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第35話 マドリョンカの結婚の知らせ
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「少なくとも私に来い、ということではないでしょうね」
アリカは自分とサボン、両方宛の手紙を見てそう言った。
「行くなら確かに私だとは思うし、実際お祝いしたいとは思うんだけど…… 何故マドリョンカはこんな唐突に言って来たのかしら」
サボンは首を傾げる。実家から出産の祝いは来た。父と兄と、兄の友人は来る。義理の母達も来る。
ところが姉達は来ない。その理由を義母達は話してくれなかった。そしてアリカの側は何かと多忙でそれを気にしている暇も無かった。
「いずれにしても、父上に聞いてみるのがいいのではないでしょうか。結婚なら確実にご存知でしょうし」
「そうね……」
「あと、確かに言われてみればシャンポン…… も来ないのが気になりますね」
つい「様」を付けそうになってしまうのは、昔の癖である。アリカであっても口で慣らしたものに関してはつい、ということもある。
「シャンポン様が来ないのだとすると、マヌェ様がお悪いということが考えられるのだけど」
「そうですね。あの方々は実に仲が良いし」
だが正直、血のつながったサボンにしたところで、上の姉妹がどう行動するのか、したいのか、に関しては判らなかった。況んやアリカからしてみれば、彼女達の行動が理屈で読めない。
マドリョンカが義理の妹への嫉妬や野心で動いているなどとは、全く想像の外のことだった。
*
翌日、発つ支度をしているダリヤに二人は異母姉からの手紙について訊ねてみた。
するとぷっ、と即座に吹き出された。
「おかしいことですか?」
サボンは問いかけた。
「全く…… お主等には欲が無いから困るものだな。そのマドリョレシナ? マドリョンカ? というお主の姉と結婚するというのはどういう奴だ?」
「あ、はい。副帝都で隣に住んでいた男の子で…… 彼はシャンポン様の方が好きだと思っていたのですが」
「で、そのシャンポンとやらは、その男のことをどう思っていたのだ?」
「どうなのでしょう。ずっと私の目には良い友達だと見えていましたが」
つ、とダリヤは隣室に立つと、寝椅子に座って本を読んでもらっているカイを読んだ。
「なあこの子等の姑殿、この情緒の無い娘達に少々教えてやってくれないか?」
「そのお声はダリヤ様。何をでしょうか?」
ありがとう、と本を読んでいた女官を下がらせた。よっ、と立とうとするので「ああそのまま」と素早い足取りでそれを抑えた。
後について来たのが二人分の足音であったことから、カイはアリカとサボンがやってきたのに気付いた。
「まあまあ。何を私に聞きたいんだい」
「いえ」
そこはアリカが自分の姉ということで説明をした。
カイは二人にとって信用のおける人物だとは感じられた。
だが入れ替わりのことまでは言う必要は無いと思った。彼女にとって大事なのは、アリカが自分の息子の新しい嫁である、というただ一点である。
ただとても仲の良い乳母子同士だということだけ伝えてあった。そこに違和感をもたれたら、その時だと。
「まあ、あんたの立場を羨まないお嬢さん方は無いと思うね」
「そうなのですか?」
カイは両手を広げ、呆れた様に肩を竦める。
「考えてもごらん。たった一人の皇太子を産むことができた皇后。それがどういうことなのか判らないのが普通だよ。あたしゃイチヤを見てたから、どういうことか少しは判るけど、普通はこのでかい宮中の女主人になった、としか見ないねえ」
アリカはサボンと顔を見合わせる。そう言えばそうだった。確かにここは広く、そして帝国全土に号令を出す場所で、その女主人なのだ。
「まああんまりにも今までその主が居なかったから皆ぴんと来てないがねえ。特に帝都副帝都の連中は。藩候領に住んでるもんの方が判るんじゃないかね」
