反帝国組織MM⑨ジュ・トゥ・ヴ~本当に彼を求めているのは誰なのか何なのか

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
10 / 33

9.キャサリンとクローヴァ姉妹

しおりを挟む
 身体にぴったりした、タキシードによく似たその給仕服は、特注だろうか。男のものを仕立てなおしたのだろうか。起伏の大きい彼女の身体の線を被いながらも際だたせている、と彼は思った。
 服の下の肉体が、隠されたまま、自己主張をしている。
 彼は身体ごと彼女の方を向くと、穏やかに笑った。

「居ますが。まだ仕事時間は残っています」
「そうか。では残念だな」
「何か僕にご用ですか?」
「いや特に用は無い。だがあまり水曜日の最後のショウは見て楽しいものではないからな」

 水曜日の最後のショウ?

「どういうことですか? ミズ……」
「キャサリンだ」
「ではキャサリン……」

 そう言ってから、彼はふとその名が、ハウスキーパーのエルディの姉の名であることを思い出した。だがここで彼はそれを口にはしなかった。

「……ええ…… キャサリン、どういうことですか? 水曜日のショウ、と特別言うからには何か特別なことがあるのですか?」
「君は外から、最近来たのだったな? サンド君」

 彼女はペリドットのような若草色の目をやや細め、やや横目にGを見た。彼はうなづく。

「無論外にも、色んな趣味の者は居るのは判る…… だが別に見なくていいものなら、見たくないものというものはあるだろう?」

 細い眉がく、と歪む。眉と眉の間に、深い皺が刻まれた。そして彼女はポケットから細い、長いシガレットを取り出すと、火をつけた。軽い香りが、彼の鼻をつく。

「……まあいい。どんなショウか、判れば水曜日に休暇をもらっても誰も文句は言うまい……」
「でも僕の仕事ですから……」
「ふん」

 すると彼女はく、と自分とほとんど同じ目線の彼の顔を自分の方に向けた。重ねられた唇から、先ほどのシガレットの香りがするのを感じる。

「……何を……」
「ふん、驚きもしないな」

 彼はそういう彼女を軽くにらみつける。だが目の前の男装の女はびくともしない様だった。

「遊びだったら止してくださいよ。僕はそういうつもりはない」
「だがこの惑星に来たのだろう?全くのうぶという訳でもあるまい」
「……それは…… そうでしょう。あなただって」
「当然だ」

 半分まで吸った煙草を、近くの灰皿にく、と擦りつける。

「こんなところで、そんなもの守っていたところで、何にもならない、ということだ。まあそれは君が他人だから言えることかもしれないがな」
「あら、そういうこと言うのかしら? お姉さま」

 キャサリンの肩が片方、少しばかり引いたと思うと、澄んだ声が、彼の耳に飛び込んできた。

「初めましてピアノ弾きさん」

 キャサリンを姉と呼ぶなら…… これはクローバアだ、と彼は記憶をひっくり返す。エルディの、もう一人の姉なのだろう。
 姉よりやや濃い色の髪の毛が大きくゆったりとウェーブして、広く開いた背中の半分までを被っている。
 そしてやはり広く開いた胸は谷間も深く、衣装にくるまれた部分はぽん、と丸く張り出している。隠れていない部分は、やや上気してうっすらと赤く染まっている。
 姉とは別の意味で、ひどく美しい女だ、とGは思った。
 姉の瞳がペリドットとすれば、この妹のそれは、アメジストだった。姉のような鋭さの代わりに、女性特有の柔らかさがその色にはかいま見えたような気がした。
 むき出しの腕は白く細く、しなやかだ。そしてその腕を姉の首に後ろからまとわりつかせると、クローバアは彼に笑いかけながら言った。

「お姉さまはあなたが可愛らしいからそんなこうおっしゃるのよ」
「か」

 可愛らしい? 彼はさすがにその言葉には目を大きく見開いた。

「……そ、それは……」
「うふふ」

 小首を傾げて、クローバアは透き通った声で笑う。新たな煙草に火をつけると、キャサリンは妹をたしなめる。だが決してその声には非難の色はない。

「からかうのはよしておけ」
「あら、だって先にからかったのはお姉さまだわ。あたしにお姉さま以上の何ができましょう?」

 Gはその会話に今更戸惑いはしなかったが、戸惑うふりだけはそのまま続けていた。  

「あなたはこの後の出演なのですか?」

 だが名前は言わない。名前をまだ彼は彼女の口から聞いてはいないのだ。

「名前を呼んで。それが好きよ。クローバアよ。幸運の葉の名よ。ええあたしはこの後には今日は出ないわ。出てたまるものですか」

 最後の言葉は、吐き捨てるかのようだった。そして姉もまた、全くだ、とそれに同意を示す。

「あたしにも一杯、いただけないかしら? お姉さま」
「ああ、いいだろう。ほら」

 キャサリンは腰のポケットから、カクテルのためのコインを一つ出すと、妹に渡した。普段は持っていないのだろうか、と彼がやや疑問に思う。するとクローバアはその視線に気付いたのか、言った。

「この服の何処にポケットがついていると思って?」

 全くだ、と彼はうなづいた。模造パールがとりどりにつけられた歌手や踊り子の衣装には、そんな余裕は、少しも無いかのようだった。
 ありがとお姉さま、と一言言うと、クローバアは身軽に身体を翻し、カウンターへと早足で歩いて行った。

「……何やら不服そうな顔だな」

 アルトの声は、大きく開いた背を眺める彼の肩にぶつかった。

「可愛いなんて言われて、はいはいと素直にうなづけはしませんよ。僕は男なんですから」

 彼は多少の抵抗を試みてみる。

「だが本当なら仕方ないだろう? それとも君は、男は逞しく女はたおやかであるべきなどと思っている類か?」
「そういう訳ではありませんが……」

 すると彼女はく、と笑い、シャツにくるまれたそのしなやかな腕を、彼の首に巻き付けた。
 ずいぶんと強い力だ、と彼は感じる。だが彼の知っている男達とは違い、その力の入れ具合は、確かに女性特有の感覚だった。悪くはない、と彼は思う。別段彼は女性が嫌いな訳ではないのだ。

「だったら素直に誉め言葉と取ればいい。そのほうが、楽だろう?君のような容貌の者は」
「どうでしょうね」
「楽だぞ」
「あまり僕は、楽であることと縁が無いのですよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...