反帝国組織MM⑨ジュ・トゥ・ヴ~本当に彼を求めているのは誰なのか何なのか

江戸川ばた散歩

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4.「お前どうして中佐が好きなの」

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「でもあれも、大きな敵はうちと同じなんだろう?」

 帝国、という大きな敵。果たしてそれを打倒することができるのか、それすらも判らない大きな「敵」。

「看板としてはね……」

 キムは言葉を濁す。看板として。では大義名分はどうあれ、あの組織の本当の目的は違うというのだろうか。Gは目を細める。

「ま、でもそれは俺が言うことじゃないよ」

 キムはそんな彼の表情に気付いたのかどうなのか、あっさりとそう結論づけた。

「俺にかんぐりを入れるのはまだ早いってば」
「気付いていたのかよ」

 Gはやや口を歪めた。その様子を見て、キムは長い栗色の髪の毛をかきあげた。

「それはさ。俺が言うことじゃないの。少なくとも俺は、お前には言うな、と言われてる」
「……」

 その言うなと言った人物は。

「判るだろ? 誰なのか」
「ああ」

 長い黒髪の、あの麗人の姿が瞼の裏をよぎった。彼らが盟主、彼のかつての「司令」。反帝国組織MMの、全ての頂点に立つ、盟主M。
 天使種の、偉大なる第一世代。やんごとなき皇室とも関わりがあるらしい、その存在は、彼ら最高幹部以外には確認されていないとも言える。
 あのひとは一体何を考えているのだろう。
 それは彼にとって、進めたくない疑問だった。だが忘れてはならない疑問だった。
 何故なら、彼の最初の罪を犯させたのは。

「じゃ話を変えよう」

 どうぞ、とキムはやっと笑顔を見せる。

「その質問以外だったら、俺は答えましょ」

 禁じられてはいないのだ、とその言葉の中には含まれている。それだけは禁じられているのだ。キムはそれを言うことで、機能の一部を壊されかねないのかもしれない。
 ではそれ以外なら。

「下世話な質問、してもいい?」
「珍しいね。どうぞ」
「お前どうして中佐が好きなの」

 え、とさすがにそれは予想外だったらしく、キムの表情は止まった。

「他の質問には答えてくれるんでしょ」
「嫌がらせ?」
「嫌がらせ」

 ゆったりと言うと、彼は頬杖をついたままふふ、と笑う。そのくらいの意趣返しはしてもいいではないか。これはあくまでプライヴェイトに関することだ。下世話な、実に下世話な興味に過ぎない。

「どうしても俺に聞きたいの?」
「答えるって言ったのはお前だよ」
「いじわる」

 キムはそう言って軽く人差し指の爪で自分の頬をひっかいた。
 爪を見ると、彼はあの中佐の鋭く、長いそれを思い出す。
 真っ赤な髪と、金色の瞳を持つ、戦闘用サイボーグの、帝国正規軍の中佐。正規軍の軍警に属しているくせして、彼らの組織の最高幹部格だったりする。
 いやその逆か、とまだ言葉を探しているキムを眺めながら彼は思い返す。
 盟主は自分の手の者を軍警に送り込んだのだ。そして組織の人間を取り締まらせて、その仮面に隠れて、もう少し上の敵や、内部の裏切り者を葬らせる。
 キムが盟主の「連絡員」だとしたら、中佐は「銃」だと聞いたことがある。
 この二人が何処をどうしてそういう関係なのか、Gは知らない。だがその呼吸の合い方には、やや羨ましいものを感じる程、奇妙な穏やかさを感じるのだ。
 だから下世話とは言え、なかなか興味深いものであったのは事実なのだ。

「んーと」

 ようやくキムは言葉を見付けたらしい。彼からは目をそらしながらも、長い髪を手でもてあそび、時々小さな一房を編んだりしている。そういえば、その昔このレプリカントに髪を編むことを教えたのは、自分だったはずだが。

「ほらこっち向いて」

 意地悪な気分が、彼の手を動かす。ぐい、とキムの顔をGは自分のほうに向かせた。ぺん、と連絡員はその手を軽く打った。

「あのさ」
「うん」
「あのひとは、俺をいつか殺してくれるからだよ」

 え? と彼は、思わず問い返していた。キムは同じ言葉を繰り返す。テーブルに左の肘をつくと、連絡員は、目を半ば伏せる。

「俺がしばらく人形だったことは言ったろ? お前と、あの惑星で離れたあと」
「ああ」
「レプリカントは負けて、俺は人形になって、それからMに拾われるまで、ずーっとそうだった。俺はもうああなるのはやだ」
「―――お前」
「だから俺はMに言った。再起動させてくれた時、今度どっかの惑星で、Mの手の届かないとこで捕まってまた人形にされてしまった時には、俺を殺してくれって」

 でもそれは、笑顔で言うべきことじゃないと、思う。

「だってもう何処にもレプリカはいないんだし、ってね。だけどさ」
「だけど?」
「レプリカは居たんだ。遠い惑星に。とりあえず俺はそれを頭においておけば、生きていけるけど…… だけどもし、本当に、また、人形になるようなことがあったら、そんときは、あのひとが、殺してくれる。俺という存在を完全にばらばらにして、消し去ってくれると言った。約束した」

 胸が痛い、とGは思った。
 確かあの時会ったレプリカントは、自分にそんなことは言わなかったはずだ。とにかく生きて、とにかく戦って、やったことの是非は自分達が決めることではない、と言い切ったはずではなかったのか。

「でもあのひとは、それでも俺を再起動させに来るんだよ?」

 くくく、とキムは口の中で笑う。

「ある一定以上の時間が、機能停止からかかる前に、あのひとは、何か、飛んでくるんだよ。何処に居ても、何してようと。……ねえ俺って、幸せものだと、思わない?」

 何と答えていいものか、彼には判らなかった。
 ひとしきり、沈黙が続いた時、どちらともなく、口を開いた。

「仕事の話をしようか」
「そうだね」

 キムはうなづいた。

「だからお前さんの仕事は、そのエビータと会って、できるだけこっちの味方につけること、なんだよ」
「相変わらず曖昧な命令だね」
「それが俺達の立場って奴でしょ」

 最高幹部なんて名をもらっているからには、とキムは言外に含める。

「曖昧だけどそれを遂行するための権限だけは大層な量、俺もお前も与えられてるんだから」

 だから成功させなくてはならないんだ、と言葉の裏に、盟主の影が見え隠れする。

「それに、同じことを考えてる同業者は多いはずだ。今行くと、きっと、同業者の、しかもエキスパートの吹き溜まりだ」

 なるほど、とGはうなづいた。
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