「藩候領の方がですか?」
サボンは訊ねた。規模はまるで小さいはずだ、とアリカから聞いていたのだ。彼女自身もお茶会の会話から何となく予想はついたが。
「そう。だって藩候領というのは、藩国だったんだよ。そこの領主様と夫人の姿というのをもっと大きくしたもの、ということが判るんじゃないかね」
「比較対象があった方が判りやすいと」
「あまり難しい言葉を使われてもね。アリカ様はもっと易しい言葉を使った方がいい。そりゃ、難しい言葉を使った方があんたは楽だろうが、聞く側からしたら全くさっぱりだよ」
「はい。できるだけ気付くことがお有りでしたらご指導お願い致します」
「素直で自分が悪かったと思ったらすぐに改めるのはいいんだがねえ」
カイは苦笑した。
「仕方あるまい。これはそういうものだ」
「イチヤももう少しそういうところがあれば生きやすいと思うんだがね…… この先も長く生きていかなくちゃならないんだろうから」
「心配なのですか?」
アリカは訊ねた。
「気にはなるね」
ため息交じりにカイは答えた。
「そういうものなのですか?」
「付き合えたものじゃない、とは思うんだが、それでも若い頃は友達だったんだ。それが歪んでしまったっていうのはやっぱり嬉しいものじゃないよ。あんた等はずっと仲良くいて欲しいね」
アリカとサボンは自分達のことか、と顔を見合わせた。
「彼女が私を見捨てない限りは」
「おやおやアリカの方かね」
「サボンがもし幸福な結婚をして出ていきたいというなら―――」
「何言ってるのよっ!」
思わずサボンは言葉を遮った。口調が、とアリカは止めようとする。
「私はずっとついてるって言ったでしょう!」
「だけどリョセン殿と、もしその故郷に行くことにでもなったら」
「私はここに居るの!」
アリカはそれを聞いて、しばらく次の言葉を探していたようだったが――― やがて黙ってサボンの両手を取って、ぐっと握りしめた。
ダリヤはやれやれ、という顔でそんな二人を眺め、カイは何かありそうだ、と思いつつもそれを顔には出さなかった。
アリカは自分とサボン、両方宛の手紙を見てそう言った。
「行くなら確かに私だとは思うし、実際お祝いしたいとは思うんだけど…… 何故マドリョンカはこんな唐突に言って来たのかしら」
サボンは首を傾げる。実家から出産の祝いは来た。父と兄と、兄の友人は来る。義理の母達も来る。
ところが姉達は来ない。その理由を義母達は話してくれなかった。そしてアリカの側は何かと多忙でそれを気にしている暇も無かった。
「いずれにしても、父上に聞いてみるのがいいのではないでしょうか。結婚なら確実にご存知でしょうし」
「そうね……」
「あと、確かに言われてみればシャンポン…… も来ないのが気になりますね」
つい「様」を付けそうになってしまうのは、昔の癖である。アリカであっても口で慣らしたものに関してはつい、ということもある。
「シャンポン様が来ないのだとすると、マヌェ様がお悪いということが考えられるのだけど」
「そうですね。あの方々は実に仲が良いし」
だが正直、血のつながったサボンにしたところで、上の姉妹がどう行動するのか、したいのか、に関しては判らなかった。況んやアリカからしてみれば、彼女達の行動が理屈で読めない。
マドリョンカが義理の妹への嫉妬や野心で動いているなどとは、全く想像の外のことだった。
*
翌日、発つ支度をしているダリヤに二人は異母姉からの手紙について訊ねてみた。
するとぷっ、と即座に吹き出された。
「おかしいことですか?」
サボンは問いかけた。
「全く…… お主等には欲が無いから困るものだな。そのマドリョレシナ? マドリョンカ? というお主の姉と結婚するというのはどういう奴だ?」
「あ、はい。副帝都で隣に住んでいた男の子で…… 彼はシャンポン様の方が好きだと思っていたのですが」
「で、そのシャンポンとやらは、その男のことをどう思っていたのだ?」
