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25.天使種が自種以外の共生体型変化系生命体を絶滅させたことについて
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「必要。そうきっと必要なんだろうな。あの戦争で、たくさんの種族が抹殺されたのも、戦争が終結した後に多くの同胞を粛正したのも、きっと必要だったんだろうな」
キムはぐっ、と言葉に詰まった。それは、確かに、そうだ。起こったことだ。だがキムにとってそれは大したことではないのも事実だった。
「俺には…… 関係ない」
「ああそうだろうな。君には言う資格がある。君には関係ない。君は抹殺された側の稀少種族だし、そもそも君は人間じゃあない。君には言う資格がある」
「鷹、あんたは……」
「だが俺からしてみれば、ただの大量虐殺だ。ニイ、お前の故郷は、そもそもは何で集団で移民しなくてはならなかった?」
不意に振られた部下は、はっと顔を上げた。そしていつもの元気からは想像もできない様な声を立てる。
「……大戦中、俺の祖父やそのまた上の人々の住んでいた惑星は、アンジェラスの軍勢によって、絨毯爆撃を受けました。生き残ったのは俺の祖父と、ほんの僅かな人々だけです」
「そうだったよな」
ニイは首を縦に振る。
「祖父は移民した惑星では、それまでとはまるで違った風習や、外見のためにずいぶんと苦労しました。そもそも外見が違いすぎました。……俺はこうやってまだ色の濃い方に混血されてきたけど、祖父は、移民した惑星にはそういない、薄い色の髪の種族でした。そのせいもあってか、祖父の、故郷でのその逆の観念のせいか、そのあたりは判らないけれど、どれだけがんばっても、貧しさから脱却できなかった。だからその娘だった俺の母親は、子供の頃から苦労したそうです。俺が今の職につけたのは、軍に入ったからです」
「そうだったな。こいつが少しでも社会的地位をつけるためには、そういうところにとりあえず潜り込むことしかなかった。正規軍は、一応赴任地は全星域を宛てている。建て前として、どの種族であろうが出身が何処であろうが関係はない。おかげで俺は、出来のいい部下をスカウトすることができた」
「感謝してます」
「よせよ照れるじゃないか」
そう言うと、ハンドルから両手を離した。ニイはあ、と声を立てる。にや、と部下に笑いかけると、鷹はすぐに手を元に戻した。
「さて、そういう例はニイだけじゃない。稀少種族に例を取ろうか? 例えばキム君、君は、『銀の歌姫』種を知ってるだろう?」
「母星からことごとく連れ出され、大戦中の色んな勢力のプロパガンダに使われたって連中だろう? あの場合は、種族そのものが絶滅したってことではなく」
「そう。あの場合は、その声に強力な力を有する個体が産まれなくなった、というのが正しいんだけどね。条件の厳しい惑星に移民せざるを得なかった場合、人間は案外しぶといもので、どうやってでも生きようとするらしい。この場合は、身体の方を変化させている。我々と同じくね」
共生体だ、とその昔、自分のリーダーが言っていた。
天使種は、自分達と同じ様に、別の生物との融合体なのだ、と。
「まあ我々と違って、あれは何かと融合した訳ではない。純粋なる変化、だ。生きるために、元々あったらしい能力を、気の遠くなるようならせんの遠い彼方から呼び起こし、増幅させたらしい。そのあたりの詳しいことは判らない。何せもう、そのサンプルたる『歌姫』はこの我々の知る星域の何処にも存在しないのだから」
「一体何を言いたいんだよ」
「では本題に入ろうか」
今までのは本題ではなかったのだろうか、とキムは内心思う。
「今例に出したのは、純粋な変化を起こした稀少種族の場合だ。さてここで、変化を起こす場合には二種類あるのを君は知っているね?」
「体内の遺伝情報の中から、生活条件に合うものを掘り起こして増幅させる型……」
「それはさっき言った。もう一つ」
「共生体。あんたらのような」
そしてキムは重ねて言う。
「天使種のような、共生体だよ」
そしてある意味、自分達のような。
「そうだね」
キムの念押しに対し、鷹は軽く答えた。
「だが天使種が共生体であることは、現在は機密事項になっている。口に出すことは可能だ。だがそれは現在においては大した意味を為さない。何故だと思う?」
「何故だ?」
「彼等はあの大戦中、そして粛正の季節において、特に共生体種族を狩った。何故だと思う?」
今度は自分が念を押されたことにキムは気付く。判らない、と口には出す。出すしかない。
「判らないはずはないよ。キム君。いや、君は言いたくないんだ。天使種は、共生体の情報を歴史の中から抹殺するために、それを行った。自分達がそうであることを悟られないために。人間より優れた能力を持った、長く若く、『死なない』種族。その存在を人間以上のものと定義づけるために、同じ様なタイプの変化した種族を狩ったんだ」
「……違う」
キムは首を横に振る。
「何が違う?」
違う、と言いたかった。もう一度言いたかったのだ。リーダー、とニイが声をかけた。
「まあいいさ。さて、その共生体の中に、シャンブロウ種というのが居た。どういうものか、知っているだろう?」
「……ああ」
「オリイはあの生き残りだ」
「そんなはず」
だって、あの種族が全滅したのは。
「昔すぎる、と言いたいかな?」
「……ああ。だって、シャンブロウ種が絶滅したのは、200年も前じゃないか」
