしい。そこで師範代との仲を取り持つ様になってしまった訳だ」
「動かされた」
「そういうことになるな」
「知らず?」
「幸運なことに、死ぬまで知らなかった様だ。あれを頼む、と孫に言い残していったらしい。……のだが、その軍勢自体、孫が内々に動かしていたものなのだがな。まあそれは作戦の一つだった。ただし、長い時間をかけてのな。ともかくそこで棒術の実力もつけた孫もあれも、この当時代替わりが必要だった親衛隊十人衆の一員になるべく、大武芸大会に出場した。今カヤが会いに行っている育ての母親も、その時にあれと出会って、その時は友になった、とそれぞれ誤解したんだ」
「誤解―――ですか?」
友人関係を作るのに誤解も何もあるのだろうか、とサボンは思う。
少なくとも自分は副帝都で過ごした日々にはそんなことはなかったはずだった。隣の家の少年とは、先に上の四姉妹が仲良くなっていたので出そびれてしまった感があったが。ただ自分はともかく、隣の少年と遊ぶ四姉妹の様子には、他意は含まれていなかったと思う。
「まずあれは、主君に忠義を果たすことは知っていたが、同じ歳ごろの子供達は皆敵である様な育てられ方をした。常に気を張っていた。だから全く違う場所から出たカイ――― というのが、育ての親の名なのだがな、彼女の明け透けな好意に、全くの味方だ、と誤解してしまったのさ」
「味方ではいけないのですか?」
「全くの、と言ったろう? サボン。まあもう少し聞け。華の衣という意味を持っているらしい名のカイは、本当に花街の出でな、元々は剣舞の名手だったんだ。その芸わ磨きに磨いて、それでもやはり歳も歳で、芸だけでは困ると言われ出したことで、一か八かの賭けということで、藩国民自由参加のこの試合に出たということだ。そして見事に優雅に勝ち、十人の中に入った。今までそんな所から出たものは無い、美貌の舞姫が十人衆に入った、と当時は湧いたものだったよ。それに比べれば、あれが勝った時などというのは、逆に『卑怯だ!』という声が上がったものだったね」
「卑怯?」
さすがにそれにはアリカも疑問を持った。
「大概自分の持ち技で試合を戦うものなのだがね。あれは何というか…… その直前に出会った紅梅姫に魅了され、どうしても勝ちたかったとみた。そこで棒術で一応出たのだが、途中で棒術の使い手である、という相手の思い込みを利用して、棒を手放した」
「手放した?」
「元々あれは、刺客として育てられたからな。後で付け焼き刃の様に一、二年で会得していった棒術よりは、決勝ではその方がずっと強い。軽業、と周囲には取られただろうな。それと体術で勝ちをもぎとった。……まあ不評だったな」
「ですが勝ちですね」
「そう。そこがあの桜の国の住民の甘さでもあったのさ」
ダリヤは口の端を歪めた。
アリカとサボンは顔を見合わせた。
「それが……? そもそも憎ませることが必要だったから彼女を選んだのでは?」
「確かにそうだ。行動力もある方が良かったからな。おい、天井の! 先帝はお主等の存在までは想像できなかったようだ」
がた、と少し大きめの音が上から聞こえてきた。
「奴の動きに戻そう。追っ手を撒いて只人に紛れるために、当時の都まであれはたどりついた。若い女の一人身が危険とは言っても、同じ里の追っ手ほどの強さは持っていないことが殆どだったからな…… それでも都にやってきた頃はさすがに飢えと疲れでぼろぼろだったということだ。そこで『誰にでも門が開かれてる』と言われていた当時の棒術師範の道場の前で倒れてみせた」
「見せた」
「そう、見せた。まあ殆ど本気だがな。それでも場所を選ぶだけの力を根性で残していたらしい」
「『門が開かれて~』は噂になっていたのですね」
「ああ。先帝はそこに入り込んでから、その様な噂を流した。実際それで良い人材も育ったし、不要な奴は叩きだしている。困る程のことではなかった。だがあれにとっては良いすがりつき場所だった。そしてまた、そこの師範が良い御仁でな」
「……そういう方を選んで?」
「無論だ。ついでに言うと、その御仁は全く先帝の計画など知ることなく後の戦乱で死んでいった。惜しい者を使い捨てにする辺り、孫も罪なことをした」
さすがにその言葉にはアリカは何も返すことはできなかった。おそらく先帝は目的に至るまでのものを全て駒と見なしていたのだろう。そこまでは想像ができてしまう。
