四代目は身代わりの皇后③皇太子誕生~祖后と皇太后来たる

江戸川ばた散歩

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第24話 アリカにも理解できる「機能美」

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 だがそういった環境で育ってきた割には自分にはその類いのものの善し悪しは判らない。少なくともアリカはそう思っている。
 サボンはそうでもないので、彼女に判断を任せている部分もある位だった。だから現在、衣装方との擦り合わせ等もしてくれることは非常にありがたい、と思っている。
 ただ「機能美」だけはアリカにも理解できた。きっちりとできた使いやすい道具等はやはり美しいと思えるのだ。
 だからこそ、この方面に関しては衣装や飾りより自分自身がどっぷり浸かってしまうのだが。

「絵師に使ってもらうことはできますか?」
「それはまあ。技術方と絵師は関わりが元々深いですし」
「と言うと?」
「我々は『こういうものを作りたい』と思っても、それを上手く言葉でも図でも表現できないことが多いのです。手の方が先に立って。その時に、やはり文章書きと絵師はありがたいと思います。陛下だけでなく、もっと下の部署に頼まれる場合でも、やはりその話し合いの際に絵や上手く表現する言葉というのは非常に強いですので」

 成る程、とその時アリカは思った。そしてそれ故に技術方は絵師や文章書きに伝手があるのだという。

「ではしばらくそのどちらにも試作品を使ってもらって、その結果を教えてくださいな」
「畏まりました」

 その様にしてどちらも使わせた結果、当座できたのが、炭筆の方だった。元々の炭を粉末にし、そこに多少の崩れないための成分を加えることである程度は形になった。
 ただやはりまだ限られた範囲でしか使うことはできそうにない、というのが今の処の結論である。
 何処かへ持って行くにはただ固めただけでなく、周囲を何かしらで囲うことが必要である。そして何と言っても折れやすい。

「とりあえず私が周囲で使うぶんならこれでいいのですが、もっと市井の人々――― 特に子供が使えるようなものの開発を続けて下さい」

 技術方は了解した。

「絵師にとってはとりあえず評判は良いようです。消えてほしくない雑多な素描には使いやすいそうです。あのくらい柔らかい方が」

 副筆頭がその時には口を挟んだ。筆頭は絵師に知己が居たが、副筆頭は文章書きの方に伝手があったらしい。

「逆に文章書きはもっとしっかりしたものが欲しいとか。細い、小さな文字を貴重な紙に書き付ける時には、細かく書けるものがいいんですが、今のこれだとそうもできない、と」
「ではやはりもっと詰めてみることが必要ですね。それと同時に、墨筆の方も――― これは急ぐ必要は無いですが、引き続き開発をお願いします」

 アリカはそう言って技術方に開発の費用を回す様に皇帝に願った。無論彼は二つ返事で了承した。

「よく考えつくな。俺はそういうことには全く縁が無かったぞ」

 むしろ何故考えつかないのだろう、とアリカは思ったものだった。だがそれは決して口にしなかった。そう言ったら戻ってくる皇帝の言葉は「俺は宿屋の倅だからな」に決まっているからだ。
 彼は自分をそれ以上のものにはしない様にしない様にとしてきた節があった。少なくともアリカにはそう見えた。
 ただその一方で、太公主のもとへ殆ど居続ける彼を見ると、羨ましくもあった。太公主ではない。彼が、である。
 それだけ一人の「人間を」ずっと思い続けるということがよくできるものだ、と。そして現在の彼は、太公主に気を遣いつつも、非常に幸せそうに見えた。
 時々庭園を散歩し、東屋で休み、話し、笑い合う姿を見かけることがある。格別なことをしている訳でもないのに、非常に楽しそうなその姿に、それがどういう感情なのか想像がまるでできない自分を少しだけ物足りなく感じるのだ。
 それだけに、「知識」がもたらすものへの思いは強いのではないか、と最近は彼女自身思い始めていた。



 その矢先のダリヤからの子供への対し方の助言である。
 そうかその方面には自分は全く向いていないのだな、と改めて突きつけられた思いだった。
 ある意味ありがたかったとも言える。
 そして今、皇子は隣室で乳母の手元にある。更にその周囲はそれなりに警護もされている。そうすることで、この物騒な集団を仕切るための相談も書き付けもできるのだから。
 組織構成をフヨウの口から語らせ、それをサボンにまとめさせつつ、アリカは時々別の質問も差し挟んだ。

「皆散らばっているのか?」
「いえ、我々宮中に入り込んでいる者は決して多数ではありません。基本は市井に溶け込んでおります。引退すると、我々の本拠地、未だかつての桜の国、今は直轄領となっている地域へと戻ります」
「何故そこに?」
「現在の御年寄―――我々はそう呼びますが、引退した年長者のことです。その方達は、後進の育成や、かつての桜の文化などを書き付けたもの等を保管しております」
「書き付けて保管、か。なるほど、藩国の城が燃えた時に消えてしまった訳ではないと」
「桜の国は記録には熱心でした」

 微妙に嬉しそうにフヨウは言う。

「代々の国主の記録もずっと残しております。何かあった時のために、我々の里に写しを置いておりました。我々の里の者は、それが無駄になることを望みつつ、ずっと保管してきたと聞きます」
「成る程。ではそう言ったことに詳しい者をこちらに呼ぶことはできるか?」
「それは……」

 フヨウは絶句した。

「それはご勘弁下さい」
「何故? いや、私は桜だけではない、他の藩候領の歴史も集められたら、と思っているのだ」
「そのご意向、お伝えいたします。他の藩候領からも…… で、格別負けた国のことを貶めるものでないのなら」
「私が知りたいのは代々記録されてきたことだけで、それ以上でも以下でもない」

 知りたい、とそう思っているだけなのだ。
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