「公的にはな。もう少し幅はある。だけどまあ、だいたいその辺りだ。俺があれに会ったのは」
「つまり」
キムはやや苦い顔になると、ざらりと長い髪をかき上げた。
「それはあんたを選んだから、ということか?」
キムはぐっ、と言葉に詰まった。それは、確かに、そうだ。起こったことだ。だがキムにとってそれは大したことではないのも事実だった。
「俺には…… 関係ない」
「ああそうだろうな。君には言う資格がある。君には関係ない。君は抹殺された側の稀少種族だし、そもそも君は人間じゃあない。君には言う資格がある」
「鷹、あんたは……」
「だが俺からしてみれば、ただの大量虐殺だ。ニイ、お前の故郷は、そもそもは何で集団で移民しなくてはならなかった?」
不意に振られた部下は、はっと顔を上げた。そしていつもの元気からは想像もできない様な声を立てる。
「……大戦中、俺の祖父やそのまた上の人々の住んでいた惑星は、アンジェラスの軍勢によって、絨毯爆撃を受けました。生き残ったのは俺の祖父と、ほんの僅かな人々だけです」
「そうだったよな」
ニイは首を縦に振る。
「祖父は移民した惑星では、それまでとはまるで違った風習や、外見のためにずいぶんと苦労しました。そもそも外見が違いすぎました。……俺はこうやってまだ色の濃い方に混血されてきたけど、祖父は、移民した惑星にはそういない、薄い色の髪の種族でした。そのせいもあってか、祖父の、故郷でのその逆の観念のせいか、そのあたりは判らないけれど、どれだけがんばっても、貧しさから脱却できなかった。だからその娘だった俺の母親は、子供の頃から苦労したそうです。俺が今の職につけたのは、軍に入ったからです」
「そうだったな。こいつが少しでも社会的地位をつけるためには、そういうところにとりあえず潜り込むことしかなかった。正規軍は、一応赴任地は全星域を宛てている。建て前として、どの種族であろうが出身が何処であろうが関係はない。おかげで俺は、出来のいい部下をスカウトすることができた」
「感謝してます」
「よせよ照れるじゃないか」
そう言うと、ハンドルから両手を離した。ニイはあ、と声を立てる。にや、と部下に笑いかけると、鷹はすぐに手を元に戻した。
「さて、そういう例はニイだけじゃない。稀少種族に例を取ろうか? 例えばキム君、君は、『銀の歌姫』種を知ってるだろう?」
「母星からことごとく連れ出され、大戦中の色んな勢力のプロパガンダに使われたって連中だろう? あの場合は、種族そのものが絶滅したってことではなく」
「そう。あの場合は、その声に強力な力を有する個体が産まれなくなった、というのが正しいんだけどね。条件の厳しい惑星に移民せざるを得なかった場合、人間は案外しぶといもので、どうやってでも生きようとするらしい。この場合は、身体の方を変化させている。我々と同じくね」
共生体だ、とその昔、自分のリーダーが言っていた。
天使種は、自分達と同じ様に、別の生物との融合体なのだ、と。
「まあ我々と違って、あれは何かと融合した訳ではない。純粋なる変化、だ。生きるために、元々あったらしい能力を、気の遠くなるようならせんの遠い彼方から呼び起こし、増幅させたらしい。そのあたりの詳しいことは判らない。何せもう、そのサンプルたる『歌姫』はこの我々の知る星域の何処にも存在しないのだから」
「一体何を言いたいんだよ」
「では本題に入ろうか」
今までのは本題ではなかったのだろうか、とキムは内心思う。
「今例に出したのは、純粋な変化を起こした稀少種族の場合だ。さてここで、変化を起こす場合には二種類あるのを君は知っているね?」
「体内の遺伝情報の中から、生活条件に合うものを掘り起こして増幅させる型……」
「それはさっき言った。もう一つ」
「共生体。あんたらのような」
そしてキムは重ねて言う。
「天使種のような、共生体だよ」
そしてある意味、自分達のような。
「そうだね」
キムの念押しに対し、鷹は軽く答えた。
「だが天使種が共生体であることは、現在は機密事項になっている。口に出すことは可能だ。だがそれは現在においては大した意味を為さない。何故だと思う?」
「何故だ?」
「彼等はあの大戦中、そして粛正の季節において、特に共生体種族を狩った。何故だと思う?」
今度は自分が念を押されたことにキムは気付く。判らない、と口には出す。出すしかない。
「判らないはずはないよ。キム君。いや、君は言いたくないんだ。天使種は、共生体の情報を歴史の中から抹殺するために、それを行った。自分達がそうであることを悟られないために。人間より優れた能力を持った、長く若く、『死なない』種族。その存在を人間以上のものと定義づけるために、同じ様なタイプの変化した種族を狩ったんだ」
「……違う」
キムは首を横に振る。
「何が違う?」
違う、と言いたかった。もう一度言いたかったのだ。リーダー、とニイが声をかけた。
「まあいいさ。さて、その共生体の中に、シャンブロウ種というのが居た。どういうものか、知っているだろう?」
「……ああ」
「オリイはあの生き残りだ」
「そんなはず」
だって、あの種族が全滅したのは。
「昔すぎる、と言いたいかな?」
「……ああ。だって、シャンブロウ種が絶滅したのは、200年も前じゃないか」
「公的にはな。もう少し幅はある。だけどまあ、だいたいその辺りだ。俺があれに会ったのは」
「つまり」
キムはやや苦い顔になると、ざらりと長い髪をかき上げた。
「それはあんたを選んだから、ということか?」
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