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第15話 藩国「桜」にあっという間に起きた内乱
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「あ奴は棒術使い、という触れ込みで出場した。
だが勝敗は基本的に自己申請だ。それこそ命に関わらない限りは。
そしてあの藩国の民は、『武芸』を好んでいた。さてそこがあ奴の狙い目だった訳だ」
あ、とアリカは口を軽く開けた。
「そこが奴と都の民との違いだった訳だ。
そして奴は武芸者ではない。刺客だ。目的は相手を倒し、目的によっては殺すこと。だから武芸はあくまで手段に過ぎない。必要が無ければ違う手立てに切り替える。それだけのことだ。
だが観客はそうではない。そして対戦相手も。奴は弱い相手には棒術で対処していた。だがさすがに決勝になったら、そうもいかなくなった。そして奴が棒を跳ね飛ばされた時、勝敗は決まったと誰もが思ったのさ」
何となくわくわくする自分にサボンは不謹慎だとは思いつつも気付いていた。
昔の、そして知らない藩国のこと。今では行われないだろうこと。やはりそれは聞いていて楽しい。
「ところがそこで、奴はさっと低く体勢を変え、わざわざ巻いていた長い帯を取ると、それを武器にして軽業師宜しく飛び上がった。観衆は唖然としたね。女の武芸者のする跳び方でなかったのが一つ。そして、その次の行動が、帯を使った絞め技だったからさ」
「絞め…… まさか」
「ああ心配するな。一応そこはぎりぎり首ではない」
ははは、と手を振るダリヤにサボンはさっと冷や汗が浮かぶのを覚えた。
「まあその手際は良かったらしいな。審判もどうしたらいいのか戸惑ったらしい。だがまだこの時の審判で良かったらしいな。何せ剣舞で勝ち進む舞姫が居る大会だ。何をもって負けとするかの判断がなかなか審判の方にも問われたものだろう。まあ、観客には実に不評だったらしいが……」
「勝ちにはなったのですね」
アリカは問いかける。
「無論だ。絞め技も、さすがに関節が抜けかけていたからな。帯を使うことで、直接自分の手で力を掛けるより強く絞めることができる。そういう技を知らなかった対戦者と観客からは卑怯だ、という声も出たが…… それでも勝ったことには違いない。あれは私の孫やカイと同時に新規の十人衆の中に入れられた。
だがそこから半年がところで、都で乱が起きた」
「乱―――ですか」
「双子の紅梅姫と白梅君は、それぞれ軍と政を分担している。ただ白梅君が権力としては建前としては上だ。それが一方的に紅梅姫に反逆の怖れあり、ということで拘禁を命じた。これが親衛隊である十人衆に火を点けた。彼等にも出頭・拘禁命令が出されたが……」
「素直には捕まらないですよね……」
「その通り。まあわざわざ親衛隊に、なんて乗り込んできた奴等だ。我は強いし紅梅姫への忠誠心も篤い。となると、ともかく彼女を奪還しようという使命に燃えるな」
「ですがそれだけではないでしょう?」
「そう。十人衆も一枚岩ではなかった。
当時の面子は、元々女官だったイセとハリマ、商家の出のカガとサヌキ、若い法師のオウミ、後は普通に武芸者として名が知れていたアカシとツシマ、それにカイとわが孫とあ奴―――イチヤだったのだが、カガとサヌキがいち早く白梅君の方に寝返った」
「それはまたどうして……!」
サボンは大きく目を広げた。
「……まあ、紅梅姫のご寵愛というものも一様ではなかったということだな。ちなみにこのカガというのは、本名はカガリと言って、大店の娘だったのだが、婿を取って店を継がなくてはならないということに反発して努力して武芸者になったという反骨心旺盛な女だ」
「もしや、先ほど言われた太后さまの試合にも、疑義を唱えたのでは?」
「ああ。『あんなのは武芸じゃない!』と酷い剣幕だったらしい。それに輪をかけて、当時のイチヤは、身内にしか気持ちを開かないといううじうじした女でな。気の強い努力型のカガリからしてみたら、そんな何処から出てきたか判らない、邪道なやり方でのし上がってきたイチヤは気に食わなかったろうな。なのに、紅梅姫は何かとイチヤに目をかけた」
「目をかけたというのは」
「そう、そこだ」
ダリヤは人差し指を立てた。
「紅梅姫は国軍の最高指揮官であるからして、刺客や隠密の大本締めでもある訳だ。そこから帝国に女を一人出すことに決めたのも彼女だ。イチヤは彼女によって、里の姉を辱められ殺され、自身もそうなりそうになって飛び出してきた訳だ。その彼女をまた、目に見える形で贔屓して甘やかす。事情を知らないカガリからしたら、まあ憤懣やるかたないだろうな」
「その感情も利用なさったと?」
「正解」
ぱちぱち、とダリヤは手を叩いた。
「十人衆というのはつまりは民衆の代表の様な部分もある訳だ。『武芸』に慣れた民衆にイチヤは好かれてはいなかったね。
カガリの方は美談として取り上げられていたな。どうしても紅梅姫にお仕えしたかった故に大店の婿を取ればいい跡取りという楽な身分を捨てて武芸に勤しんだ娘、ということで。それがこの地の民の性分には合っていた。
私個人としては、イチヤの戦い方の方が正しいのだがな。実戦では何をしても構わない。相手の弱点があれば付くのも当然だ。道もへったくれもない。自分が生きたいなら、殺すのが役目なら、奴は正しい。
だがその正しさは、あの都の住民には通用しなかったという訳さ。
だから十人衆が逃亡した、分裂した、という噂が広まった時、民衆も分かれてしまったね。
元々の武芸者はカガリについたし、イチヤの友となったカイと、その弟分の様なオウミはあ奴についた。まあ無論、その時はわが孫もだが。
さあそこからが大変だ。何処からか様々な流言飛語、これは陰謀だと叫ぶ瓦版屋、オウミを育てた寺社、カイの出た花街、様々な場所に何処からか力を貸す、という人材がやってきて、どんどん広がっていった。
その中で当の紅梅姫は何処だ、白梅君に会わせてくれ、という声もあったが、その件にはまるで答えが無い。
そうこうするうちに、すっとやってきたのが、帝国の軍勢だ」
だが勝敗は基本的に自己申請だ。それこそ命に関わらない限りは。
そしてあの藩国の民は、『武芸』を好んでいた。さてそこがあ奴の狙い目だった訳だ」
あ、とアリカは口を軽く開けた。
「そこが奴と都の民との違いだった訳だ。
そして奴は武芸者ではない。刺客だ。目的は相手を倒し、目的によっては殺すこと。だから武芸はあくまで手段に過ぎない。必要が無ければ違う手立てに切り替える。それだけのことだ。
だが観客はそうではない。そして対戦相手も。奴は弱い相手には棒術で対処していた。だがさすがに決勝になったら、そうもいかなくなった。そして奴が棒を跳ね飛ばされた時、勝敗は決まったと誰もが思ったのさ」
何となくわくわくする自分にサボンは不謹慎だとは思いつつも気付いていた。
昔の、そして知らない藩国のこと。今では行われないだろうこと。やはりそれは聞いていて楽しい。
「ところがそこで、奴はさっと低く体勢を変え、わざわざ巻いていた長い帯を取ると、それを武器にして軽業師宜しく飛び上がった。観衆は唖然としたね。女の武芸者のする跳び方でなかったのが一つ。そして、その次の行動が、帯を使った絞め技だったからさ」
「絞め…… まさか」
「ああ心配するな。一応そこはぎりぎり首ではない」
ははは、と手を振るダリヤにサボンはさっと冷や汗が浮かぶのを覚えた。
「まあその手際は良かったらしいな。審判もどうしたらいいのか戸惑ったらしい。だがまだこの時の審判で良かったらしいな。何せ剣舞で勝ち進む舞姫が居る大会だ。何をもって負けとするかの判断がなかなか審判の方にも問われたものだろう。まあ、観客には実に不評だったらしいが……」
「勝ちにはなったのですね」
アリカは問いかける。
「無論だ。絞め技も、さすがに関節が抜けかけていたからな。帯を使うことで、直接自分の手で力を掛けるより強く絞めることができる。そういう技を知らなかった対戦者と観客からは卑怯だ、という声も出たが…… それでも勝ったことには違いない。あれは私の孫やカイと同時に新規の十人衆の中に入れられた。
だがそこから半年がところで、都で乱が起きた」
「乱―――ですか」
「双子の紅梅姫と白梅君は、それぞれ軍と政を分担している。ただ白梅君が権力としては建前としては上だ。それが一方的に紅梅姫に反逆の怖れあり、ということで拘禁を命じた。これが親衛隊である十人衆に火を点けた。彼等にも出頭・拘禁命令が出されたが……」
「素直には捕まらないですよね……」
「その通り。まあわざわざ親衛隊に、なんて乗り込んできた奴等だ。我は強いし紅梅姫への忠誠心も篤い。となると、ともかく彼女を奪還しようという使命に燃えるな」
「ですがそれだけではないでしょう?」
「そう。十人衆も一枚岩ではなかった。
当時の面子は、元々女官だったイセとハリマ、商家の出のカガとサヌキ、若い法師のオウミ、後は普通に武芸者として名が知れていたアカシとツシマ、それにカイとわが孫とあ奴―――イチヤだったのだが、カガとサヌキがいち早く白梅君の方に寝返った」
「それはまたどうして……!」
サボンは大きく目を広げた。
「……まあ、紅梅姫のご寵愛というものも一様ではなかったということだな。ちなみにこのカガというのは、本名はカガリと言って、大店の娘だったのだが、婿を取って店を継がなくてはならないということに反発して努力して武芸者になったという反骨心旺盛な女だ」
「もしや、先ほど言われた太后さまの試合にも、疑義を唱えたのでは?」
「ああ。『あんなのは武芸じゃない!』と酷い剣幕だったらしい。それに輪をかけて、当時のイチヤは、身内にしか気持ちを開かないといううじうじした女でな。気の強い努力型のカガリからしてみたら、そんな何処から出てきたか判らない、邪道なやり方でのし上がってきたイチヤは気に食わなかったろうな。なのに、紅梅姫は何かとイチヤに目をかけた」
「目をかけたというのは」
「そう、そこだ」
ダリヤは人差し指を立てた。
「紅梅姫は国軍の最高指揮官であるからして、刺客や隠密の大本締めでもある訳だ。そこから帝国に女を一人出すことに決めたのも彼女だ。イチヤは彼女によって、里の姉を辱められ殺され、自身もそうなりそうになって飛び出してきた訳だ。その彼女をまた、目に見える形で贔屓して甘やかす。事情を知らないカガリからしたら、まあ憤懣やるかたないだろうな」
「その感情も利用なさったと?」
「正解」
ぱちぱち、とダリヤは手を叩いた。
「十人衆というのはつまりは民衆の代表の様な部分もある訳だ。『武芸』に慣れた民衆にイチヤは好かれてはいなかったね。
カガリの方は美談として取り上げられていたな。どうしても紅梅姫にお仕えしたかった故に大店の婿を取ればいい跡取りという楽な身分を捨てて武芸に勤しんだ娘、ということで。それがこの地の民の性分には合っていた。
私個人としては、イチヤの戦い方の方が正しいのだがな。実戦では何をしても構わない。相手の弱点があれば付くのも当然だ。道もへったくれもない。自分が生きたいなら、殺すのが役目なら、奴は正しい。
だがその正しさは、あの都の住民には通用しなかったという訳さ。
だから十人衆が逃亡した、分裂した、という噂が広まった時、民衆も分かれてしまったね。
元々の武芸者はカガリについたし、イチヤの友となったカイと、その弟分の様なオウミはあ奴についた。まあ無論、その時はわが孫もだが。
さあそこからが大変だ。何処からか様々な流言飛語、これは陰謀だと叫ぶ瓦版屋、オウミを育てた寺社、カイの出た花街、様々な場所に何処からか力を貸す、という人材がやってきて、どんどん広がっていった。
その中で当の紅梅姫は何処だ、白梅君に会わせてくれ、という声もあったが、その件にはまるで答えが無い。
そうこうするうちに、すっとやってきたのが、帝国の軍勢だ」
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