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第16話 アリカにとって子供とは
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「それにはでは、対応できなかったということですか?」
「数で負け。その上統率のできていない軍。そもそも紅梅姫が行方不明。逃げたという噂まで飛んだ。正確に言えば、帝国軍が飛ばしたんだが」
「情報戦では流言飛語も活用されますからね」
「え、そういうもの……?」
サボンは眉をひそめる。
「そういうものですよ。メ族なぞ、特に小さな部族ですから、特にそうでしょう」
アリカは言う。そのために自分の様な「全てを記録する」様な人間が子供の頃から別にされて部族の中で飼われていたのだから。
見たものをそのまま言葉にする。そのための言葉だった。自分の意思ではなく。意思はサヘ将軍に拾われてから言葉にできる様になった。だから現在「父」という立場となっている彼には本当に感謝している。
「国内を二分。内乱状態に乗じて数倍の統率された兵で攻める。そうなればもう勝ちだ。桜の藩国は、君主以外にその可能性に気付いていなかった。安穏と暮らしてきすぎていた。まさか自分達のところを攻めてくるはずがない、と」
「ではその時、その君主二人はどうしていたのですか?」
サボンはダリヤに問いかける。その状態になってからの当の二人は何処に居たのか。それとも。
「イチヤ達は探しに探したさ。だが紅梅姫は見つからなかった。理由は簡単だ。そもそもがこれは計画された状況だ。だから彼等は自分達は死ぬ前提だった。ただし無用な流血は避けたい、と。もともと紅梅姫は白梅君と供に居たのさ。二人が愛し合っていたから、という噂も飛んだが、まあその辺りは判らない。ただイチヤはその場を見せつけられたのだ、と言っていたな」
「見せつけられた?」
「自分を拾って、兄の様に接してきて、その後恋人になったと思っていた男がある時彼女の手を引っ張って連れてきた場所は、当時の城。もう既に落ちる寸前で、イチヤはそこに紅梅姫を探しに来た訳さ。だがそこで連れて行かれたのは一番奥の奥。広い寝台の上には血に染まり息絶えた二人が横たわっていたのだと」
だがそれだけでは関係があったかどうかは判らない。
「関係は無くとも、自害の様子を見せつけるだけで、自分達が捨てられた、とか置いていかれた、と当時のあ奴には取ることはできたな。紅梅姫を相当慕っていたから、自分が助けないうちには死んではならない、と思っていたかもしれない」
全く、とダリヤはため息をつく。
「誰かが死ぬのはその誰かの責任だ。自分で勝手に負うものじゃないんだよ。だが当時のあ奴にはその辺りの境目が曖昧でな。何で自分が来るまで待てなかったのか、と今でも根に持ってるふしがある」
「情が深い……? ではないのですか?」
ダリヤは黙って苦笑した。
「根に持つイチヤも何だが、わざわざ見せつけるわが孫も孫だ。しかもそれを見せつけた上で、殺したのは自分だ、とあえて言った訳だ。その上で呆然としているイチヤをその場で滅茶苦茶に犯した。目の端にちょうど紅梅姫の遺体が見える様な場所でな。酷いもんだ。我が孫ながら」
「滅茶苦茶に」
「孕むまで、だな」
ダリヤはあっさりと言う。
「まあ元々そのつもりの相手だったのだからするだろう。それこそ、彼女の腹が膨れてしまう程に精を注ぎ込んでな。変化のために眠り込んだあれを、仲間の顔をしてカイとオウミに任せ、皇帝の顔に戻っていった訳だ」
サボンは困った様な顔でアリカの方を向いた。何かとんでもないことを聞いてしまった気がする、と。
アリカからすれば想像ができたことだった。確かにそれらはわざわざ憎ませようとする行動なのだ。
「カイとオウミは眠り込んだままなかなか目覚めないイチヤをかばいつつ逃亡したのだから、実に素晴らしい友だ。特にカイは何とか落ち着いた先で、気力も何も戻ってこないあれを何とか動かしてきたらしい。その上、子供―――まあ今のカヤだが、生まれたらそれを殺そうとするあれを必死で止めて、引き離して自分の手で育てたのだからな。その時に絶縁したと言うが、まあ当然だろうな」
「当然?」
アリカは訊ねる。「そこ」は彼女にとっては今一つ理解ができない所だったのだ。カイが止めた理由は頭では判る。が、イチヤの思考をたどって考えると、どうにも感情が伴わない。
「太后様からしたら、やはり憎い相手の子供を産んでしまったということで、殺してしまいたくなるのも当然では?」
それにはサボンがぎょっとした顔になった。
「何言ってるの! 生まれたばかりの自分の子なのよ!」
「……」
「何か言いたそうだな」
不服そうな表情を察してか、ダリヤはアリカを促した。
「メ族は、役に立たないと最初から判断できた場合、普通に殺してましたから」
「え」
「呼吸を取り入れる最初の泣き声以外、格別に泣きもしない子供は幾度も始末されそうになったのですよ。それを何とか『何かが見えてる様だから』ということで、生き延びた訳ですし。それがなければあの部族は使えない者の食い扶持など用意できませんから。女とて戦に出ましたし」
自分、という言葉はぼかして言う。アリカは記憶している。自分に対して使われた言葉一つ一つを。後になってその意味を咀嚼し、その意味を考えてきたのだ。自分の出身の部族は、使えない子はあっさりと処分してきたのだと。
「だから産んだ女がその時の状況で必要でないと思ったなら殺してしまったとしても、と私は思ってしまうのです」
「ふむ」
ダリヤはぽん、とアリカの頭に手を乗せた。
「だとしたら、お主はできるだけ乳をやる時間以外は乳母に任せて自分の時間に回した方がいい」
え、と二人は同時に反応した。
「数で負け。その上統率のできていない軍。そもそも紅梅姫が行方不明。逃げたという噂まで飛んだ。正確に言えば、帝国軍が飛ばしたんだが」
「情報戦では流言飛語も活用されますからね」
「え、そういうもの……?」
サボンは眉をひそめる。
「そういうものですよ。メ族なぞ、特に小さな部族ですから、特にそうでしょう」
アリカは言う。そのために自分の様な「全てを記録する」様な人間が子供の頃から別にされて部族の中で飼われていたのだから。
見たものをそのまま言葉にする。そのための言葉だった。自分の意思ではなく。意思はサヘ将軍に拾われてから言葉にできる様になった。だから現在「父」という立場となっている彼には本当に感謝している。
「国内を二分。内乱状態に乗じて数倍の統率された兵で攻める。そうなればもう勝ちだ。桜の藩国は、君主以外にその可能性に気付いていなかった。安穏と暮らしてきすぎていた。まさか自分達のところを攻めてくるはずがない、と」
「ではその時、その君主二人はどうしていたのですか?」
サボンはダリヤに問いかける。その状態になってからの当の二人は何処に居たのか。それとも。
「イチヤ達は探しに探したさ。だが紅梅姫は見つからなかった。理由は簡単だ。そもそもがこれは計画された状況だ。だから彼等は自分達は死ぬ前提だった。ただし無用な流血は避けたい、と。もともと紅梅姫は白梅君と供に居たのさ。二人が愛し合っていたから、という噂も飛んだが、まあその辺りは判らない。ただイチヤはその場を見せつけられたのだ、と言っていたな」
「見せつけられた?」
「自分を拾って、兄の様に接してきて、その後恋人になったと思っていた男がある時彼女の手を引っ張って連れてきた場所は、当時の城。もう既に落ちる寸前で、イチヤはそこに紅梅姫を探しに来た訳さ。だがそこで連れて行かれたのは一番奥の奥。広い寝台の上には血に染まり息絶えた二人が横たわっていたのだと」
だがそれだけでは関係があったかどうかは判らない。
「関係は無くとも、自害の様子を見せつけるだけで、自分達が捨てられた、とか置いていかれた、と当時のあ奴には取ることはできたな。紅梅姫を相当慕っていたから、自分が助けないうちには死んではならない、と思っていたかもしれない」
全く、とダリヤはため息をつく。
「誰かが死ぬのはその誰かの責任だ。自分で勝手に負うものじゃないんだよ。だが当時のあ奴にはその辺りの境目が曖昧でな。何で自分が来るまで待てなかったのか、と今でも根に持ってるふしがある」
「情が深い……? ではないのですか?」
ダリヤは黙って苦笑した。
「根に持つイチヤも何だが、わざわざ見せつけるわが孫も孫だ。しかもそれを見せつけた上で、殺したのは自分だ、とあえて言った訳だ。その上で呆然としているイチヤをその場で滅茶苦茶に犯した。目の端にちょうど紅梅姫の遺体が見える様な場所でな。酷いもんだ。我が孫ながら」
「滅茶苦茶に」
「孕むまで、だな」
ダリヤはあっさりと言う。
「まあ元々そのつもりの相手だったのだからするだろう。それこそ、彼女の腹が膨れてしまう程に精を注ぎ込んでな。変化のために眠り込んだあれを、仲間の顔をしてカイとオウミに任せ、皇帝の顔に戻っていった訳だ」
サボンは困った様な顔でアリカの方を向いた。何かとんでもないことを聞いてしまった気がする、と。
アリカからすれば想像ができたことだった。確かにそれらはわざわざ憎ませようとする行動なのだ。
「カイとオウミは眠り込んだままなかなか目覚めないイチヤをかばいつつ逃亡したのだから、実に素晴らしい友だ。特にカイは何とか落ち着いた先で、気力も何も戻ってこないあれを何とか動かしてきたらしい。その上、子供―――まあ今のカヤだが、生まれたらそれを殺そうとするあれを必死で止めて、引き離して自分の手で育てたのだからな。その時に絶縁したと言うが、まあ当然だろうな」
「当然?」
アリカは訊ねる。「そこ」は彼女にとっては今一つ理解ができない所だったのだ。カイが止めた理由は頭では判る。が、イチヤの思考をたどって考えると、どうにも感情が伴わない。
「太后様からしたら、やはり憎い相手の子供を産んでしまったということで、殺してしまいたくなるのも当然では?」
それにはサボンがぎょっとした顔になった。
「何言ってるの! 生まれたばかりの自分の子なのよ!」
「……」
「何か言いたそうだな」
不服そうな表情を察してか、ダリヤはアリカを促した。
「メ族は、役に立たないと最初から判断できた場合、普通に殺してましたから」
「え」
「呼吸を取り入れる最初の泣き声以外、格別に泣きもしない子供は幾度も始末されそうになったのですよ。それを何とか『何かが見えてる様だから』ということで、生き延びた訳ですし。それがなければあの部族は使えない者の食い扶持など用意できませんから。女とて戦に出ましたし」
自分、という言葉はぼかして言う。アリカは記憶している。自分に対して使われた言葉一つ一つを。後になってその意味を咀嚼し、その意味を考えてきたのだ。自分の出身の部族は、使えない子はあっさりと処分してきたのだと。
「だから産んだ女がその時の状況で必要でないと思ったなら殺してしまったとしても、と私は思ってしまうのです」
「ふむ」
ダリヤはぽん、とアリカの頭に手を乗せた。
「だとしたら、お主はできるだけ乳をやる時間以外は乳母に任せて自分の時間に回した方がいい」
え、と二人は同時に反応した。
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