「どうなのでしょう。ずっと私の目には良い友達だと見えていましたが」
つ、とダリヤは隣室に立つと、寝椅子に座って本を読んでもらっているカイを読んだ。
「なあこの子等の姑殿、この情緒の無い娘達に少々教えてやってくれないか?」
「そのお声はダリヤ様。何をでしょうか?」
ありがとう、と本を読んでいた女官を下がらせた。よっ、と立とうとするので「ああそのまま」と素早い足取りでそれを抑えた。
後について来たのが二人分の足音であったことから、カイはアリカとサボンがやってきたのに気付いた。
「まあまあ。何を私に聞きたいんだい」
「いえ」
そこはアリカが自分の姉ということで説明をした。
カイは二人にとって信用のおける人物だとは感じられた。
だが入れ替わりのことまでは言う必要は無いと思った。彼女にとって大事なのは、アリカが自分の息子の新しい嫁である、というただ一点である。
ただとても仲の良い乳母子同士だということだけ伝えてあった。そこに違和感をもたれたら、その時だと。
「まあ、あんたの立場を羨まないお嬢さん方は無いと思うね」
「そうなのですか?」
カイは両手を広げ、呆れた様に肩を竦める。
「考えてもごらん。たった一人の皇太子を産むことができた皇后。それがどういうことなのか判らないのが普通だよ。あたしゃイチヤを見てたから、どういうことか少しは判るけど、普通はこのでかい宮中の女主人になった、としか見ないねえ」
アリカはサボンと顔を見合わせる。そう言えばそうだった。確かにここは広く、そして帝国全土に号令を出す場所で、その女主人なのだ。
「まああんまりにも今までその主が居なかったから皆ぴんと来てないがねえ。特に帝都副帝都の連中は。藩候領に住んでるもんの方が判るんじゃないかね」
「藩候領の方がですか?」
サボンは訊ねた。規模はまるで小さいはずだ、とアリカから聞いていたのだ。彼女自身もお茶会の会話から何となく予想はついたが。
「そう。だって藩候領というのは、藩国だったんだよ。そこの領主様と夫人の姿というのをもっと大きくしたもの、ということが判るんじゃないかね」
「比較対象があった方が判りやすいと」
「あまり難しい言葉を使われてもね。アリカ様はもっと易しい言葉を使った方がいい。そりゃ、難しい言葉を使った方があんたは楽だろうが、聞く側からしたら全くさっぱりだよ」
「はい。できるだけ気付くことがお有りでしたらご指導お願い致します」
「素直で自分が悪かったと思ったらすぐに改めるのはいいんだがねえ」
カイは苦笑した。
「仕方あるまい。これはそういうものだ」
「イチヤももう少しそういうところがあれば生きやすいと思うんだがね…… この先も長く生きていかなくちゃならないんだろうから」
「心配なのですか?」
アリカは訊ねた。
「気にはなるね」
ため息交じりにカイは答えた。
「そういうものなのですか?」
「付き合えたものじゃない、とは思うんだが、それでも若い頃は友達だったんだ。それが歪んでしまったっていうのはやっぱり嬉しいものじゃないよ。あんた等はずっと仲良くいて欲しいね」
アリカとサボンは自分達のことか、と顔を見合わせた。
「彼女が私を見捨てない限りは」
「おやおやアリカの方かね」
「サボンがもし幸福な結婚をして出ていきたいというなら―――」
「何言ってるのよっ!」
思わずサボンは言葉を遮った。口調が、とアリカは止めようとする。
「私はずっとついてるって言ったでしょう!」
「だけどリョセン殿と、もしその故郷に行くことにでもなったら」
「私はここに居るの!」
アリカはそれを聞いて、しばらく次の言葉を探していたようだったが――― やがて黙ってサボンの両手を取って、ぐっと握りしめた。
ダリヤはやれやれ、という顔でそんな二人を眺め、カイは何かありそうだ、と思いつつもそれを顔には出さなかった。
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