「一応そこで孫も師範代になるくらいには充分な時間、共に過ごしてはいるのだがな。後に戦乱が起きた時に都と君主を守ろうとした一群の中で命を散らしていったらしい」
「全くお心を痛めてないとは思われませんが」
「さてどうかな。私の連れ合いも、そういう所は薄情だったよ」
連れ合い――― 初代皇帝イリヤ・クアツ。
「目的のために利用するときっちり決めていた相手に対しては本当に薄情だった。その血は孫まで引き継がれていたな。カヤにしてもその一端は残っている。ただカヤは先の三人よりは、ずっとまともな育ちをしてきた」
「『宿屋の倅』ですか?」
「そう。あの女性には感謝している。まともな人間の感覚をこの血筋にもたらしてくれたからな。カヤはだからこそ、帝位についてから殆ど何もしなかったし、太公主サシャにも愛しさとすまなさをいつも抱えている」
それはそれで太公主には重いものではないか、とサボンは思ったが、それは言わずにおく。何が普通の感覚で何が違うのか、自分もここ一年がところで少し判らなくなっているところがあるのだ。
「で、あの女に戻すが。棒術師範の家にそのまま居候しつつ、棒術も会得していった訳だ。筋がいい弟子というのはやはり持っていて心地が良い。師範もその気持ちが大きかったのだろうな。あれに対しては娘のような気持ちで見る様になっていったらしい。そこで師範代との仲を取り持つ様になってしまった訳だ」
「動かされた」
「そういうことになるな」
「知らず?」
「幸運なことに、死ぬまで知らなかった様だ。あれを頼む、と孫に言い残していったらしい。……のだが、その軍勢自体、孫が内々に動かしていたものなのだがな。まあそれは作戦の一つだった。ただし、長い時間をかけてのな。ともかくそこで棒術の実力もつけた孫もあれも、この当時代替わりが必要だった親衛隊十人衆の一員になるべく、大武芸大会に出場した。今カヤが会いに行っている育ての母親も、その時にあれと出会って、その時は友になった、とそれぞれ誤解したんだ」
「誤解―――ですか?」
友人関係を作るのに誤解も何もあるのだろうか、とサボンは思う。
少なくとも自分は副帝都で過ごした日々にはそんなことはなかったはずだった。隣の家の少年とは、先に上の四姉妹が仲良くなっていたので出そびれてしまった感があったが。ただ自分はともかく、隣の少年と遊ぶ四姉妹の様子には、他意は含まれていなかったと思う。
「まずあれは、主君に忠義を果たすことは知っていたが、同じ歳ごろの子供達は皆敵である様な育てられ方をした。常に気を張っていた。だから全く違う場所から出たカイ――― というのが、育ての親の名なのだがな、彼女の明け透けな好意に、全くの味方だ、と誤解してしまったのさ」
「味方ではいけないのですか?」
「全くの、と言ったろう? サボン。まあもう少し聞け。華の衣という意味を持っているらしい名のカイは、本当に花街の出でな、元々は剣舞の名手だったんだ。その芸わ磨きに磨いて、それでもやはり歳も歳で、芸だけでは困ると言われ出したことで、一か八かの賭けということで、藩国民自由参加のこの試合に出たということだ。そして見事に優雅に勝ち、十人の中に入った。今までそんな所から出たものは無い、美貌の舞姫が十人衆に入った、と当時は湧いたものだったよ。それに比べれば、あれが勝った時などというのは、逆に『卑怯だ!』という声が上がったものだったね」
「卑怯?」
さすがにそれにはアリカも疑問を持った。
「大概自分の持ち技で試合を戦うものなのだがね。あれは何というか…… その直前に出会った紅梅姫に魅了され、どうしても勝ちたかったとみた。そこで棒術で一応出たのだが、途中で棒術の使い手である、という相手の思い込みを利用して、棒を手放した」
「手放した?」
「元々あれは、刺客として育てられたからな。後で付け焼き刃の様に一、二年で会得していった棒術よりは、決勝ではその方がずっと強い。軽業、と周囲には取られただろうな。それと体術で勝ちをもぎとった。……まあ不評だったな」
「ですが勝ちですね」
「そう。そこがあの桜の国の住民の甘さでもあったのさ」
ダリヤは口の端を歪めた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる