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第25話 新たな同居人
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「それじゃ今日から宜しくお願いします」
「こちらこそ」
同じ部屋で寝起きすることになったサボンとフヨウは改めて挨拶した。
女官長はフヨウが「何」であるのかは知らなかったが、何処の女官であるのかは知っていた。外回りの手入れをする下級女官で、名前も違うものを使っていた。経歴も桜の出身とは特に記録していなかった。
レレンネイは「それが何か」と首を傾げていたが、アリカの「気に入ったので側仕えにしたい」という願いには怪訝そうな顔をしつつ、了承した。
ただ。
「しかし名前も変えるのですか?」
「外回りがいきなり側近となっては周囲から何を言われるか。私の我が儘ですから、それに付き合わせる分は」
その言い分も今一つ弱いのではないか、とサボンは感じる。後で女官長の意見を聞いておこうと思った。
部屋の中、空いていた寝台に彼女の私物が持ち込まれる。箱一つ程度で収まってしまう程度の様だった。
「フヨウは私が普段はどんなことをしているのか、知ってる?」
「あ、はい一応。朱が常に見ておりましたから、貴女方の仕事は」
「文字はどのくらい?」
「さすがに貴女方程では無いので、お教え願います」
「判ったわ。できるだけ私の覚えたことは教える。その代わり私もお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「私にはできるだけ同輩の口を聞いてほしいの」
「……ああ。はい。判りました。判ったわ」
下級女官の「役」から上級の「役」に変わるのだから、ということだろう、とフヨウは了解する。
「私自身、あのかたにどうしてもそういう口が抜けないのがちょっと困りものなのだけど、気をつけようとは思っているの。だけどどうしても出てしまうから、貴女を見て、思い起こそうかな、と」
「え、そういう理由で」
「ええ」
そっちか、とフヨウはこの元お嬢様に対して目を瞬かせた。
「だって貴女、女官の立場としての口だったら簡単に変えられるでしょ?」
「あ」
確かにそれはそうだ。その辺りは徹底されている。当初から上級に任じられていれば、その役通りに。下級ならその通りに。その辺りは帝都に任じられた時から叩き込まれていた。
「だからそこは元々心配していないし」
「信用してるの?」
「あのかたがそう決めたなら、信用できると思うし」
「……」
無条件に信用しているのだろうか、と間者の里で育った少女は思う。
「私はずっと一緒に居るって約束したんだし」
「忠実に」
「うーん…… というか、あのかたは私で私はあのかた、だから離れたくないという感じ?」
「それはそう、なんでしょうけど」
「あとはまあ、私は大したことはできないから。それにあのかたも、最近は思うけど、欠けてるとこあるから、一緒に居るくらいがちょうどいいの」
「そう…… なの」
欠けているところ。朱からの話では、そういうことは聞いていなかった。あの有能な上司が。
「で、私は甘いらしいから、どうしてあのかたがフヨウの上の人を切って貴女を昇格させたのか、よく判らないの。私に説明できる?」
「あ、たぶんそれは、あのかたが朱を信用できなかっただけだと」
「どうして?」
「どうしてかは。ただ確かに、姿を見せないのではあのかたには信用がならないとは思います。皇帝陛下ならともかく」
「陛下ならともかく?」
あ、と軽くフヨウは声を立てた。
「どうして?」
「……言わないで下さいよ」
「言うかもしれないわよ」
「……貴女も結構きついですね」
「だって私は誰よりもアリカ様の味方なのだもの。仕方ないじゃない」
「……皇帝陛下は、どうでも良いと思われているからです」
「どうでもいい?」
さすがにそれはサボンの方が眉をひそめた。
「皇帝陛下は、我々がついていようがいなかろうがどうでもよかったのだ。母君がわざわざ置いていった組織であるというのに」
「あ」
そこではたとサボンは思い出した。
「そう、その母君。太后様って、どんな方なのかしら」
不意に変わった質問に、フヨウはすぐには反応できず、目を大きく見開いた。あ、この子の瞳綺麗な真っ黒だなあ、とサボンが思ったことなど知らず。
「いえ、何か物事がごちゃごちゃしていたけど、要するに、近々か、既に太后様が何処かにいらっしゃるからこそのこのあのかたの警戒ぶりなのでしょ? で、今慌てて体制固めしておこうってことだとしたら、ええとつまり、―――フヨウは太后様に会ったことある?」
「まあ…… 一応、朱から次点だということで紹介されたことはあります」
「どういう方? ああもう! それこそをまずあのかたは聞きたかっただろうのに」
「その辺りはダリヤ様の方がご存知だろうかと……」
「無論ダリヤ様から見た太后様というのは私も一緒に居たから聞けたわ。だけどそれと貴女達に対するそれとは違うでしょ? あと、フヨウから見てどうだったかな、と」
「私から見て、ですか?」
首を傾げる。どうだったろうか。
「何となく印象が薄い外見の方としか……」
「……それでいいの?」
「いえ、私の顔覚えが悪いというのではなく、―――顔の記憶術は結構徹底して教え込まされるので――― 覚えにくいというか、覚えられないというか」
「……判らないわ」
「見た瞬間はああこういうお顔だな、と思うんだけど、立ち去られると、途端に頭から消えてしまう」
「……何かしらそれは」
「そればかりは」
フヨウも首を傾げるばかりだった。
「こちらこそ」
同じ部屋で寝起きすることになったサボンとフヨウは改めて挨拶した。
女官長はフヨウが「何」であるのかは知らなかったが、何処の女官であるのかは知っていた。外回りの手入れをする下級女官で、名前も違うものを使っていた。経歴も桜の出身とは特に記録していなかった。
レレンネイは「それが何か」と首を傾げていたが、アリカの「気に入ったので側仕えにしたい」という願いには怪訝そうな顔をしつつ、了承した。
ただ。
「しかし名前も変えるのですか?」
「外回りがいきなり側近となっては周囲から何を言われるか。私の我が儘ですから、それに付き合わせる分は」
その言い分も今一つ弱いのではないか、とサボンは感じる。後で女官長の意見を聞いておこうと思った。
部屋の中、空いていた寝台に彼女の私物が持ち込まれる。箱一つ程度で収まってしまう程度の様だった。
「フヨウは私が普段はどんなことをしているのか、知ってる?」
「あ、はい一応。朱が常に見ておりましたから、貴女方の仕事は」
「文字はどのくらい?」
「さすがに貴女方程では無いので、お教え願います」
「判ったわ。できるだけ私の覚えたことは教える。その代わり私もお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「私にはできるだけ同輩の口を聞いてほしいの」
「……ああ。はい。判りました。判ったわ」
下級女官の「役」から上級の「役」に変わるのだから、ということだろう、とフヨウは了解する。
「私自身、あのかたにどうしてもそういう口が抜けないのがちょっと困りものなのだけど、気をつけようとは思っているの。だけどどうしても出てしまうから、貴女を見て、思い起こそうかな、と」
「え、そういう理由で」
「ええ」
そっちか、とフヨウはこの元お嬢様に対して目を瞬かせた。
「だって貴女、女官の立場としての口だったら簡単に変えられるでしょ?」
「あ」
確かにそれはそうだ。その辺りは徹底されている。当初から上級に任じられていれば、その役通りに。下級ならその通りに。その辺りは帝都に任じられた時から叩き込まれていた。
「だからそこは元々心配していないし」
「信用してるの?」
「あのかたがそう決めたなら、信用できると思うし」
「……」
無条件に信用しているのだろうか、と間者の里で育った少女は思う。
「私はずっと一緒に居るって約束したんだし」
「忠実に」
「うーん…… というか、あのかたは私で私はあのかた、だから離れたくないという感じ?」
「それはそう、なんでしょうけど」
「あとはまあ、私は大したことはできないから。それにあのかたも、最近は思うけど、欠けてるとこあるから、一緒に居るくらいがちょうどいいの」
「そう…… なの」
欠けているところ。朱からの話では、そういうことは聞いていなかった。あの有能な上司が。
「で、私は甘いらしいから、どうしてあのかたがフヨウの上の人を切って貴女を昇格させたのか、よく判らないの。私に説明できる?」
「あ、たぶんそれは、あのかたが朱を信用できなかっただけだと」
「どうして?」
「どうしてかは。ただ確かに、姿を見せないのではあのかたには信用がならないとは思います。皇帝陛下ならともかく」
「陛下ならともかく?」
あ、と軽くフヨウは声を立てた。
「どうして?」
「……言わないで下さいよ」
「言うかもしれないわよ」
「……貴女も結構きついですね」
「だって私は誰よりもアリカ様の味方なのだもの。仕方ないじゃない」
「……皇帝陛下は、どうでも良いと思われているからです」
「どうでもいい?」
さすがにそれはサボンの方が眉をひそめた。
「皇帝陛下は、我々がついていようがいなかろうがどうでもよかったのだ。母君がわざわざ置いていった組織であるというのに」
「あ」
そこではたとサボンは思い出した。
「そう、その母君。太后様って、どんな方なのかしら」
不意に変わった質問に、フヨウはすぐには反応できず、目を大きく見開いた。あ、この子の瞳綺麗な真っ黒だなあ、とサボンが思ったことなど知らず。
「いえ、何か物事がごちゃごちゃしていたけど、要するに、近々か、既に太后様が何処かにいらっしゃるからこそのこのあのかたの警戒ぶりなのでしょ? で、今慌てて体制固めしておこうってことだとしたら、ええとつまり、―――フヨウは太后様に会ったことある?」
「まあ…… 一応、朱から次点だということで紹介されたことはあります」
「どういう方? ああもう! それこそをまずあのかたは聞きたかっただろうのに」
「その辺りはダリヤ様の方がご存知だろうかと……」
「無論ダリヤ様から見た太后様というのは私も一緒に居たから聞けたわ。だけどそれと貴女達に対するそれとは違うでしょ? あと、フヨウから見てどうだったかな、と」
「私から見て、ですか?」
首を傾げる。どうだったろうか。
「何となく印象が薄い外見の方としか……」
「……それでいいの?」
「いえ、私の顔覚えが悪いというのではなく、―――顔の記憶術は結構徹底して教え込まされるので――― 覚えにくいというか、覚えられないというか」
「……判らないわ」
「見た瞬間はああこういうお顔だな、と思うんだけど、立ち去られると、途端に頭から消えてしまう」
「……何かしらそれは」
「そればかりは」
フヨウも首を傾げるばかりだった。
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